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アカトが突然止まる。
なぜ止まったのか、後ろに続く皆んなには、何も変わったようには見えなかった。
アカトが、何かを感じ取ったのか、それとも、探っているのか、異様な動作をしている。
しばらくして、何も無かったように動き出す。
後続が、アカトが今まで立っていたところを通過した時、誰かに見られているような、ゾクリとした不快な感覚を感じた。
みんなが不安になりキョロキョロしだす。たまりかねたタイポイが
「アカト、誰かに見られているような感じかするのだが……」
「そうか」
ぶっきらぼうに返答するアカトに、さらに不安が増し、キョロキョロするタイポイである。
「来るぞ」
アカトの警告に、みんなが警戒態勢に入る。その素早い対応にアカトは満足感を覚えつつも、試して見ることにした。
「僕とジェットキは後方で見ているから、みんなで対処してみてくれ」
僕とジェットキは後方に下がる。
「さて、どう出るかね。楽しみだ」
ジェットキが、腕を組み、本当に楽しそうに見ている。
僕はというと、彼らの技量を見分けなければならない。今後のことを考えると、場合によっては、パーティーから外そうと思っている。足手まといでは……。
「来た!」
ジェットキの声に、思考を停止して、前方を見る。
突然、左右の砂が盛り上がり、人の姿になる。
みんなが、素早く散開し構える。(いい判断だ)
スケさんが、雷系の魔法を放ち、二体のゴーレムがバラバラに砕け散る。
「やったか」前方より、楽観的な声が聞こえるが、後方の二人は懐疑的だ。
結果はすぐに現れた。再びゴーレムが形成され始める。そうはさせじと武器を持つ前衛が、剣、あるいは斧で攻撃しているが、それではただの消耗戦だ。戦いの経験値が浅いことを暴露しているようなものだ。
「ダメだな」
ジェットキの諦めにも似た物言いに、僕はもう少し様子を見ようと、ジェットキを抑える。ジェットキはこちらを見てから、しょうがないかと従うことにした。
ーー彼らにはもっともっと強くなってもらわなければならない。僕たちが戦おうとしている者は、人を超えた存在なのだ。この先を一歩でも超えてしまえば、後戻りできない、そんなあやふやなところまでみんなは来ているのだから……。
戦況は膠着状態で、このままではジリ貧になってしまう。そんな時、スケさんが、フイールド内を水で覆い凍結魔法で凍らせた。
みんなから歓声が上がるが、僕とジェットキは、軽く首を振る。
心の中で、もっと根本的なところを考えろ、と叫ぶ。
歓声かすぐに悲鳴に変わる。もうどうしていいかわからなくなっている。パニック状態だ。
ここで、僕は諦め、視線をジェットキに向けると、心得たとばかりに、みんなの前に出て、一瞬で事を終わらせる。
その後は何事もなく進んで行った。諦めたわけではなく、こちらを伺っているのは感覚でわかる。油断すればすぐにでも襲って来るかもしれないので、みんな沈黙して、感覚を研ぎ澄ます。
しばらく歩くと、前方に建物が見えてきた。
戦場であったこの場所に、不自然なほど、建物は無傷のままの状態であった。察すると、戦いの後に建てられたものだろうか。
アカトは迷いなく建物の中へ入って行く。
巨大な石柱が左右に規則正しく奥へと続いている。石柱の間だけ淡い光があり、石柱の奥が見えない漆黒の闇になっている。一見して、闇に潜む者がいても、目視出来ないだろう。
最奥にたどり着くと、巨大な扉がみんなを待っていた。
いかにもって感じの扉で、開ければボスキャラが待っていることは皆感じていた。それでも、アカトは躊躇すらせず開ける。
みんなが戦闘態勢で固唾を飲んでいると、魔導師スタイルの子供が、アカトと叫びアカトに飛びついた。
声から察すると、子供というより老人のそれのようだ。皆顔を覗くと、長く白いひげ、年輪を重ねた肌が、声とともに年齢と同等であることが見て取れた。
「老師、目は?」アカトが老師の顔を見て、疑問に思ったことを口にした。
「そうじゃなあ、200年くらい前かのう、見えなくなった」なんてこと無いようなサラリとした物言いだ。
「それでも、何不自由無いぞ。ここにいる人たちの容姿をみんな当てようか」老師がみんなを確認するように首を動かし、右端のタイポイを指差した。
「かなりでかい男じゃのう。その鎧の傷跡からして、百戦錬磨の剣士といったとこか」
次に隣のグリズグマを指し、
「これまたでかい男じゃな。その筋肉のつきからしてドワーフじゃな」
その次はジェットキを指す。
「おお、なかなかの男前じゃな。ただ、人じゃ無い。ドラゴン族か」
次が
「アカトじゃな、その髪はどうした、黒いぞ。それに何で昔のままなんだ」
「ふん、余計なお世話だ」
そうかと簡単に済ませ、次はナミを指す。
「ほう綺麗な娘さんだのう、じゃが人じゃ無い。頭部にツノがあるのう、察すると、鬼人か」
その次にビリーを指す。
「この娘も美人じゃのう。じゃが人とは違うものを感じる。……、なるほどのう、神族の娘か」
次はオギンを指して
「この娘は、大人びて見えるけど、まだ子供子供しているな。人間の娘だな」
次はスケさんだ。
「ほう、これはまた立派なものをお持ちで、身体は大人びているが、歳はアカトと同じくらいか。その杖は、わしと同じ魔導師かな」
最後の君はとカクさんを指し、
「スラリとした身体に贅を極めたプレートは、貴族の御曹司ってところか、最近は、長い髪が男の間に流行っているのか」みんなから爆笑が起こった。
はて?、と不思議そうにしている老師に、アカトが、カクさんは女性ですよ、と笑った。
「そんなバカな、胸がないでは無いか。どこから見ても男だ」
すると、顔を赤くしたカクさんが、貴様私を愚弄するのか、と切りかかった。すんでで交わす老師、驚きつつも、連続で斬りかかるカクさん。それを、何とか交わしているように見えるのだが、ジェットキの見方は違っていた。
「なあ、アカト。やつは何者だ」
「驚いただろう。僕もそうだった。ひと月かかって、やっと袖をかすったくらいだ」
「ほう、そんなに凄いのか」
「ああ、今も健在ってところだな。まったくの化け物だ」




