12話 風のアドレーション
『ご主人様はどのような服が好きでですか? ミニスカートやホットパンツもありますね』
そう言われてもどう反応すれば良いのか戸惑ってしまう。女性とこんなことをしたことが無いんだ!
『服に合わせて髪型も少し変えても良いですね。あと、下着も買わないといけません、ふふっ』
楽しんでいるようで良かった。次々と服を持ってきては感想を求めてくる。
『次は下着の試着です。さあ、入って来てください、ご主人様』
「いや、だから、モラル的に……」
『ご主人様は下着姿で試着室の外に出ろとおっしゃるのですか? 従っても構いませんが、そちらの方がモラル的に不味いのではありませんか?』
……ええ!?
「……一理あるかも」
流されてしまった。がっちりと手を掴まれる。
『良かったです。分かっていただけて。では、中にどうぞ』
風も使われ引き込まれる。そこまでやるのか。
『脱ぎますね。見てくださってもかまいません』
見ない! って言いたかったけど周りにばれたらいけないから声も出せない。
『どうですか? 素直に言っていいですよ?』
フリルの可愛い下着を着けている。ただ。
「終末の地」
『え……?』
「スタイルが良いだけに胸が何も無くなった終末の地感が凄い」
『……ご主人様。さっきの仕返しですね?』
「ばれてるのか。でも、一番小さいよね?」
『デート中に他の女のことを言うのはデリカシーがありませんよ?』
視線と言葉が凍えそうなほど冷たかった。
「すみませんでした」
『はぁ……』
シルフがぴったり胸をくっつけてきてブラを落とす。
『お詫びをしたいと言うのなら、パンツと服を着させてくださいますか?』
えっ!!? 何を言っているの!?
腕を掴まれシルフのパンツに指をかけさせられる。シルフの肌、すべすべ……
『着替えさせていただくときに、何処にとは言いませんが、もし当たってしまっても私は何も言いません』
顔が熱い。手が震える。目の前にシルフのすまし顔があって息もかかる。
『耳まで真っ赤ですよ?』
このまま手を下ろせばシルフは……いや、お詫びだから、やましくない。そうだよ、落ち着け自分。これは、やましいことではない。自分に言い聞かせながらパンツを脱がせていく。
『あんっ。ご主人様ぁ』
シルフが頬を染め艶めかしい声を出す。絶対にわざとだ。
『んっ。はぁ……はぁ……』
わざわざ耳元で喘ぎ始める。頭がくらくらしてくる。……早く終わらせよう。
『ご主人様。どうですか?』
買ったばかりの服でくるりと一回転するシルフ。
「可愛い、はぁ、疲れた……」
『だらしないですね。仕方がありません。手を出してください。引っ張っていってあげます』
差し出されたシルフの手を握る。
「ありがとう」
『ふふっ。どういたしまして。次はお昼にしましょう。前から気になっていたカフェがありますのでそこにしましょう』
いつリサーチしているのだろう。しかし、流石シルフ凄く手際が良い
『テラス席が空いています。運がいいです。ここはパンケーキが美味しいのです』
向かい合うように座る。メニューを渡されるけど、前の世界に無い果物ばかりでよく分からない。
『私のオススメを2つ頼み半分こにしませんか?』
シルフに助け舟を出してもらう。
『これとこれをください。あとこれもお願いします』
シルフは自分に見えないように注文をする。
『来てからのお楽しみです』
シルフとウェイターが顔を見合わせてニヤリと笑った。
「お待たせしました」
2種類のパンケーキと2本のハートがかたどられたストローの入ったジュースが運ばれてきた。
「では、ごゆっくりどうぞ」
ウェイターはニヤニヤしながら厨房に戻っていき、陰からこちらを覗いている。
『いただきましょうか。ご主人様。私はこちらから飲むのでご主人様は反対側から飲んでくださいね』
潔癖症でもないから二人で飲むことは気にしていないが……
「これはバカップル過ぎる……」
