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13話 賢者と魔王

『申し訳ございません。ご主人様。私が居ながら……』

 シルフは顔を俯かせてしまう。

「ありがとう。シルフ。居てくれなかったら、流されてたと思う」

『……ご主人様』

「アメジストに報告しないと」


「そうね、師匠の推薦なら断れないわね」

 そうなるよな……師匠の推薦は断れない……

「報酬はしっかり貰うのよ。根こそぎ貰うのよ!」

「お、おぅ」

「アメちゃん興奮し過ぎだよー、ユウさん引いてるよー?」

 いつも通りソファーでくつろいでいるサファイアの一言が効いたのかアメジストは頬を膨らませて何も無言になった。

「アメちゃん、そんなに怒らないでよー。ごめんってばー」

「怒ってないわよ!」

 それは誰が見ても怒ってる。

「それにしても賢者が魔王化……大丈夫なの? ユウ」

「……大丈夫とはどういうこと?」

「そういえば、賢者について何も知らないのよね。説明してあげるわ」

 アメジストはサファイアが寝そべっている横に座り、足を組む。

「賢者とは、この国では魔法または魔術の研究者のトップ連中であり王族、貴族と民の橋渡し役といった感じかしら」

「橋渡し役……?」

「ええ、政治をする王族、貴族に直接陳情することが出来ないから代わりに賢者に陳情しているの。賢者は生活に役立つ魔法、魔術の研究もしているから、賢者が解決してくれることも多いらしいの」

「なるほど、役人みたいな感じかな」

「みたいというか実際に役人なのよ。4人いる賢者がそれぞれ違う分野を担当していることも覚えておくといいわ」

「4人も居るんだ」

「商会所属、生物などの魔術の研究をしているアレイスター、騎士団所属、日常生活に関する魔術の研究をしているエリファス、教会所属、闇属性魔法を研究しているキルケー、そして、賢者の統括をし、無属性魔法の研究をしているマーリンの4人ね。たぶん、全員本名ではないわよ」

「たぶん?」

「エリファス以外の3人は代替わりしてるのよ。エリファスは代替わりもしてなければ人前に出ることもないから良く分からないわ。まあ、騎士団に陳情すれば動いてくれるみたいだから居ないわけではない……のかしら」

 きな臭いな……

「でも、今回の件とは関係ないとおもうわよ」

「えっ? 何で?」

「エリファスは魔術専門で魔法は使えないのよ。魔王化は魔法が使えることが最低条件のはずよ」

「……魔法と魔術の違いって何? 同じではないの?」

「使用者自身の魔力を使うのが魔法、自然などの外部の魔力を使うのが魔術ね」

『ユウくんは魔力を持っているから魔法を使えるの。魔法でお姉ちゃん達に指示を飛ばしているって考えてね』

 ノームがパジャマ姿でリビングに入ってきた。もう夕方なんだけどな。

「私も魔王化についてはこれ以上詳しくないけどね」

『夕食が出来ました。歓談は終わりにしてください』

 シルフとサファイアが配膳する。うどんだ!

『うれしそうですね。顔に出てますよ。単純ですね。可愛いですよ』

 そんなに顔に出る?

『お姉ちゃん的にはユウくんはそんなところが可愛いよ!』

 うん、分かったからうどんを食べてもいいよね。もう我慢できない。


『おはよう。ユウ。そろそろ起きた方がいいと思うよ』

「あぁ……おはよう」

 ウンディーネ、また上に乗ってる。

「そろそろ降りて欲しいんだけど?」

『……うん』

 ウンディーネは悲しい顔をしてぎゅっと抱き着いてくる。

『もう少しだけ……このままで……』

「……遅れるからほどほどに」

『ほどほどに、ではありません。もう出ないと遅れますよ。ご主人様』

 シルフがドアの前に居た。

「……本当に?」

『ええ』

「ウンディーネ! 起きて! 起きてー!」


「はぁ、朝から疲れた」

 詰め所に着いた。アメジストとサファイアはいつも通りついて来ない。

『私が居なければ今頃どうなっていたことか、しっかりしてください。ご主人様』

 シルフに小言を言われていると詰め所に着いた。騎士に敬礼される。

「勇者様。転移魔術の準備が出来ております。こちらにどうぞ」

 案内されるままに転移魔術で転移する。

 視界が開けると窓の無い暗い部屋に着いた。

「よかった。来てくれないのかと思ったよ。僕は」

 すぐにネクサスに声をかけられた。

「彼が司教の弟子かな? 初めまして、私はマーリン。賢者の統括をしている者だ」

 白髪の若い男が名乗った。彼がマーリンのようだ。飄々としていて読めない、強者感が半端ない……

「……マジか。生きていたのか!? ユウ!」

 ……その声は!?

