その3の1
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「皆の衆、今宵は満月じゃ、踊り明かそう」ダンシロウは眼下に広がる二つ岩一家に檄を飛ばした。
「おー」と鬨の声が飛ぶ。
浮かれたタヌキたちには、魔の手が潜んでいたことを、知る者はいなかった。
人間たちは遠くから包囲し、合図を待っていた。
無風状態、天候が人間に味方した。
頃合いを見計らって合図が送られる。
あらかじめ用意された眠り草の粉を燻にかかる。
それは眠り草を乾燥させて粉末にしたもを固めたもので、煙を吸うと眠くなり、いずれは寝てしまう。不眠症の人に用いられる薬草で、それを利用したのである。
一匹が眠った、また一匹が眠った。それを不思議に思う者はいなかった。
翌朝目覚めると皆檻の中にいて、後の祭りになっていた。
こうして船に乗せられサンド島に連れられて来た。
首輪を付けられ、紐で繋がれ、穴に落とされ、金を採取する事を強要された。
ろくな食事も与えられず過酷な労働に、一匹一匹倒れていった。
換えならいくらでもいるとばかりに、死んだタヌキはぽいっと捨て、違うタヌキを穴に落とす、その繰り返し。
ダンシロウはこの現状を見て、このままでは全滅だ。
アラガタでも知らぬ者はいないと言われた二つ岩一家が、こんなわけのわからない所で絶える事になると思うと、人間共に怒りがこみ上げて来た。
打開策がないままに次々と仲間が死んでいった。死んでいく者は、紐を解かれ首輪を外され、ぽいっと捨てられた。
ダンシロウは身を引き裂かれる思いで見ていた。そして、名案が浮かんだ。このままでは先がない。
やるしかない、タヌキ族が得意中の得意技『死んだふり』だ。それが案外功を奏した。
紐を解かれ、首輪を外され、ダンシロウはぽいっと捨てられた。
人がいなくなった頃合いを見計らって、ダンシロウはそっと姿を消した。
それから、夜陰に紛れて仲間に方法を教えた。
この作戦に乗じて数匹が自由の身になった。
だが、こんなうまい作戦が長く続くはずはない。
その日は絶好の満月の夜であった。ただでさえ満月の夜はテンションが上がり、夜通し踊り明かすタヌキが、死んだふりしていられるわけがなかった。さらに、この日当番に当たった人間がとても歌が上手く、狸囃子を陽気に楽しく歌ったため、しっぽがピクピク動き出した。それでも何とか堪えて、紐が解かれ、首輪が外されポイっと捨てられた。これで自由の身なったと油断したところで、人間の歌に合わせ踊ってしまった。
ポカンと口を開けた阿保ズラの人間と、目と目が合ってしまった。
それでも逃げるチャンスがあっのだが、パニクったタヌキはそこでそっと横たわり『死んだふり』をした。
それを見ていた人間が、おっかなびっくり近ずいて、首輪を付け、紐を繋げて引きずって、檻の中へぽいっと入れた。
こうしてこの作戦は失敗に終わり、以後通用しなくなった。
その失敗を演じたタヌキも本当の死を迎えるまで、自由になることはなかった。




