勇者旅に出る
プロローグ
帝都トキオの宮廷、玉座の間。赤を基調とした複雑な文様をした絨毯が、扉から玉座へと伸びている。三段の階段、その高みには歴代の皇帝が座ったであろう玉座がある。玉座の後方にはひときわ大きな初代皇帝の肖像画があり、そこを中心として、左右の壁には歴代の皇帝の肖像画が玉座を見つめるように配置されている。驚いたことに、広々とした空間でありながら、そこには天井を支えるべくしての柱がなく、歴代の皇帝が一望出来るようにと高度な技術の粋が集められ造られたことがうかがわれた。1000年にも及ぼうかという長き歴史に君臨した歴代の皇帝は、みな頭部に皇帝の証である丁髷が、皇帝だけが許されている紫色の紐で結われている。その皇帝が見つめている玉座から駆け下りて
「失敗だー、失敗だー、失敗だーーー」
ハウス・ヘルス・バーチュリバ皇帝は、喉ちんこが見えるほどに大口を開け、片膝をつき臣下の礼をしているワルダー・クミシ・ホウダイ宰相に詰め寄った。
「あん、あれが勇者か?、勇者ってのは、チートな能力値だったり、特別な能力があったりするんじゃないのか。ランク10ってのは凄いと思ったけど、ほかはひどすぎねーか
種族 ヒューマン
ランク10
レベル 1
生命力 5
攻撃力 3
守備力 3
知力 3
素早さ 3
器用さ 3
運 100
感 5
職業 ギャンブラーLV20
個性 勇者LV1,鑑定ランク1-LV5、アイテムボックスLV1
って、寺子屋の通知表か。それでも悪すぎるわ。それでいて、運だけは100って、おかしくねー、職業ギャンブラーで勇者っておかしくねー、どんだけ残念勇者だ、ポンコツ勇者だ」
そこまで一気に言うと、肩で息してはぁはぁ言い出した。
それとは打って変わって冷静な宰相は
「陛下、なかなかうまいことおっしゃるじゃないですか。それじゃー」と、言って、自分の手で自分の首をはねるジェスチャーをした。
「それはならん、いいか、そもそも勇者召喚は俺が言い出したことだ。失敗でしたじゃ面子丸潰れじゃないか。これが元で、クーデターだっておおいにあり得るからな。ただでさえ、この宮廷には玉座を虎視眈々と狙っている輩がたくさんいる。朝目覚めたら丁髷がなかったってことだって、長い歴史には少なくないのだ」
「うむ、それでしたらこれなんかいかがでしょうか」と、言い、皇帝の耳元で、ヒソヒソごにょごにょ囁いた。
皇帝の顔がみるみる崩れていき「お主も悪よのう」と、言って、呵々大笑した。
第1章 勇者旅立つ
まだ明け染めぬ早朝、僕たちは出立した。
僕は元いた世界では、ごく平凡な少年だった。名前は水戸 赤門、年は14歳、特に秀でた能力もなく、成績も中の中、特技とゆうものもない。ひいていうなら、何でも興味を持つくらいかな。好奇心旺盛といえば聞こえがいいが、僕の場合は広く浅くなんだよね。だから何一つ秀でたものはない。そんな僕が勇者として召喚されたとはいえ一変ってあるわけがない。転生者ならともかく転移者だぜ。急に頭が良くなったり運動神経が良くなったりだと逆にひくわー、怖いわー。
で、体よく追い出されたわけだ。
勇者、諸国視察とかなんとか言われて・・・。
後ろを歩く2人も、勇者の護衛といえば聞こえがいいが、ただの捨て駒、厄介払いだ。
そういえば昨夜と雰囲気がだいぶ違うな。スケさんは赤を基調としたローブを着て、手には身の丈を優に超える魔法の杖を持っている。杖の頭部にある宝珠は魔力増強をさせるもので、かなり高価なものだ。ローブの赤色は火の魔法の能力を向上させるといわれる色で、刺繍には魔法増強の魔法陣が編んである。子爵と言う地位からして相当無理したに違いない。きっと娘を溺愛しているのだと思うと選任した人を殴りたい気分だ。カクさんはといえば、動きやすさを重視した着衣、胸と腕、足にパール色の防御用のプレートを装着している。プレートは、淵が金色になっていて、皆不必要と思われるような装飾が施されていて一見で高価な装備だとわかる。腰に差した剣も、グリップやガードにも精緻な装飾がされ、見るからに高そうに感じるのは流石に公爵家の御息女といったところか……。
昨夜のことを思い出す。
