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1話 無様な転生と精霊魔法

「……はぁ、腹減ったなぁ」


 深夜2時、日課のアニメを見終える。近頃はインターネットでも配信している。便利だ。冷蔵庫は空、所持金は8円だけ……あとはポイントカード。幸いなことに明日はバイトの給料日だ。これ以上起きていてもお腹が苦しいだけだ、もう寝よう。空腹のせいで椅子から立つだけで目眩がする。せめて水だけでも飲んでおこう、完全に胃の中が空のままよりはましだろう。ふらふらした足取りでキッチンに行き、水を飲む、満たされないがこれで我慢するしかない。そのままベッドに向かう。歩くと立ち眩みがし、視界が霞む。


 目の前に机の角が迫っていた。気を失っていたことに今更気付いた、もう避けられない……鈍い音を立てて机と頭がぶつかった、視界がぼやけていく、痙攣している、痛みは……無かった。床に赤い液体が広がっていく。血が止まらない。打った場所が悪かった。


 もう死ぬのだろうか。それ以外何も考えられなかった。無様な男の何も無かった人生の幕は閉じる。部屋には哀れな男の死体だけが残った。


 どのくらい時間が経ったのか、体の感覚が無い、黒く塗りつぶされたような闇しか見えない。意識は戻ってしまった。意識だけが果ての無い漆黒の中を漂っているようだ、これが死後の世界なのだろうか。

 何かに見られているような気配がする。大きな何か、まるで神様のようなもの。しかし、冷たい気配だ。虫けらを見ているかのような視線。ニートってそんなものだけどさ……

 気配は何処かに消えた、また、一人になった。黒く何も見えない、聞こえない、感じられない。気がおかしくなりそうだ。耐えられない、絶望が広がっている。もう耐えられないんだ!!


「起きろーっ!」

 女性の声が聞こえる。希望が聞こえた。

「起きろってば!」

 聞き覚えの無い声が聞こえる度に、少しずつ自分の体の感覚が戻っていっている気がする。

「はぁ、起きるつもりないのでしたら最後の手段使いますからね。」

 目が覚める。目の前で金髪紫目美少女がフライパンを自分に向かって振り下ろそうとしている、いや、振り下ろした。フライパンと頭がぶつかるえげつない音がした。あまりの痛みに声も出せずのたうち回る。ここで体の感覚が全て戻ってきていることに気が付く。

「起きたかしら? 勇者様」

 美少女はフライパンで殴ったにも拘わらず満面の笑みを浮かべている。起きたことがそんなに嬉しかったのか?

「私の名前はアメジストですわ。勇者様、あなたのお名前は?」

 アメジストは屈んでこちらの顔をのぞき込む。

「ユウだけど。」

 周りを見渡しながら答える。ここは……何処だ? アメジストと名乗る女性、木造の壁と天井と床、窓からは森が見える。テーブルとベッド、他にはキッチンかな? 足元には発光する紫色の円と文字が書いてあった。

「ここは何処? どうなってる? 自分は死んだはずなのに!?」

 頭の中がまとまらない。どうしてこうなった?

