サンド島-3
城内に入る時違和感を感じた。そうあの時感じた感覚だ。胸騒ぎがする、杞憂で終わればいいのだが……。
領主のところに通された。
上座に座った領主は桃の絵の鉢巻をして、赤いチャンチャンコを着ていた。頭部には丁髷があった。
背後の壁には『日本一』と書いた掛け軸が垂れ下がっていた。
みんなにはそう見えていた。
だがアカトにはこう見えていた。
ソファーにふんぞり返っている、大ダヌキ。
僕はイケさんの耳元で「領主か」と尋ねると、首を縦に振った。僕はもう一度「本当に領主か」と尋ねると「そうだが?」と不思議な顔をした。
ーーへー、ここの領主はタヌキか。
「なあイケさん、領主って、動物でもいいのか?」
「へ?」イケさんは不思議チャンになって考えた。
ーーたしかに、人間も動物っちゃ動物だし、なんでアカトさんはこんなこと聞いたのだろう。そういえば、カクさんはアカトさんのこと、くるくるぱーって、言ってたよな。そういうことかな。
イケさんはニコッとして「動物でもいいんですよ」と、Vサイン出した。
ーーそうなんだ、動物でもいいんかよ。ビックリしたー、結構フリーダムなんだな……。
イケさんが領主に尋ねた。
「私たちの頭領がここへきてから行方不明です。ご存知ないでしょうか」
「さて、なんのことやら」領主がとぼけた。
「ぷー、ひひひ」僕は笑った。僕には狸寝入りしているタヌキが見えた。
「しかし、ここへきたのは間違いありません」イケさんがくいさがった。
「何かの間違いでは……」
「ぎゃははは、いひひ」僕は大爆笑した。タヌキがテーブルの上で腹づつみを打っているからだ。
女性陣が僕に避難を含んだ視線を向けた。
「ミトさん、不謹慎ですよ」スケさんがいつになく真剣な顔だ。
「アカトさん、ふざけるのは良くないと思います」と、オギン。
「アカト、いっぺん死ね」冷た視線でカクさん。
「……」黙して、だだ冷たい視線のイケさん。
流石の僕も言い訳してしまった。
「だってほら、タヌキが腹づつみ打ってるんだぜ、可笑しいだろう」
僕の言い訳に女性陣がみんな変顔になる。
ジェットキが助け舟を出した。
「たしかに、タヌキが腹づつみを打っているけど、笑うのは失礼だろう」
それを聞いてイケさんはハア?とした顔になり「タヌキなんていませんよ」
僕とジェットキは指差して「タヌキだ」と、同時に叫んだ。
突然室内が光り出す。魔法陣の発動。重力結界か?体が重くなる。結界自体は大したことはなかった。とりあえず様子見のサインをみんなに出す。
大勢の人が湧いて出た。よく見るとツノがある、鬼か。
鬼たちは僕たちを包囲して、地下牢へ促した。もちろん武器は没収された。
地下へ降りる時、ビリーが僕の服を強く握った。
僕はビリーの腰に手を回し引き寄せ「大丈夫だ、僕がいる」と、囁いた。
ビリーは、涙目ながら笑顔をこちらに向けた。
まだ心が癒えてないビリーには地下牢は辛いだろう、すまないと思うがここは耐えてほしい。僕は空いている手でビリーの頭をぽんぽんした。
地下牢には大勢の人の気配がした。多分領主やここにいた人たちだろう。
僕たちは二手に分かれ左右の牢屋へ入れられた。
僕とビリー、それとイケさんにオギンが左の牢で、他は右の牢に入れられた。
僕たちが牢へ入ると先客がいて、それに気がついたイケさんはその人の方へ行った。
イケさんはそっと片膝ついた姿勢で「お久しぶりです、頭領」と、声かけた。
隅っこで膝に顔を埋めていた頭領は、イケさんとわかると飛びつきワッと泣いた。よく見るとまだ子供だ。
泣き止むと、イケさんが連れてきて紹介してくれた。
「頭領の『カガミ』です」
白い髪に、左が緑、右が青、のオッドアイ、身長は130cmくらいか、かなり幼く見える。そのことを尋ねるとまだ11歳だそうだ。
理由を聞くとこうだ。
御庭番衆の頭領は世襲制で、前頭領、つまりカガミさんの父君が亡くなったので、その娘のカガミさんが頭領になった。そのことをよく思っていない宰相のホウダイが、意地悪して命じたのだ。