謁見の間を利用して急遽作られた勇者旅立ちのセレモニー。そこには皇帝の姿はなく、ほとんど貴族達の社交の場と化していた。なかにはこちらをチラチラ見ながら笑っている奴もいる。大方の予想は付くし胸糞悪い。いかに僕が軽んじられていたかを理解した。本来であれば、臣下の前で、皇帝直々に勇者への御言葉と勇者の護衛隊が紹介されるはずが、それも当然無い。
参列していた貴族達ももはや主旨はわからなくなっていた。
そんなさなか宰相が二人の女性を連れてきた。
「ご紹介いたします。こちらが勇者水戸赤門様、そしてこちらはミレネディス・セレナティス・スケート子爵様とエリザベート・ジュレリュール・カクラート公爵様です。赤門様の護衛を勤めさせていただく2人でございます」と、宰相が紹介してくれた。
ーー僕よりちょっと背が低く、白いドレスにピンク色の髪をポニテにして、愛くるしい顔立ちが少女っぽのだが、胸元の隆起が大人の女性、魅力たっぷりの娘がミレネ、ミレネ…で、対照的に黒のドレスでスレンダー、僕よりちょっと背の高い金髪のロングヘヤー、整った顔立ちが大人の女性って感じだが、胸はまだ幼い娘がエリザベート・ジュジュ…って、言えるかー、一生かかっても無理だわと、心の中で叫び
「長い呼び名だと大変だから、スケート子爵はスケさん、カラート公爵はカクさんと呼ぶことにするよ」と、その場を誤魔化した。
うん、ちょっと時代劇みたいですけど僕にしてはなかなかいいアイデアと悦に入っていると、スケさんが「それじゃ勇者様はアカちゃんでいいね」と、提案してきた。
アカちゃんって、かっこわる。それは嫌だから
「アカト、もしくはミトさんと呼んでくれ」と、言っといた。
その後、スケート子爵夫妻が来て、大変名誉なことですが、なにぶん娘はドジなところがありまして、勇者様のご迷惑にならないかと心配そうに言ってきた。子爵は流石に毅然としていたが、妻の方は今にも倒れそうなほど動揺していた。僕は両親の隣で顔を赤くしている娘さんを見ながら、ダメ勇者、残念勇者と罵られている僕の護衛を任された、娘の不幸を嘆いている両親に申し訳ないと思った。
その後に、カラート公爵が見え、娘をよろしくと短く言って姿を消した。公爵だから事情を知っているのだろう。冷徹な態度には娘を捨てた印象があった。そう思って、娘に視線を向けると、毅然とした態度で父を見ていた。
その後だれも来なかった。きっとカクさんの公爵とい地位が、からかいに来たくても来れないのだろう。この場はカクさんさまさまだ。
それが昨夜のことだ。もちろん2人のステータスも確認済みだ。
スケさん
種族 ヒューマン
ランク 1
レベル 1
生命力 5
攻撃力 3
守備力 3
魔法力 15
素早さ 3
器用さ 1
運 1
感 0
職業 魔術師LV1
個性 ドジっ子LV3、火魔法 ファイヤーLV1
まったくもって残念だ。特に個性のドジっ子って何だ。それもレベル3って何かの役に立つのか。僕のいた平和な世界ならありっちゃありなんだけど、ここでは即、死につながる。戦闘は期待できないな。だから厄介払いされたんだろうな。
カクさん
種族 ヒューマン
ランク 1
レベル 12
生命力 250
攻撃力 270
守備力 250
魔法力 10
素早さ 250
器用さ 260
運 5
感 30
職業 剣士LV5
個性
驚いたことにこちらは優秀だ。僕の知る限りでは若くしてはなかなかのレベルの剣士だ。よくこんな人を護衛につけたか不思議だが、あの公爵の態度からして想像付く。ここはラッキーと素直に喜ぼう。当面、戦闘はカクさんに頑張ってもらうことにしよう。
一直線に北に伸びた道。広々としているが未舗装の道を、僕たちはてくてく歩いていった。
何事もなく最初の宿場町に着いた。
「ふう、やっと着いた。これで野宿しなくてすむな」と、言うと、カクさんが
「当然でしょ、野宿してたら、命がいくつあってもたりないわよ」と、この人何言ってるんだろうみたいな変顔をこちらに向けて、言ってきた。
はて、何で、どうして、クエスチョンマークが沢山浮かんでいるのを見てか「はー」と、大げさなほどのため息をついて
