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ちっちゃな冬の女王様と、姑息な初老の勇者さま

公式プロローグ

*****

あるところに、春・夏・秋・冬、それぞれの季節を司る女王様がおりました。

女王様たちは決められた期間、交替で塔に住むことになっています。

そうすることで、その国にその女王様の季節が訪れるのです。


ところがある時、いつまで経っても冬が終わらなくなりました。

冬の女王様が塔に入ったままなのです。

辺り一面雪に覆われ、このままではいずれ食べる物も尽きてしまいます。


困った王様はお触れを出しました。



冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。

ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。

季節を廻らせることを妨げてはならない。

*****


「また、お前か。」

王様は、お触れを見てやって来た初老の勇者を見て、げんなりとした声で言いました。

「はは!、王国の危機と聞き、はせ参じました。」

勇者も苦笑を含んだ声で答えます。

この勇者は、この王国の危機を過去何度も救って来た、この国の功労者です。

ですが・・・

その方法はどれも地味で泥臭く、あるいは姑息で、体力勝負な方法でした。

そのせいで、『英雄』と呼ばれる事もなく、その冒険談はコメディーとして語られれば良い方で、たいていは退屈な苦労話にしかなっていません。

そんなわけで、この勇者にあこがれる者はおらず、格好が悪くて疲れるだけの『勇者』というものになろうとする者は誰もおらず・・・・・

結局、王国の危機となると、この勇者が出張って来る事になるのでした。

この分では、おそらく今回も泥臭い解決となるのでしょう。


それでも、この勇者に救えなかった王国の危機はなく、王様はこの勇者をとても信頼していました。

「まあ、頑張ってくれ。」

王様は投げやりにそう言って、勇者に『季節の塔』への通行証を手渡します。

「はは!、仰せのままに。」

勇者はそう答えて、『季節の塔』へと向かいました。

『季節の塔』は、王都の近くにありますが、とても大事な場所なので、その広大な敷地に入るには許可が要るのです。

勝手に入って良いのは子供と犬や猫くらいです。


敷地の深い雪をえっちらおっちらとかき分けて、やっと『季節の塔』の前へとたどり着いた勇者は、まずは地道にと大声を張り上げて、女王様へと呼びかけます。

「冬の女王様!、冬の女王様!、今年は少々冬が長ごうございます。そろそろ、塔を出て、春の女王様と交代されてはいかがでしょうか?。」

あくまでもソフトに、失礼のないように、お願いですらなく提案という形で女王様に呼びかけるあたり、さすがは長年の経験を積んだ勇者です。

「うむ、苦しゅうない。わらわも、ぼちぼち塔を出たいと思っておったところだ。塔の扉を開けて、わらわを迎えるが良い!。」

塔の上の窓から、威厳に満ちた(ちょっと棒読み口調ですが)可愛らしい声が答えます。

(今回は、簡単に済みそうだな。)

一瞬そう思いながらも、勇者はすぐに心を引き締めます。

これは王国の危機、そんなに簡単に事が運ぶわけがないのです。

ここで気を抜いたら、ひどい目に合うかも知れません。

勇者は、慎重に塔の扉へと近づいて行きました。


近づいてみると、塔は厚い透明な氷に覆われていました。

扉もその厚い氷に覆われ、開ける事が出来ません。

勇者はちょっと考えます。

この氷が女王様が作ったものなら、勝手に壊しては怒りを買うかもしれません。

勇者は、また慎重に、女王様に聞きました。

「冬の女王様、塔が氷に覆われ、扉を開ける事が出来ません。壊してしまってもよろしいでしょうか?。」

女王様が、ふんぞり返った口調で答えます。

「うむ。苦しゅうない。それを壊して扉を開けるが良いぞ。」

「ははーッ、仰せのままに。」

勇者はそう答えて、引っ張ってきたソリから大きな斧を取り出して、厚い氷の壁に叩きつけます。

塔に傷を付ける事がないように、慎重に手加減をして。

カァーン!

そんな乾いた音がして、大きな斧ははじき返されてしまいました。

氷の壁には、傷ひとつ付いてはいません。

「なんと!。」

ただの氷ではないようです。この氷の壁は。

勇者は、今度は全力で斧を叩きつけます。

ガッ!