「はぁ。少し落ち着いてくれないかしら」

 黙ることにしよう。

「説明するわ。ここはリーベル王国。ユウはこの魔法陣を使って召喚されたのよ」

 リーベル王国? 魔法陣? 聞きなれない国名に現実的では無い単語……

「まあ、そのうち分かるわよ」

 不安だ。しかし、自分にはどうすることもできない……


「勇者様」

 アメジストは真剣な眼差しで自分を見つめていた。

「私の復讐を手伝って欲しいのです。非常識なことだと分かっています、ですが、あなたを悪いようにはしません、報酬もしっかり出しますわ」

 ……復讐? 少女に似つかわしくない物騒な言葉。自分はどうすればいいのか分からない。

「私のことはアメジストと呼んで。あなたのことはユウと呼ぶわ」

「分かった。けど、復讐って?」

「まあ、王都に行くわよ。そっちの拠点の方が広いし便利だからね。ついてきて。」

 自分の言葉には耳を傾けず小屋を出る準備をし始めたようだ。だが、自分だって言いたいことがある。


「ごめん、その前に一つ良い?」

「何かしら?」

 やっと聞く耳を持ってくれるようだ。

「今凄くお腹が空いてて、その、食べ物をくださいお願いします」

「そんなにお腹が空いてるの?」

 アメジストは驚きと哀れみの混ざった表情で聞いてくる。

「聞きにくいことを聞くけど、どうやって死んだの?」

 嘘をついたところで仕方が無いので正直に話す。

「はぁ、そんな馬鹿な死に様聞いたことが無いわよ。あり得ない……」

 あまりに酷い死に様に驚きの表情で固まっている。笑い声一つ起きなかった。

「カビの生えたパンしか無いんだけど」

「いくら何でもこれは食べられないでしょ」

「王都に着くまではそのパンしかないわ。王都はそんなに遠くないから我慢してくださる?」

 食べるわけにもいかず、ただカビパンを見つめていた。


 準備を終え小屋を出る。アメジストは彼女の身長と同じくらい大きい装飾が施された弓矢を小屋から持ってきていた。

「その弓は?」

「護身用よ、山賊が居るから、身を守る術は必須なのよ」

「必須なんだ……」

 武器も持っていなければ、武術も使えない、自分はゲームで言う村人レベルの雑魚だ。いや、村人だって武術を習っているかもしれない。自分はそれより下か……

「大丈夫よ。滅多に出ないから」

 うーん、フラグが建ったな。アメジストは道を歩き出した。今はついて行こう。


 しばらく道を歩き森の近くに差し掛かった。

「おい、そこの二人組、有り金を全て置いて行け!」

 むさ苦しい男達が木の陰から姿を現す。

「はぁ、何でこんなときに出てくるのかしら」

 先程フラグ建ててましたよ? 苦笑いをして後ずさる。

「笑ってられるなんて余裕あるな、てめぇ、ちゃんと命乞いできるだけの金は持ってんだろうな?」

 山賊がまずは自分に寄って来る。

「無一文なんで見逃して欲しいなぁ、なんて」

 財布もスマホも何も無かった。金目の物なんて何も無い。

「そうか、死ね」

 ナイフの切っ先が首を掠める。一度死んだ記憶お陰で、こんなことで冷静さは失わずに済んでいる。しかし、何もしなければ、いずれ殺されるだろう。アメジストの方を見る。距離をあけ弓を構えていた。頼もしい。

「まずは、ひょろ男を片付けるぞ、女は殺さず生け捕れ!」

 山賊のボスらしき男が命令をする、木の影から山賊が現れ、囲んでくる。絶体絶命だ。


 強い風が吹いた。

『はぁ、勇者として覚悟を決めてください。そんな腰抜けでどうするつもりですか?』

 凛とした女性の声が聞こえた。山賊に追いつめられ、周りを見る余裕は無いので場所は分からない。

『私と契約すれば、この窮地を乗り越えることが出来ますよ?』

 契約? 何を言っているんだ!? あれか、ソシャゲのガチャのチュートリアルか!? そんな馬鹿な!?

「何処だ!? 何処に居る!? 出てこねぇとこいつを殺す!」

 山賊も謎の女性の声に反応して周囲を見回している。

『どうしますか? あなた様みたいな最弱勇者が一人で切り抜けることが出来ますか?』

 最弱か……転生前と身体能力は変わっていない、魔法とか超能力とかスキルとかが使えそうな雰囲気も無い、自分に相応しい称号だな! くっそー!

「分かった! 自分と契約してくれ!」

 叫んだ。自分の言葉に反応した山賊が襲い掛かる。迫りくる山賊に向き直る。どうすればいいんだ? 早く何とかしてくれ!!

 目の前の何も無い場所に小型の竜巻が出来る。そこからさっきの女性の声が聞こえる。竜巻の中は見えない。

『改めまして、私は風の精霊、シルフです。クソ雑魚ご主人様』

 風が止まり竜巻の中にいた声の主が姿を現す。優美な女性が優雅にお辞儀をする。山賊達は驚き腰を抜かしていた、自分も。

『ご主人様まで腰を抜かして、情けないですね』

 シルフはこちらに手を貸す。自分が立ち上がるのを待って彼女は話し始める。

『ご主人様の力は精霊を使役することですね。私を使役して戦ってください。因みに他には何も出来ませんよ』

 いきなり使役しろと言われてもやり方が分からない。どうしろと言うのか。すると、呆れた顔で話始める。

『使役するのは簡単です。単細胞生物でもできます。魔法をイメージし、詠唱するだけです。詠唱もご主人様が考えてください。詠唱はタイミングを合わせるだけなのでどんな言葉でも構いません。まあ、詠唱無しでもいいですけど、詠唱した方が初心者には良いでしょう』

 シルフは自分がわざと分からないという顔をしているのを無視して続ける。

『しかし、精霊には属性があります。その属性以外の属性の魔法は使えませんので、お忘れなきよう』

 つまり、シルフは風の精霊、風や空気を操る魔法を使えるということだろうか?

『理解したのならば実行するべきではありませんか?』


 山賊達は戦意喪失していなかった。こちらを囲んでいた。シルフは身動ぎ一つしない。無表情で自分だけを見ている。無表情だが熱を帯びた視線だ。彼女の言った通り山賊を吹っ飛ばすイメージをする。

『言ったことそのままですが、及第点です。タイミングは合わせます。いつでもいいですよ』

 山賊が切りかかって来ている。


『「暴風一撃(ゲイルストライク)!」』


 自分の周りに暴風が巻き起こり、山賊を薙ぎ払うような竜巻が出来る。

「どういうことだ!? この男、勇者か!?」

 山賊達は悲鳴をあげながら風に飛ばされ舞い上がり、木々に引っかかり気絶た。

「凄い……!」

 シルフの力とは言え自分がやったことのように嬉しい。まるでアニメや小説の転生した主人公のようだ!

「凄い! 私びっくりしたわ!」

 アメジストが遠くの木の後ろから興奮した顔をしながら出てきた。

『平凡な出来だと思います。いえ、ポンコツなご主人様にしてはよくできました』

 罵倒されている気がする、少しゾクッとする、人形のような整った顔からくる罵倒。しかし、一撃で山賊を全滅させたのに平凡なのか……

 アメジストと合流しに行く。結構離れている。アメジストは離れすぎだと思う。その時、ガサッとそばの茂みが音がした。体が何かに引っ張られている。首元に痛みが走った。


「おい、女共、動くなよ。こいつを死なせたくないならな」

 どうやら残党が隠れていたらしい。うかつだった。がっちり体を拘束され、首にナイフを突きつけられてしまった。


 これは、ヤバいのでは!? アメジストもシルフも動けない。このまま他の山賊が起きればなぶり殺しだろう。それだけは避けなくては、何かこの状況を覆せる手段は無いのか!?

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