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やっと戻ってきた。戻ってきたのだ。自分の手を見て、今、精神と身体がひとつになったアカトは闘気をみなぎらせた。
それに気がついた3人が歓喜の声をアカトにかける。アカトは軽く片手を上げ、返事をするが、目線はマリアから離さない。
アカトは剣をしまいみんなに、僕がやる、手を出すなと思念を送る。
アカトが剣をしまった事で、マリアに取り憑いた邪神がニヤリとする。人間とは何と脆いものだ。それが、一瞬にして誤りだと気付く。
アカトは一瞬にしてマリアに接近して、腹部に拳を叩き込む。マリアが腹を抑えくの字に曲がるところへ蹴りを入れる。マリアが吹っ飛び壁にあたり止まる。
「貴様、殺す気か」
邪神がアカトに本気を感じ焦り出す。この体ではいずれはやられる。目の前の闘気に溢れた体を忌々しく思いながら、何とか、あの体を手にしたいものだと考えた。
アカトがまた接近して来た。防御魔法を展開するも、体へのダメージが残る。何とかせねば、このままでは体力が奪われいずれ動けなくなるだろう。そう考えた邪神は賭けに出た。アカトが接近した時、マリアの記憶から、アカトに見せた表情を顔に出したのである。アカトが拳を止め躊躇する。その時、マリアから黒い煙が出て、アカトへと流れて行く。その異変にみんなは気づいたが動くものはいなかった。それは、アカトが手を出すな、任せろと言ったのだ。そう言ったからには、どんなことがあっても手を出さない。それだけ、みんなはアカトを信頼していた。
アカトの髪が赤から黒へ染まっていく。目も黒い節穴のようになっていく。それでもみんなはじっと見ていた。
マリアが倒れ、アカトが禍々しい闘気に染まり出す。
「いいぞ。いいぞ。この体は素晴らしい」
アカトは自分の手を見ながら、狂気に満ちた喜びの声を漏らす。それが、突然、苦しみ出し、一気に闘気が爆発して、黒い闘気が霧散して、光り輝く闘気になる。アカトが片膝をつき、肩で息をする。みんなが駆け寄り、アカトに声をかける。アカトは手を上げて、大丈夫だとみんなに示す。そして、1つ大きく息を吸い、吐き、倒れているマリアの方へ歩いて行った。
長かった。本当に長かった。アカトは涙がこぼれそうになるのを、やっとの思いで抑え、マリアに声をかけた。
「マリア、僕だよ。アカトだ」
「ふふふふ……」
かすかに聞こえる不気味な笑いに、アカトはハッとして、身構える。
マリアはゆっくりと立ち上がり、顔を上がると、目が黒く染まっているのが見えた。
「危なかったよ。一部だが、この体に残していて正解だったようだな」
まだ、残っていたのか。くそ、どうする。アカトは焦り、策が尽きた事に唇をかんだ。その時である。マリアの素の表情が現れる。
「アカトさん。お願い。私を殺して。私が私であるうちにお願い」
マリアの顔は本物であった。
「無理だよ。そんなこと出来るわけないよ」
アカトは絶望に戦意が失せ、絶望が支配した。
「時間がもう無いの。私はもう直ぐ居なくなるわ。その前にお願い」
それを最後にマリアの体が闇に染まり出す。みんなが、アカトに声を送る。アカトは涙をこぼしながら、残っている力を一気に解放した。手に剣を持ち、一気にマリアの胸元へ突き刺し、最大級の闘気を流し込んだ。マリアが、邪神が、この世から消え去り行くのが分かった。マリアは最後のひと言を、
「アカト。大好きだよ。さようなら」そう言って、マリアの体が薄れ消え去った。
「うおーー」アカトは、激情に我を忘れる。周りに被害が出始める。ビリーとナミがアカトへ近づき、転移の魔法をかけ、この場から消え去った……。




