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眩しいほどの光で目覚めたタイポイは、隣のベットを見て既にジェットキがいないことを確認した。時計を見るとAM7:30の表示。
頭が痛い。ちょっと飲み過ぎたかと後悔しながらも、久し振りに満ち足りた気分になっている。
さてと気合を付けてから跳ね起き、用を足し、顔を洗ってからみんながいるであろう一階のレストランへ向かった。
廊下に出ると、昼間のように光が満ちあふれていた。昼が明るいとこらからきた人には嬉しい演出だ。これもこの旅籠屋が人気である理由の一つになっていることは間違いないだろう。
レストランに着くと予想どおりみんな集まっていて、コーヒーを飲みながら談笑していた。
目ざとく見つけたアカトが声を掛ける。
「遅いぞ、二日酔いか?」
「ちょっと頭が痛い。飲み過ぎたかなあ」と、頭に手をやる。
よく見ると額のところが赤く腫れていた。
「どこかにぶつけたんじゃないのか、赤く腫れてるぞ」と、アカトが尋ねる。
「う……ん、記憶にないなあ」
みんなが呆れて笑う。
アカトが前にいるジェットキに聞いてみる。
「お前知らないか?」
「いや知らないよ。夜中イビキがうるさいから、ちょっとペシリしたけどその時は何ともなかったぞ」
全員が心の中で犯人はこいつか!と言いながら、納得して、コーヒー飲んだり、話し始めたりした。
「今入って来たデカイやつだ」雑談でもするように男は、対面の人に言った。
対面の人物は、フードを目深にかぶり如何にも怪しそうに見えるが、昼夜暗いこの地では光が苦手な人も多く、怪しむ者はいない。
その人物がバイキング料理を取るふりをして接近して行った。よく見ようとフードを浅めにして上を向いた刹那、フードが外れ金髪の美しい長い髪が、白い肌に透きとおるような碧眼が、露わになった。
標的と目と目が合って慌ててフードをかぶり、バイキングもせずに引き返した。
見られてしまった、見られてしまった。失態だ。あの目は怪しんでいる目だった。失態に後悔しながらピーチ・タロウに挨拶もせずに姿を消した。
タイポイはフードを被った人物に視線が釘付けになって、ぼーっと突っ立ている。
アカトが声を掛けると、慌ててバイキング料理をトレイに乗せ、こちらへ来た。
「どうしたんだ」と、アカトが声を掛けると
「何でもない」と、一言いってガツガツ食べ始めた。
「タイポイさんは春がきたんですよねー。お子様のミトさんにはわからないですよねー」と、嬉しそうにはしゃぐスケさん。みんなもきゃっきゃっ言ってる。
ーー春って何だよ、まだ冬来てねえぞ
そう思いながらも、言葉にするとやり込められそうなので、黙って残りのコーヒーを飲むことにした。




