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「やーえがった、えがった。やっぱ、歌姫の歌は癒されるのう」
「遠路はるばるきた甲斐があったのう婆さんや」
「また来ような」
信者たちがぞろぞろ出口へ向かっている。
それをいつものようにウラミサカは見送っていた。
みんなが出て行ったことを確認しようとしたら、片隅にポツンと座っている人を視認した。
その人に近づき声を掛ける。
「どうされましたか」俯いた姿勢に、具合でも悪くなったかと心配そうに尋ねた。
その者は俯いた姿勢のまま「殺しの依頼をしたい」聞き取れないほどの低い声で言った。
「え?」予想外の返答に疑問符を返した。
男は顔を上げ、今度ははっきりと言った。
「殺してくれ」
ウラミサカは周りを見て誰もいないのを確認してから、奥の方へ案内した。
ピーチ・タロウは贅沢三昧で緩みきった中年の体をソファに沈め、相手を待たずに切り出した。
「デカイ男だ、あいつ俺の頭を踏みつけやがって蛆虫呼ばわりした。許せん、ギッタギッタに殺してくれ」
男の顔がゆでダコのようにみるみる赤くなってきた。
ウラミサカは合図を送り、後方にいる全身黒ずくめの人物に冷たいお茶を持って来させた。
男はそれを受け取り一気に飲み干すと、ホッと一息をつき落ち着いたようだ。その様子を伺い、納得したウラミサカは商談に取り掛かることにした。
「標的ですが、こちらから1人出しますので確認させてください。金額は」と、言い、指一本立てた。
「一万両?」
コクリと頷くと「それが、最低条件です。難易度や条件次第て価格がかなり違います。よろしいでしょうか」と、相手の顔色を伺う。
「うむ」と、一言納得の顔。
そのあと男は2、3質問してから席を立った。
立ちぎわに右手を伸ばしたが、ウラミサカはその手を無視した。
男はムッとしたようだが、ウラミサカはその男に「今度会うときは初対面です。その時に初めましての握手しましょう」と、笑った。
男は納得したように、挨拶もせず去って行った。