「あのねー、昼間は神族の世界、夜は魔族の世界なの、魔族たちが跳梁跋扈しているところで野宿したいと思う。いっぺん経験してみたらどう」と、さも常識知らずのアホが、みたいな軽蔑を含んだ視線をこちらに向けた。
カクさんや、忘れていませんか。僕はこちらの世界の人間ではないのですよ。こちらの常識に当てはめるのはやめてほしいですよと、ひとりブツブツ言っていると「あれみてくだい。今日はあの旅籠屋に泊まりましょう」と、助け舟。ナイスですよスケさん。そう心の中で言って、親指を立てて、グッジョブ!のサインを送ろうとしたら、後方の方から「きゃー」と言うスケさんの叫び声が聞こえた。何もないところで、滑って転んだみたいだ。スケート子爵なんだから上手く滑ればいいのにとおもいながら、手を出して助け起す時にステータスを見たらドジっ子レベルが1ポイント上がっていた。
旅籠屋へ近づくと、20階建はありそうな高級ホテルと言っていいほどの立派な建物だった。中はホテルのロビーそのもので、正面にはフロントがあった。そこにはこの旅籠屋のネームの入った和服姿の女性がいて、今日泊まれる部屋の確認をすると、客室の種類を聞いてきた。
客室にはシングル、ダブルだけでなくトリプルやファミリーってのもある。僕が迷っているとカクさんが
「シングル3部屋お願いします」
「シングル3部屋ですね。前払いとなりますが、よろしいでしょうか」
「それでいいわ。まとめてお願いね」
「かしこまりました」とスムーズに応対してくれた。
金額は全部で19500文だった。ひと部屋あたり6500文ってとこか。
*レクチャーその1
そうそう読者諸君には貨幣価値は分かんないよね。一様現代日本(2018年)を基準にレクチャーするね。
この世界の貨幣は鉄銭、銀貨、金貨と3種類あるんだ。
単位はちょっとややっこしくて、鉄銭は文、銀貨は分、金貨は両っていうんだ。で、現代日本の金銭価値でいうと、1文は1円、1分は100円、1両は5000円ってとこかな。
それで貨幣の種類ですが、鉄銭が一文、五文、十文の3種類。これは分かりますよね。続いて銀貨ですが、一分銀貨、五分銀貨は分かりますよね、それと、丁銀貨ってのがあるがこれは1000円ってとこかな。
金貨ですが、1両小判金貨は分かると思うんですが、その上に小判金貨ってのがあって、これは1万円。さらに上に大判金貨ってのがあって、これは10万円もするんだ。
以上です。
さらに蛇足として
僕が持っている所持金ですが、路銀にと渡されたのは、大判金貨10枚つまり100万円。さすが皇帝太っ腹と言いたいけど、日数を考えると結構少ない。
僕たちは渡された鍵を持って、各部屋へと向かった。上に行くには転移部屋と書かれた部屋に入り、出入り口付近にある目的の階の数字ボタンを押す。現代のエレベーターと同じだが、上昇したという嫌な感覚がない。移動したことを知らせるベルが鳴り、自動でドアが開く。外へ出るとそこはもう二階の廊下になっていた。鍵には20cmくらいの長方形のクリスタルみたいなのが付いていて、そこに部屋番号が書いてあった。201号室、202号室、203号室の3部屋が僕たちの部屋で、僕は203号室だった。
ロックを解除して中に入ると、正面が一段高い畳部屋になっていた。壁はクリーム色一色で統一されていて、清潔感と安心感を与える感じで悪くない。すぐ隣にはもう一つドアがあり、開けると洋式のトイレとバスルームだった。和洋折衷っていえば聞こえがいいのだが、なんかミスマッチのような気がする。異世界の人間が言うことじゃないけどね。
靴を脱ぎ畳部屋に入ると、左手の壁際にロウテーブルがあり、その上に横70cm、縦50cmくらいのボードがあった。その横にキーを置き、これなんだろうと見ていると、突然キーが付いているクリスタルから音が聞こえてきた。とっさに手に取ると、カクさんの声が聞こえてきた。
「5時に一階のラウンジで会いましょう。食事をしながら今後の予定を話しましょう」そう言うと声が切れた。これ携帯電話みたいなものかと感心していると?、あれ、ふと思ったが、・・・今何時だぁ~。
第2章 勇者覚醒?
