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16話 いざバカンスへ

「師匠の休暇って何をしているのですか?」

 恐る恐る聞いてみる。

「私の休暇ですか? 私は毎年、南にある国、ウカノミタマでバカンスをしています。国を挙げてのお祭りがあるので楽しいですよ」

「異教のお祭りに参加するんですか? 司教として大丈夫なんですか?」

「心配はいりません。そもそもうちは宗教組織ではありませんから」

 そうだったの!? でも司教なんですよね?

「おかしなことを聞きますね。ユウは。ところで、これから夜ご飯ですか? 私もこれからなのでご一緒してもよろしいですか?」

「もちろんですわ! 師匠!」

 マジで……!? また、飲んで大暴れされるかもしれない。

「顔に出てますよ? ユウ?」

「すみませんでした!」

「いえ、構いませんよ。お酒に付き合っていただければ」

 師匠に両肩を掴まれる。あまりの力に全く体が動かせない。

「僕はそろそろ巡回に戻るから。バカンス楽しんでね!」

 ネクサスはそそくさと逃げていった。大事なときに助けてくれない。

「これで今日は楽しく飲めます。ありがとうございます。ユウ」

「良かったですね! 師匠!」

 アメジストと師匠は顔を見合わせて喜んでいた。何でだ……

「私も早く飲んでみたいですわ」

 お願いだから酒癖の悪さは伝授されないで。


 ウカノミタマへ向かう馬車の荷台で揺れる。まだお昼なのに師匠はワインを一本空けた後、ワインボトルを抱いて寝てしまった。

「うぅ、気持ち悪いよ~、アメちゃん」

「……私もダメだから何も言わないでくれるかしら」

 あの主従は酔って外の空気を吸うために荷台から顔を出している。

「ユウさんは何で無事なんですかー? それに本まで読んでー」

 サファイアは外に顔を出したまま話しかけてきた。

「さあ? 元々の体質かな? 酔わない方だから」

「……何を読んでいるのよ?」

 手に持っている本の表紙を見てタイトルを読み上げる。

「暗殺者御用達関節技大全基本編」

「……何その本?」

「伝説の暗殺者が使った、と言われている関節技を図解で解説してくれている本かな」

「……胡散臭いわね。伝説の暗殺者って何よ?」

「伝説だから正体は不明だってさ。でも、関節技の方は初心者でも分かりやすく丁寧に説明してくれているよ」

 我ながら頭の悪いことを言っている気がしてならない。

「……そう気に入っているのならいいわよ」

 アメジストは喋る元気も無くなり何も言わなくなった。


『ダーリン! 私も荷台に乗りたい!』

「ダメ。狭いから」

 一人でも実体化を許すと全員実体化する。そうなってしまっては本も読めなくなるくらい狭い。今でも3人寝て転がっていてとても狭いのに。更に、揺れるからアメジストとサファイアの尻と師匠の足が襲ってくる。何でアメジストとサファイアは腰上げて倒れているのか。ただでさえ大惨事なのにこれ以上酷くするようなことを認められるわけがない。

「近くの村で少し休憩にしますね!」

 御者さんが気を使ってくれたのだろう。

 少し経つと馬車が止まる。見晴らしの良い丘の上にある、のどかな村だ。遠くには海と大きな港町も見える。

「あれがウカノミタマですよ。市場に、宿屋街、ビーチと、観光する場所はたくさんありますからゆっくり見て行って欲しいものです。オススメは市場にある海鮮料理屋です。新鮮な海鮮が食べられるのはウカノミタマぐらいですから。食べないともったいないってもんです」