ホウダイの野郎は、自分の手足のように動く御庭番衆を作ろうとしているようで、頭領が幼ないとはいえ目障りだったのでしょう。あわよくばと考えたのか……。
なるほど元凶は宰相か、あいつは初めて会った時から気に食わなかった。目障りだからそろそろ退場してもらおう。
「イケさん、報酬はわかっているな」
「はい、この命に代えても遂行致します」
「よし、わかった。それじゃそろそろ出よう」
「え!」みんな驚いていた。
「どうやって出るのですか?」カガミが不安そうな顔で聞いてきた。
「決まってるじゃないか、入ったところから出ればいい」と、指差した。
カガミが「かなり強力な結界が張ってあります。僕も何度か試しましたが、無理でした」と、残念そうな顔をした。
「そうか?、試して見るか」と、呟きながら反対側に「ジェットキ、扉壊していいぞう、ここから出よう」と、叫んだ。
ドカーンと破壊音を残し、二つのドアが同時に反対側へ吹っ飛んだ。
みんなの顔がお面になっていた。
僕は外から「おーいどうした、早く行こう」と、中に声かけた。
その物音に気付いたのか奥の牢屋に居る人から「誰かいるのか、ここから出せ」と、上から目線の物言いいが聞こえた。
取り敢えずあいつらはほっとこう、面倒くさいし、うざい。
僕たちが上に上がると、鬼たちが金棒を持って待ち構えていた。それはそうだろう、あれだけ派手な音を出せばいくらなんでも気づくだろう。さてどうしようか、こちらは空手だし、あちらさんは武器持ち。鬼族は人間より格上の存在、ふつうなら万事休すだが、何とかなるでしょう。
僕はビリーをオギンの方へやり、タイポイとジェットキとで3人、前衛で構えた。
「タイポイ、死ぬなよ」
「うるせえ」上等な返答だ。
「ジェットキ、カクさんが帰りは船でと言っていたぞ」
「それって、死ねってこと?」うん、いい返答だ。ジェットキは鬼より遥かに格上の存在、万に一つも無いだろう。
「それじゃ、やっちゃいますか」僕の言葉を引き金に戦闘を開始した。
結界の中、僕たちは鬼たちの金棒を巧みに避け、手と足だけで圧倒した。立っている鬼たちが目に見えて減っていった。僕たちより減ったところで、大ダヌキと鬼の長老らしき人物が、闘いの仲裁にはいった。
「長老、俺たちまだやれます」立っていた二人のうちの一人が、叫んだ。
「むだむだむだだ、やめとけ。どう頑張ってもわしらに勝ち目は無いぞ」
「しかし、長老!」立っているもう一人が叫んで泣き出した。
「もうよい、もうよい」長老が慰め「これも運命じゃて」と、呟いた。
どこか訳ありのようだ。
「長老、話聞かせてくれませんか」
「わしら、人間に話すことなーんも無い」
「そうだな」横の大ダヌキが同意した。
そう言われれば、こちらも無理して聞くことはないだろう、取り敢えずほっとこう。
床に倒れていた鬼たちはみな、スケさんの回復魔法で元気になった。長老の一声で控えさせている。
武器も返してもらった。結界はいつのまにか解除されている。
地下牢からゾロゾロと人が出てきた。30人くらいいるだろうか、姿から城に仕える人たちのようだ。顔色も良く、みな元気そうで、意外にも待遇がよいらしい。鬼たちの人となりがわかる。
ひときわ威張り腐っている奴がいた。
「お前らか、早く来んか。まったくもって役立たずが、狭苦しくって死にそうだったぞ。そこにいるのは主犯の鬼か、ただじゃ殺さんぞ……」
僕はむかっとしたので、思いっきり蹴りを入れてやった。領主が床に転がった。周りにいた人や鬼までも唖然とした顔をしていた。
タイポイも頭にきたのだろう。領主の頭を踏んずけて「こんなところに蛆虫がいる。踏み潰そうか、頭ぐちゃぐちゃにしようかな」と、脅した。
「ひー、お許しを」
「お願いします、許してください。だろう」
「お、お願いします、許してください」いまにも泣きそうな声の領主。
「おいおまえら、こいつ連れてさっさとこの島から出て行け」タイポイが周りにいる人たちに叫んだ。
みんなが慌てて出て行った。
負け犬の遠吠えが聞こえたが、気にしないでおこう。