「陛下、お呼びでしょうか」
ワルダー・クミシ・ホウダイ宰相は、膝をつき臣下の礼をしながら謁見の理由を尋ねた。
「うむ、その後勇者たちはどうしているかね」
「はっ、今朝帝都を出られ、サータイマ領に入られたようです」
「うむ、それで」
「この先には、迷いの森があります。日中でも神の恵みが届かない危険な所。間違って入らないように気を付けて欲しいものです」
「そうだな、間違っても入らないよう祈ろうではないか」
「ふふふふふ」
「ははははは」
玉座の間に不気味な笑い声がふたつ、木霊していた。
「ねえ、ミトさんミトさん。今日も旅日和ですね」
「そうですね、スケさん。今日も良きに日なりますよ」
何能天気なこと言ってるんだか。
「あのねえ、ミトさん、スケさん、ここから先はもう帝都領じゃないの。どんな危険があるかわからないのよ。能天気なこと言ってると、痛い目みるわよ」
「大丈夫でしょう。日中は神の加護がありますからね」
「ねー」
「だめだこりゃ、私がしっかりしないと……」
それにしても、こうも順調に旅が進むとは思わなっかたわ。間違いなくこれは罠だ。私はそう確信していた。それなのに未だに何もない。それがかえって不安を煽る。
私は宰相に嫌われている。心当たりもある。それは一年前の模擬試合の時であった。何かと鼻に付く宰相の息子を、観衆の前で、ボコボコにしたのだ。あれからプチ嫌がらせをしてくる。私の家柄が上なので面と向かってはしてこないのだが、プチプチは鬱陶しい。
だから、勇者の従者として同行を命じたのだ。もし断ったら家名に傷が付く。ひいては父の立場も危うくなる。だから従うしかなかった。私はこの旅で死を覚悟している。選択の余地はないのだ……。
だが、何故だ、何故何もない。
思考が纏まらず堂々巡りになり、さらに深みへとはまっていった。だから、微妙な変化に気づかなかった。
標識が逆になっていることに……
相変わらず能天気な会話している二人の後を付いて歩いていると、胸騒ぎというか違和感のようなものを感じた。何だろうこの違和感は、そんな事を考えながら二人につられて歩いていると、違和感の正体に気が付いた。そうだ、向こうから来る旅人が一人もいない。いつからだ、1時間か、それとも2時間か、まったく出会わない。
周りも木々で視界が悪い。何かあるとすれば絶好の場所だ。
その時になってやっと分かった。これは罠だ。だが、時はすでに遅しであった。
「ミトさん、スケさん、これは罠だ」
相変わらず能天気な二人に後方から叫んだ。何事かとポカンとしている二人にことの重大さを説明すると、さすがに顔が青ざめてオロオロするばかりであった。ここはやはり私が頑張らなければと思っていると、林の方から何者かの視線を感じた。ひとつ、いや、ふたつか。視線の数を察知して、剣を抜き、構える。すると視線の主が現れた。
ローウルフか、初心者が狩るモンスターだ。ウルフ種には2種類いる。ローウルフとハイウルフ。見分けは簡単だ。ハイウルフは白いか黒い。ローウルフはどっちつかずのウルフだ。別名灰色狼とも言う。それも2体だけとは運がいいい。だが相手の出方を見ている余裕はない。ローウルフは集団で狩るモンスターだ。仲間を呼ばれたらまずい。いくら弱いからといっても、多勢に無勢ではこちらの分が悪い。ましてや後ろの二人を守りながら戦うのでは絶望的だ。だから先手をうって出た。
右手のローウルフを一刀両断に切り裂く。続いて左へと体勢を変えようとした時、身体に快感とでもいうのか、あのレベルが上がった時に感じる高揚感を感じた。そこに隙ができた。ローウルフが後方の二人へとジャンプした。それを見ていたスケさんが、慌ててとなりのミトさんにしがみ付き共に倒れる。その倒れた拍子にミトさんの杖の先が天を指し、そこにローウルフが突き刺さった。
ローウルフは一瞬で消え、魔石がコロリと落ちた。
*レクチャーその2
この世界のモンスターは、魔石に霊素が集まって実体化したものなんだ。これをこの世界では魔王の呪いと言っているよ。あと、魔石は需要があり、キルドでお金と交換できるよ。それを商売にしている人をハンターっていうんだ。これたからさきでてくるよ。じゃねー。
突然スケさんが色っぽい声を出して身悶えた。僕は驚きじっと見ていると、カクさんが「なに見てんのよ」と言って、詰め寄ってきた。それを右手で制止して見続けた。なにか察したのか、カクさんがどうしたのと聞いてきたので