「ありがとうございます。海鮮かぁ、久しぶりだから楽しみ」

 この世界に来て海鮮は食べてなかったな。リーベル王国は内地だから、海鮮がテーブルに並ぶことが無い。

「ようやく見えてきましたね。ウカノミタマ」

 師匠が伸びをしながらやってきた。

「師匠。起きてたんですか?」

「ええ、少し前から起きていました。村を回り、病人を治療してきたところです」

「いつの間に!? さっきまで寝てましたよね?」

 師匠に冷ややかな目で見られる。

「いつの話をしているのですか? ユウ?」

「すみませんでした!」


 業者さんが馬車に戻り、師匠と二人きりになった。

「アメジストちゃんの国はここからは見えませんね。見えない方が本人には良いのでしょうけど」

 師匠は海とは真逆の方向を向いて言った。アメジストの国……

「リーベルから南西にあった国ダグザ。そこがアメジストちゃんが居た国です。ある魔王によってダグザの王は殺されました。魔王はネクサス様が封印しましたが。ダグザの王の死からまだ一週間近くしか経っていません」

 優しい風の中、師匠は静かに語る。

「アメジストちゃんには復讐しか生きる糧が無いのです。彼女が幼い頃から師匠として面倒を見てきました。復讐が終わったとき彼女は自分自身も終わらせようとするのではないかと思うと……私は怖いのです。自身の子供のように彼女を成長見てきましたから」

 しみじみとしている師匠、少し冗談でも言って元気づけようか。

「まあ、おばあちゃ……!」

 最後まで言う前に体を掴まれ振り回される。

「何か失礼なことを言おうとしていませんか? ダメですよ? そんなことをしろなんて教えていませんよ?」

「すみませんでした! 本当にすみませんでした!」

 やっと降ろして貰い息も絶え絶えで地面が揺れているように感じる。三半規管がやられてしまったようだ。

「そうですね。次、同じようなことをやったら、埋まって貰いましょうか。大丈夫です。頭は地面から出してあげます」

 あまりの恐怖に言葉が出ない。

「冗談です」

 師匠が小さく笑った。やったあとにもう一度言いそうだ……


「アメジストちゃん、サファイアちゃん、もう大丈夫ですか? そろそろ出発しますよ?」

「はい……大丈夫です……わ」

「……大丈夫で……すー」

 二人とも真っ青な顔をして俯いている。

「あまり効果はありませんが酔い覚ましの魔法をかけておきましょう」

 二人の顔色が少し良くなった。

「そろそろ出発しても良いですかね?」

「はい、お願いします」

 師匠と御者が少しやり取りをしている。その後、御者が全員乗り込んだことを確認し終えると馬車が動き始めた。


 海の香りがする。海鳥の鳴き声が聞こえ始めた。多くの人の喋り声、馬車の音が聞こえる。揺れも納まった、整備された道に入った証拠だ。外を見るとウカノミタマの門が見える。

 門番が荷台の検査の為に入ってきた。

「これは酷いですね。酔っ払いが一人寝ていて、馬車旅に慣れていないのか二人倒れている。検査的には問題ないですね。では、通っていいですよ」

 馬車が門を抜ける、遂にウカノミタマ! レンガで舗装された道、建物は白を基調としていて都市全体が明るい。

「ウカノミタマは一つの都市で成り立っている国で都市名もウカノミタマ、元首は議会です。あの大きな建物が議会です。宿屋街は海とは反対側にありますから。宿屋街は港側とは変わって木の建物ですから、分かるはずです。馬車は市場に着きますから。そこで降りてくださいね。ここは私の地元ですから、何かありましたら聞いてください」

 業者さんの地元だったのか、どうりで詳しいはずだ。

「ありがとうございます。その時はお願いします」


 市場に着いた。起きない3人を精霊達と御者に手伝って貰って荷台から降ろす。

「おはようございます。市場は相変わらずお魚と海の匂いが凄いですね」

 アメジストとサファイアは自分の肩にもたれかかり、なんとか立っている。

「市場でお昼にしましょう。海鮮丼を食べますよ! ついてきてください!」

「「はぁぁ……いぃ……」」

 うなされるように二人が返事をした。先行きが不安だ。

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