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出発を明日に控え、盛大な晩餐をみな楽しんでいた。
領主の席が空白なのは落馬した後遺症で、ギックリ腰で動けないからだ。執事はこれで当分は大人しくなるだろうと、ホッとしている。これがいい薬となって、自重してくれればなおいいのだが……と、悲観的ながらも希望を述べる。
それに反してチカヤマは暗くなっている。なにせアニキと慕っている人だ、それがこの席にいないので、相当ガッカリしているようだ。スケさんの魔法なら完治させることも可能だが、それでは執事が可哀想なので気がつかなかった事にしておこう。
食事は美味しくみんな満足のようだ。食事が終わると自然とグループができる。タイポイとジェットキは飲み友達で2人になる。女子はスイーツがあれば自然とグループになり食べて笑う。最近はよくビリーもナミも輪に入っている。
では自分は……?。
僕には子供の頃から友達はいなかったし、大人達は僕を化け物でもみるような目で見ていた……。
僕は両親の顔を知らない。もちろん思い出も記憶もない。
僕を育てたのは老婆で、その老婆も僕が歩けるようになった頃には、床に伏せる日々が多くなっていた。
そんな僕が生きて行くための選択肢は多くなかった。
僕は生死を賭けて毎日魔獣狩りをしていた。額から血を流し、足をひこずりながら倒した魔獣の魔石を集めて回ることも少なくない。
当然僕に近ずくものはいなかった。
そんなある日、悪魔の仕業か、突然日中が暗闇に染まっていった。そして、開放されていた門から魔獣がなだれ込んできた。逃げ惑う人々に逆らい僕は魔獣の元へ行き剣を振るった。数匹、数十匹、数百匹、手がちぎれるかと思うほど剣を振り、葬った。
もうダメだ、意識が朦朧として倒れこみそうになった頃、日が戻り魔獣が消えていった。
僕は傷ついた体をひこずりながら家に向かっても、誰一人声すら掛けるものはいなかった。それどころか、あからさまに化け物と罵る者もいた。
その翌年、帝都より勇者として招聘された。
支度金として莫大なお金が与えられたが、老婆の治療費に全て使った。老婆が歩けるようになったと知らされると、涙が頬を伝い流れるほど喜んだ。これで少しは孝行出来たと思う。その老婆も、よく年を迎えることなく眠りに就いた。
帝都では僕の他に4人の勇者が招聘されていた。彼らは僕に気安く接してくる。僕は戸惑い距離を取ろうとしたが、彼らは俺を離さなかった。
この時初めて友というものを持った。そして、愛してくれる人もできた……。
「ちょっといいか」ジェットキが僕の肩を叩く。軽く頷き、ジェットキの後を追い、ベランダへ出る。
ジェットキが手摺りに寄りかかり、眼下に広がる夜景を見ていた。遅れて僕も倣う。
しばらくして「話してくれないか」と、独り言のように言う。
僕はどこから話そうかと、思考を整理してから話し出した。
「僕は12歳の時、勇者として帝都に招聘された。そこで4人の仲間と出会い、皇帝の下命により堕天使ルシファ討伐と邪神のコア破壊をするようあの地にやって来た。湖底に沈むヤーマン台国、その更に下、堕天使ルシファがいて、倒し、その先にあった部屋に入った。するとドアが閉まり罠であったことがわかったがもう遅かった。マリヤが邪神に身体を乗っ取られ、僕たちはなすすべがなかった。時間を止めることで、現状を維持し、僕がみんなを助ける方法を見つけるべく転生された。そして、またこの地にやって来た」一気に話し終えた。
「それでどうだ」ジェットキが夜景を見ながら聞いてきた。
「ダメだ。僕が行った世界には魔法がない。魔法は空想の世界のものとして、SFとかラノベとかいうジャンルの本にしかない」
「そうか、それでどうする」気の無い返事だ。
「あてがある、あまり期待はしてないがな」
「え!」どこに驚く要素があったかわからないが、初めて反応した。
「これ以上待たせるわけにはいかないさ」
沈黙が流れる、流れる、そして流れる。
「俺は姫さんに命を助けられたんだ」ジェットキは突然に話し出した。
「小さかった俺は川の流れに逆らえず、だだ流されるままだった。それを姫さんが身を呈して助けてくれたんだ。俺は姫さんが死ぬまで一緒にいようと決めた。ドラゴンから比べれば人間の一生なんて余りにも短い、俺は姫さんが息をひきとるのを見届けようと決めていたんだ」そこで一呼吸置いて、怒気を含んだ声で続けた「それを邪魔した奴がいる。おれは今でも姫さんが、あの日優しく微笑んで手を振っている姿を忘れることができない。俺の、ささやかな夢を潰したやつを……、絶対、絶対に許さない」怒りに震え、手すりが軋む音が聞こえた。
涙が流れのを隠しもせず「そいつは誰だ」と、僕に顔を向けた。