「どんどんレベルが上がっている」
「どれくらい」
「今、レベル10を超えた」
「え、嘘」
「あっ、止まった。レベル12だ」
「どういうこと」
「さあ?」
「ローウルフのステータス見たんでしょ」
「うん、こんな感じだった。
種族 ローウルフ
ランク 1
レベル 1
生命力 5
攻撃力 5
守備力 2
魔法力 2
素早さ 5
器用さ 1
運 1
感 2
経験値 5
職業 狩人LV1
個性 嗅覚LV10 集団行動LV10」
「それだと、理由がわからないわ。人間のレベルは確か
LV 経験値
1 0
2 20
3 60
4 100
5 150
6 220
7 300
8 400
9 550
10 700
11 1000
12 1200
13 1500
14 2000
15 2500
こんな感じよ」
「すると、スケさんはLV1だったから少なくとも……、5000の経験値を得たことになるね」
*レクチャーその3
この世界では経験値がレベル上げに必要なんだ。経験値はモンスターを倒した時、それと日頃の鍛錬などで得られるのだが、鍛錬だと1日で経験値1か2上げるのがやっとなんだ、カクさんがモンスター退治しなくてLV12まで上げたのには頭が下がりますね。
「あとカクさんも」
「シー」
突然カクさんが指を口に当て言葉を遮った。
「囲まれた」
「なにに」
「ローウルフよ」
「迂闊だったわ、彼らは集団で狩をするの。先なの2匹はやはり先兵だったみたいだ」
(そうだわ、彼らは集団で狩りするモンスター。2匹であるわけがないと考えるべきだったわ)カクさんは自分の油断が招いた結果だと悔やんだ。
「どれぐらいいるか分かりますか」
「たくさんよ。数が多くて正確な数は分からないわ」
「私撃ちます。撃って、撃って撃ちまくります。死ぬまで撃ちまくります」
と、突然レベルが急上昇して気分が高揚しているのはいいのですが、スケさん、死亡フラク立てないでくださいよ。
という事で戦闘開始です。
先陣を切ったのは、カクさんだ。
レベル上昇で鋭くなった剣が炸裂する。1匹、また1匹切るたびに満たされてくるこの高揚感。何年もかけてレベル1上げるのがやっとだったつらい日々が嘘のようだ。鋭く、力強く剣技を繰り出すたびにさらに鋭く、強くなっていく。恍惚感が身体を巡る。私は強くなる。そしてもっと強くなる。そう、あの伝説に謳われた勇者のように……。
一方、スケさんはファイヤーを撃ちまくっていた。近ずいてくるローウルフを次から次へと消し炭にしていく。その度に訪れる高揚感。尽きることなく満たされていく魔法力にバーサーカ状態へと突入していった。それでも尽きることのないローウルフの大群に、とうとうバーサーカ状態に突入したスケさんは、強力な魔法を放った。
ドカーーーーーーーーーーーーン
爆音とともに舞う土煙。視界ゼロ状態に、咳き込む声だけがみな生存していることを教えてくれた。
「みんな、大丈夫か。ゴホッ、ゲホッ」
「だいじょうぶですよ。ゴホッ、ゴホッ」とスケさん
「なんとか。ゴホッ、ゴホッ」とカクさん
意外と声は近かった。
そこへ一陣の風が吹いた。驚いたことに真正面にカクさんがいた。その顔がみるみる赤くなる「このド変態がーー」と、おもいっきりの顔面パンチ。
そうだ、僕、今、爆風で服が裂け、ふるチン状態であったことを忘れていた。
僕は、ヒリヒリする頬の痛みに耐えながら、アイテムボックスから服を取り出して身だしなみを整えた。周りを見ると、木々は一本もなく広大なクレーターの中心地にいた。もちろん、モンスターは1匹たりもいない。
*レクチャーその4
アイテムボックス
この世界にはとても便利なアイテムボックスってのがあるんだ。
何もない空間から予め入れてあったものを取り出すことができるんだ。もちろん収納もできるよ。バッグタイプのものもあるけど、僕みたいな異世界人は異空間にいれることが出来るんだ。かさばらないし、重くもない。それに盗まれることもない。それでいて、結構でかい。どうだ便利だろう。
僕は体裁を取り繕うとひとつ「おほん」と咳払いして
「実は君たちに話しておかなければならないことがあるんだ」
そう言うと、二人はこちらに目線を向けた。
カクさんの目線が痛い。まだ、先なのことを根に持っているみたいだ。それはさらりとおいといて