『はい、あーん』
シルフがパンケーキを一口大に切り分けあーんしてくる。
「……めちゃくちゃ見られてますけど」
さっきのウェイターや周りの客の視線が熱い。
『見せつけているのです。ほら、あーん、してください』
「あ、あーん」
……美味しい。シルフはフォークを置くと無言で口を開け待っている。
「はい、あーん」
自分のパンケーキを切り分けシルフにあーんする。
『ん、美味しいですね。評判通りで良かったです』
「ごちそうさまでした」
パンケーキを食べ終わった。お腹いっぱいになり少し休憩をとる。
『この後は、市場に行って。夕食の食材を買いに行きます。何か食べたいものはございますか?』
食べたいもの……この世界に来て食べたものは洋食ばかりだ。たまには和食が食べたいが……上手く伝えられるだろうか。
前の世界と同じ料理もあるにはある。だが、和食はどうなのか。言ってみるしかないか。
「……うどんが食べたい、とか」
シルフは神妙な面持ちで何か考え込む。やっぱり異世界にうどんは無いか。諦めて違う料理を頼もう……
『ふふっ。うどんですね。分かりました』
「あるの!?」
『ご主人様以外にも勇者は居ます。その方達が料理を伝えてくださっているのです。なので、ご主人様の故郷の料理もあると思います。それに、無ければ私が再現すれば良いだけです』
淡々と言っているがかなり凄いことなのでは。
『それにうどんはこの国を建てた一人である原初の勇者の好物ですから』
うどんが好きとは、親近感が湧くな。日本人なのかな。
『そろそろ出ましょう。ご主人様』
市場は賑わっていてすれ違う人と肩が当たる。人混みは苦手だ。
『これをください』
「はいよ。おたくら夫婦かい? 若いから大変だろう。サービスでこれもつけておくよ」
『残念ながらまだ夫婦ではありません。しかし、いつかはそうなりたいものです』
「そうなのかい。こんな美人さん逃すと一生後悔するぞ、兄さん」
「あはは……そうですね……」
曖昧に返す。何て言えばいいのかわからない。
『ご主人様はこちらに来たばかりなので仕方がありません。何があっても私を頼ってくださいね』
シルフの目は何処までも済んでいて真っ直ぐに見えた。
『覚悟は出来ていますから』
「結構買ったな」
服と食べ物で両手が塞がってしまうくらい買い込んだ。
『ええ、人数がいますから。もうすぐで屋敷なので頑張ってください』
屋敷の門が見えてきた、門の前に黒く大きいものとヤンキーっぽい少年が立っていた。
「待っていたよ。名前はユウでよかったんだよね?」
黒いものが声をかけてきた。黒い鎧が陽の光を反射していたのか。
「改めて自己紹介。僕はネクサス。この国の騎士団の団長をさせてもらっています。もう体は大丈夫かな? 傷は残ってないね。よかった」
軽い調子で話しかけてくるが鎧で表情が分からない。
「お陰様で。何とか生きてます」
「犯人については心配しないでくれ。僕らが何とかするから。君は安心してくれ」
「ネクサスさん、本題に入らないと」
「おっと、そうだね。ありがとう、ジュンくん」
ジュン? この国っぽくない名前だ……まさかね。何人転生しているんだ!?
「君に依頼をしたい。ユウくん。もちろん、報酬も用意しているから」
「依頼……ですか?」
「ああ、これは極秘の依頼で、魔王化した賢者を制圧してもらいたいんだ」
魔王化? 賢者?
『申し訳ございません。ご主人様はこちらに来て日が浅く詳細に説明していただかないと事情がわかりません。それに、何故ご主人様を?』
「説明は受けるかどうか決めてもらってからでいいかな? 極秘の依頼だからね。エレノア司教の推薦だよ。エレノア司教の弟子になったんだよね?」
「師匠の推薦……分かりました。受けます」
「ありがとう。明日の朝、詰め所に来てくれればいいから。では、僕たちはこれで」
騎士団長直々の極秘の依頼、師匠の推薦、ヤバいことに巻き込まれてしまったかもしれない。