その3の2
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ツノカケは若い衆からナガツノとその妻モミジの死を知らされて号泣したのも、とうの昔になってしまった。
あの日誓った人間共への復讐もされぬまま、時は流れていった。
もうこの島には、ここにいる鬼たちしかいない。
ナガツノ夫妻が命を賭して守った娘ナミは、美しく良い娘に育った。この子が安心して生きれる世界をと思うものの、ただ隠れ潜んで暮らし、今日に至る。
何とかしたい、でも、もしもの事があってここがバレたらと思うと博打はしたくない。自分の命ならいくらでもくれてやる。だがこの子や若い鬼達の未来はと思うと動けなかった。
「はあ」とため息が漏れ、また堂々巡りの考えに落ち込んでいった。
「やあ」と声を掛けて、我があばら家へ訪れる者がいた。タヌキの長ダンシロウである。
ナミがお茶を持ってきた。それを、ありがとうと言って受け取り、一口すすった。
ダンシロウが近況の当たり障りの無い話をした。
ツノカケはそれが来訪の真意ではない事がわかっていた。だからゆっくりお茶を飲み、切り出すのを待った。
「明後日だ、城を襲う」お茶を飲みながら、ダンシロウはさらりと言った。
ツノカケは事の重大性について行けず、先なからの続きかと思った。
しばらくしてやっと気付いたツノカケは「今、何と言った」
「明後日、城を襲うと言ったのだ」
動揺を隠しきれず、ツノカケは真意を問うた。
「明日、多くの者が島を出るらしい。密偵からの情報だ、間違いあるまい」
「なぜ島を出る」ツノカケは訝しながら聞いてみた。
「タヌキ狩りじゃ」ダンシロウは憎々しげに吐き捨てた。
「タヌキ狩り?」
「ああ」ダンシロウは落ち着こうとナミにお茶を所望した。
「これで五回目だ。救えなかった。誰も救えなかった。俺たちは無力だ。ただ見ている事しか出来なかった。だから、頼む、手を貸してくれ」ダンシロウは深々と頭を下げた。
ツノカケはこんな重大なこと一存で決めるわけにはいかないと、茶を濁した。
翌朝、鬼たちみんなを集め事情を説明した。
長年の鬱憤がたまっていたのだろう鬼たちは戦う気十分だった。
これで腹は決まった……。
人間共が島を出る知らせが届いた。
「今夜決行だ」ダンシロウがみんなを鼓舞した。
深夜過ぎ、手引きにより城門が開いた。門番はぐっすり眠っている。
狙うは領主ピーチ・タロウだ。
手引きしたタヌキが先頭になって、領主の寝室へ向かう。後続にはキンザンを先頭にあの時の4人だ。皆この時を待っていたのだ。自然と気合が入った。
金棒でドアを破壊し、鬼たちがなだれ込んだ。
音にびっくりして起きた領主だが、文字通り鬼の形相を見て気絶してしまった。
その無様な姿を見た鬼たちは、拍子抜けしてしまって、領主をボコる気が失せた。
それが幸いとなって、領主は死を免れたのである。
こうして、十数年という長きにわたって人間に占領されていた島を奪還したのである。