「君たちのレベルが異常なんだ」
「それは知ってる」二人が声を揃えて言った。
やっ、やりにくい。(-_-;)
「まず、スケさんはこんな感じだ」
と、分かりやすいように、紙に書いて見せた。
種族 ヒューマン
ランク 1
レベル 39
生命力 23000
攻撃力 11000
守備力 25000
魔法力 45000
素早さ 13500
器用さ 27000
運 15
感 14
職業 賢者LV5
個性
ドジっ子LV4、
火魔法ランク1ファイヤ–LV10、
ランク2
ランク3
ランク4
地魔法ランク1
ランク2
ランク3 グラウンドイクスプロージョン
風魔法ランク1
ランク2
ランク3
水魔法ランク1
ランク2
ランク3
聖魔法ランク1
闇魔法ランク1
「とまぁ、こんな感じかな。スケさんはファイヤーしか魔法使えなかったから、多分ここら一帯を吹っ飛ばしたのは、このグラウンドイクスプロージョンていうのじゃないのかなぁ。咄嗟とはいえひとつ魔法を覚えたのはラッキーだったな」
それを見ていたカクさんは
「このランクっていくつあるの」
「ランクはいちよう10ランクくらいあるみたいなんだ。普通のひとで3ランク、超人となると5から6ランクは使えるみたいだ。そして勇者クラスとなると8ランクから10ランクは使える。魔王を倒すとなると最低でも8ランクは使えないとね」
「ふーん、なんでそんなに詳しいの。ひょっとして……?それはないか」
やっ、やばい。カクさんは見様に感がするどいんだから……。へたなこと言えないな。
「とにかく、今、スカスカなところを埋めていかないとね。スケさん」
「はい、頑張ります」と言ったと思ったら、急にショボンとして
「でも、どして覚えたらいいかわかりません」
「ああ、なるほど。それなら僕が教えてやすよ」
「本当ですか!!」と言って僕の方を向いて、キラキラお目目に両手を胸元で組んで、拝むような仕草をした。
それを聞いていたカクさんが
「はぁ、あんた魔法知ってるの」
や、やばい。墓穴をほってしまった。
「おほん、僕はねこれでも勇者だ。勇者に出来ない事はない。なせばなるだ!」とやけくそに言うと、さも、ゴミダメでも似るような半眼になり「あんたばか?なしてもならないからこうなったんでしょう。この残念勇者が」と吐き捨てた。
なんとか誤魔化せたけど、僕、この娘苦手です。
スケさんに、自分のステータスを書いた紙を渡すと、次にカクさんのステータスをみる。
僕が視線を向けると、両手で胸を覆い身構える。そして、鋭い目線をこちらに向ける。
「あのう…。僕、透視は出来ないから安心してください」
「な、なにを言う。このケダモノが。私に、私に、あんなモノを見せるなんて……」
僕、やっぱりこの娘苦手です。
改めて視線を向け、ステータスを確認する。そして、先なと同じように紙に書く。
ざっとこんな感じだ。
種族 ヒューマン
ランク 1
レベル 37
生命力 18000
攻撃力 35000
守備力 18000
魔法力 5000
素早さ 21000
器用さ 22000
運 13
感 30
職業 魔法剣士LV10
個性
正義感 LV1
火魔法剣 LV7
地魔法剣 LV5
風魔法剣 LV5
水魔法剣 LV5
聖魔法剣 LV1
以上だな。
僕が書き終わると、二人は紙を覗き込んだ。
「レベルは私の方がふたつ下なのね」
「でも、ステータスは凄いです」
「ああ、どれも優れているな」
「ステータスって、個人差あるのですか」
「ああ、あるよ。極端に言うと、ランクが大きく左右されされることがあるんだ。だから、勇者クラスになると、レベルが君たちの半分以下でも、これくらいの数値は遥かに超えているよ」
「へー、勇者さんって凄いんですね」
ジー、ジー。あれ、カクさんの目線が痛いんですけど。
「あんた、なんでそんな事知っているんだ」
僕は、カクさんの目線を晒しながら
「ぼ、僕も一様勇者だし……」
「ほう、勇者なんだ」そう言って、急にニコッとして
「じゃー、見せて」
「え!」
「不公平ですよ。私達のばかり見て、自分のは見せないなんて」
「ハイハーイ、私も見たいです」と、スケさんもテンションが上がったのか、大きな胸を突きだしながら、手を上げて同意した。
うぐ、やっぱりこの娘超苦手です。
やばい、バレたか。
僕が狼狽していると、カクさんの目が急にウルウルし出した。そして、顔が真っ赤になったと思ったら、大爆笑。