「またか! また居るのか! ゴリラ!」

「俺はゴリラではない!」


「全員集まったね。僕から説明させてもらうよ」

 自分合わせて4人しか居ない。大丈夫なのか?

「魔王化した賢者、アレイスターを制圧または倒すことが目的だよ。先日、詳細には言えないけど、ある山の中で自らに封印を施したアレイスターが発見されたんだ。マーリンに調べてもらったところ魔王化し暴走しかけていることが分かった。対処しなければ民に被害が出る可能性もある。よって、我々は現地に行き封印を解き、暴走を止める」

 魔王化……暴走……

「魔王化について説明しないのかい? ネクサス。二人共ついて行けてないようだけど」

 全く分かっていない顔をしている自分とゴリラにマーリンが助け舟を出してくれる。

「そうだね。魔王化とは、体にある魔力の構造が変化した結果なんだ。魔王化するとより魔力を蓄えコントロール出来るようになる。魔力を持たない一般人なら魔王化できないね。勇者が魔王化した例も無いね。魔王化しなくても魔力を充分に使えるから魔王化しないってのもあるかな。魔王化については今も研究中だから分からないことの方が多いけど」

 魔王化すればする前より魔法が扱えるようになるということか……というか自力で魔王化できるのか……

「暴走は……まあ、魔力が暴走し理性が無く、狂っている状態なんだよね。何回かあったけど、ほぼ意識が無く、本能で暴れているって感じかな。基本的にもう助けられない」

 助けられない、その言葉が重い。

「私も頑張ってみるけど、期待はしないでくれ」

 マーリンも諦めているようだ。何で簡単に諦めれるのだろうか……?

「さて、具体的な作戦に移るよ。僕とマーリンで取りあえず頑張ってみるから、君たち勇者には援護を頼みたいんだ。アカツキくんは盾で、ユウくんは精霊魔法でお願いするね。まあ、行こうか!」

「……それだけ?」

 おもわず口にしてしまった。

「本来ならこれは国でやらないといけないことだからね。それに時間があまり無いから、行こう」


 作戦会議が終わり転移すると森の中の花畑だった。その花畑の中心に5m位の人型に近いトカゲのようなものが浮いていた。その肌は金属の用に滑らかで光沢を出していて、驚くべきことに顔が無かった。

「見る影も無いけどあのトカゲっぽいものがアレイスター。今から封印を解くから、アカツキくんは盾でユウくんを守ってあげて」

「ああ、分かったぜ! オーダー・ガーディアン!」

 ゴリラが叫ぶとゴリラの前にトカゲと同じサイズの盾が出来上がり、視界を塞いでしまった。

「おい、ゴリラ。盾しか見えない」

「だから! ゴリラではないと言ってるだろーが!」

「準備はいいかい? ネクサス」

「僕はいつでもいけるよ」

 盾のせいで二人の声しか聞こえない。

「分かった。封印を解こう」


 風、木々の動き、全ての音が止まった。素人でも空気が変わったことが分かる。

「我はヴァル! 我こそは生物の頂点である者! 完全なる魔王である!」

 頭に響く声だ。そもそも顔が無いのにどうやって声を発しているんだ。

 盾の端から様子を見る。浮いていたヴァルが2本足で立っていた。

「僕が動きを止める! マーリン! その隙に魔法を叩き込んで!」

「分かった! 頼む! ネクサス!」

「バインドチェイン!」

 ネクサスの周りから鎖が飛んできてヴァルに絡みついていく。

「吹き飛べ!」

 マーリンが魔法で光線を放つ。ヴァルは身動ぎ一つしていない……

「このような小細工など無駄だ」

 光線も鎖もヴァルに触れた部分から消えていく。

「我が肌は魔力を吸収する」

 絡みついていた鎖もボロボロに崩れ吸収されていった。

「それなら斬るだけ!」

 ネクサスは瞬時にヴァルの首の後ろに飛び、斬り付ける。斬り付けた部分から液体が飛び出している。しかし、ヴァルは動かなかった。

「無意味だ」

 斬り付けた部分が治っていく。

「生物の頂点、完全なる生物、この意味をその身で教えてやろう!」

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