「カクさん、カクさん、グフ、そんなに、グフ、笑ったら
グフ、失礼でしょう」と言いながらも、スケさんまで釣られて大爆笑した。
僕は不貞腐れて地面に呪いの呪文みたいなのを書いていると、カクさんがとどめを刺してきた。
僕が渡した紙をヒラヒラさせながら、
「さすが、勇者様だわ。素晴らしいステータスだこと
種族 ヒューマン
ランク 10
レベル 1
生命力 5
攻撃力 3
守備力 3
魔法力 3
素早さ 3
器用さ 3
運 100
感 5
職業 ギャンブラー LV20
個性 勇者 LV1 鑑定ランク1–LV5 アイテムボックス LV1
ですって、私たちには到底敵わないわ、運の強さだけは」
と言って、また大爆笑した。
僕はいじけながら相変わらず地面に呪いの呪文みたいなものを書きながら、心の中ではホッとしていた。
カクさんも冷静に見ていれば、表記された数値の不自然さに気付いていただろうに、赤門の運の強さが、カクさんの感の良さをうわまった結果となった。
一通り笑い転げた後、スケさんは聞いてきた。
「あのう、魔法剣って何ですか」
「文字通り、魔法を剣に使うんだ。威力が倍増したり、遠くのものまで斬ることができるんだ」
「すごいですね」
「ああ、すごいぞ。使いこなせれば、戦いが楽になる」
「あのう、ちょっといいか」と、カクさんが割って入ってきた。
「なに」
「わたし、魔法って知らないんだが」
「ああ、そうだな。ちょっと、やってみるか」
「できるのか」
「たぶんね。ちょっと剣を抜いてみて」
「こうか」と言って、正眼に構えた。
「そうしたら、魔法の属性、火とか水とかをイメージするんだ。何でもいいから、自分のイメージしやすいものにするといいぞ。最初は目をつぶった方がやりやすいかな」
カクさんは言われたとおり目を瞑り、イメージした。
アカトには、その魔力の流れが見えていた。
「よし、いいぞ。その調子で、今度は手に集中させるんだ」
手に魔力の流れが集中していく。
「いいぞ、そしたら今度は手から剣へ流すようにイメージするんだ」
魔力がどんどん剣に流れていく。剣が赤くなる。肉眼で見えるほどに魔力が集まりだす。
(凄い。カクさんはやっぱり素質十分だ)そう思いながら、指示を出す。
「目を開けていいから、剣を見て」
目を開けてカクさんが剣を見るとちょっとびっくりしたようだが、すぐに落ち着く。
「今度は、その剣に集まっているものを、振り払うというか投げるように振る」
「えい」と一声発して、カクさんは剣を振り抜いた。
目の前に50mはあろうかと思うほどの巨大な火柱が上がり、地割れを起こしながら走って行く。
「きゃ、凄いです。カクさん凄いです」とスケさんが大はしゃぎしていると
「成功か」と一言言い放ってカクさんは昏倒した。
「だいじょうぶですか」
「ああ、だいじょうぶだ。たんなる魔力切れだ。じきに目を覚ますさ」
そう言い、僕はアイテムボックスから取り出した毛布の上にカクさんを寝かせた。そうしてステータスの確認した。
生命力 1
攻撃力 1
守備力 5
魔法力 0
素早さ 0
器用さ 0
運 5
感 0
見事なもんだ、これなら逆に笑えるのだがな。今の現状だと笑い事では済まされないぞ。
*レクチャー5
魔力使うと生命力がどんどん減って行くんだ。この世界でのステータスは常に変動しているんだ。例えば、思いっきり走ったとする。すると疲れるだろう。当然、それによって、生命力や攻撃力、素早さ等のステータスの数値も減少して行くんだ。魔法使いなんかはその辺のところは本能でリミッターかけているのだが、カクさんの場合初めてだったので、火事場の馬鹿力になっちゃたんだね。良い子の皆さん気をつけてね。
「ああよかったです。安心しました」とスケさんは言った。
僕は考えていた。じきに目を覚ますのはいいが、ステータスの回復には時間がかかるだろう。そうなると、夕暮れまでに宿場町まではたどり着けない。
野宿するか?。いいや、危険だ。二人とも元気ならまだしも、カクさんは弱っている。流石にスケさん一人ではリスクが大きい。それに夜の魔物の強さがわからない以上危険は避けるべきだ……。
しゃーないな、あれやるか。初めてだけといい経験になると思う。考えがまとまったところでスケさんを呼んだ。
「スケさん」
スケさんは、カクさんの放った火柱の跡を眺めていた。
ーーこの先って……。まさかね。
アカトの呼びかけられて我に返ったスケさんは、慌てて
「あ、はい。なんでしょうか」
「うん、ちょうど良い機会だから新しい魔法を覚えてもらおうと思ってね」
「魔法ですか!おぼえたいです」
「そうか、じゃ始めようか」
「どんなまほうですか?」
「ああ、いってなかったな」
「はあ」
「回復魔法だ。スケさんは魔法を覚えられるし、カクさんは元気になるし、一石二鳥だ」
「がんばります」
スケさんは、右手でガッツポーズしながら言った。
「先ずは、両手をカクさんの方に向けて」
「こうですか」と言って両手をカクさんの胸の方に向けた。
「もうちょっと広げたほうがいいよ。一部分の回復じゃなくて全体の回復だからね。第一胸に向けても、元々のちっぱいが巨乳にはならないからね」
スケさんが両手を広げると
「そうそう、そんな感じでいいよ。そしたら、両手に魔力を集め回復するようにイメージするんだ」
両手に魔力が集まるも、うまくカクさんの方へ流れない。
「うーーん、そうだ。スケさんは兄弟います」
「はい、妹がひとりいます」
「病気になったことあります」
「はい、子供の頃よく病気していました」
「そのときはどうしてた」
「早く元気になってくださいと祈ってました」
「それじゃ、カクさんにもそうしてみたら」
すると、魔力がカクさんへと流れだした。
ーーこの娘は、不器用だが、すじがいい。真面目すぎるから、完璧にやろうとする。それがプレッシャーとなって、魔力が乱れる。もっと適当でいいのにな。ちょっとしたアドバイスですぐに出来るようになるのだから。そうあの人のようにだ……。
「アカトさん、アカトさん。大変ですよ。小鳥さんが怪我をして飛べなくなってます」聖女マリア・セント・ピュアリティが金髪の長い髪を揺らし、青と緑のオッドアイに涙を溜めながら僕の方へ駆け寄ってきた。
「あのなぁ、何でもそうやって、怪我した動物連れてくるのやめな」
「だって、怪我して飛べなくなってますよ。猫さんにでも食べられたら大変です」
「それじゃ、猫さんお腹減って死んじゃうかもしれないぞ」と意地悪な言い方すると
「そんなこと言うアカトさん、嫌いです」と、ぷくうっとほっぺたを膨らまセタ。
俺は、あっち方向みながら
「治療してやれば」と、言った。
「できません」
「はぁ、お前聖女だろう」
「聖女でも、できないものはできないの」
「なんでだよ」
「だって、小鳥さんだよ。人間じゃないよ。翼もあるし」
「あのなぁ、翼があろうがなかろうが関係ないの。痛いの痛いの飛んでけーでいいんだよ」
「そんなの不謹慎です。神の冒涜です」
「それじゃ、小鳥さん大空へ飛んで、ならどうだ」
俺が冗談のつもりで言ったのだか聖女は真剣に
「小鳥さん、小鳥さん。大空へ飛んで」と言い、小鳥を持った両手を高く上げた。すると、魔力が小鳥へと流れていった。とても綺麗な流れだ。そして、小鳥は羽ばたき大空へと飛び立った。
「アカトさん、アカトさん。みてください」
聖女はとびっきりの笑顔を向けた。
「ミトさん、ミトさん」とスケさんの声で我に返って僕は、横になっているカクさんをみた。まだ、完全ではないものの、体には生命力が満ちていた。
「うん、これなら大丈夫だろう。上手くやったな」というと、スケさんはチョット涙ぐみながら
「はい、頑張りました」と、言った。
しばらく様子を見ていると、カクさんの瞼が開き、上半身を起こした。すると、突然、眉間に皺をよせ、ブルブルふるえだした。
「だれが、ちっぱいだーー」と、力石徹顔負けのアッパーを繰り出した。
僕たちは、夕暮れ前に何とか宿場町にたどり着いた。カクさんは相当辛そうなので、すぐに部屋で休むことにした。部屋は帝都領のものとそんなに変わらない。ロウテーブルにはあのボードがあり、それに明日の朝七時目覚ましと声掛けた。ボードには時間と7:00アラームと表示された。
シャワーを浴びながら今日のことを思いだしていた。埃っぽくなるし、ボコられるしで散々だったな。だが希望が持てたのは大きな収穫だった。
「ふふ…」と思い出し笑いをした。スケさんは本当にあの人に似ているな。あの時も、そんな時も……。突然怒りが湧いてきて、拳で前の壁を叩き、心の中で呟いた。
ーー今度こそ、今度こそうまくいく。失敗しないさ。絶対に、そう絶対にだ……。