そんな音がして、今度は氷の壁に傷がつきました。

がっ、その傷は見る見るうちに消えて行ってしまいました!。

勇者は驚いて、女王様に聞きます。

「冬の女王様、この氷の壁はあまりに丈夫で、傷をつけるのがせいぜい、しかもすぐにその傷もふさがってしまいます。もしや、この壁は魔法によるものなのでしょうか?。」

すると、勝ち誇ったように女王様が高笑いとともに可愛い声で答えました。

「おーっ、ほっほっほぉーっ!。そうじゃ!、その氷の壁こそ、不埒な侵入者を防ぐ我が魔法じゃっ!。思い知ったか!?。」

「は、ははぁーっ!。思い知ってございます。」


勇者は、慎重に言葉を選びながら、女王様に呼びかけます。

「冬の女王様、仰せの通りこの氷の壁は私のような者の手には余ります。さりとて、このままでは、扉を開けて冬の女王様をお迎えする事が出来ません。

どうか、この魔法を解いていただけないでしょうか?。」

すると、女王様が横柄に答えます。

「うむ。そうであろう。苦しゅうない、その氷の壁を壊してわらわを迎えるが良い。」

魔法を解いて欲しいという勇者の願いを無視した女王様の答えを聞き、勇者は考えます。

(もしかして、女王様は自分の力を誇示したいのだろうか?)

偉い人達にはそういう人が珍しくありません。

弱い者に無理難題をふっかけ、そのおろおろする様を見て、自分の偉さを実感していい気持ちになるのです。

ならば、せいぜいおろおろして女王様を楽しませるしかありません。

勇者は、わざとらしく大きな身振りで、何度も何度も斧を氷の壁に叩きつけます。

それでも、魔法の氷の壁はびくともせず、かすかに付く傷もすぐにふさがってしまいます。

勇者は、だんだんと汗だくになり息が上がって来ます。

そろそろ頃合かと、勇者は出来るだけ哀れっぽい声を出して、女王様に言いました。

「冬の女王様!、はぁっ。こ、この壁はあまりに丈夫で、わ、私のような者の手には余ります!。冬の女王様の偉大なお力には、と、到底かないません。はぁ、はぁっ。お、お慈悲でございますぅ、どうぞ、どうぞ、この壁の魔法を解いて下さいませぇーーーー!。」

そんな勇者に、女王様は高圧的に言います。

「情けないぞ!、お前の力はその程度かっ!。さっさと、その壁を打ち壊し、わらわを迎えるのじゃっ!。」

勇者は思います。

(う、さすがは、女王様。哀れっぽい演技などは、見抜かれておられるのだろうか?、いや、もしかしたら、女王様はとても残酷な方で、私が苦しむのを見て楽しんでおられるのかも知れない。)

それならば仕方ありません、勇者は本当に倒れてしまうまで、壁を叩き続ける覚悟を決めました。

姑息な手段が通じないとなったら、潔くそれを捨てられるのが勇者なのです。

そして、泥臭いと言われようと、そんな苦難に挑み続けられる心の強さこそが、勇者が勇者たるゆえんなのです!。

勇者は、今度は全力で壁を叩き続けました。

寒い冬だというのに勇者の体からは、湯気が立ち上り、汗が滝のように流れます。

斧を掴む手には、豆が出来、痛くて仕方ありません。

しかし、壁はそんな勇者の努力をあざ笑うかのように、傷がついても、すぐにふさがってしまいます。

並みの者なら、その無意味さに、心が参ってしまったでしょう。

それでも!、勇者はぎゅっと口を引き結び、なおも壁に挑み続けるのでした!。


でも・・・・・

いくら心が強いとて、体力には限界があります。

夕暮れが迫る頃、勇者はとうとう倒れてしまいました。

「ふ、冬の女王様・・・申し訳ご座いません・・・この・・・私めの力では、・・・ここまでが限界のようです。ご期待に添えなくて・・・申し訳、ありません・・・がくっ。」

薄れ行く意識の中、勇者はつぶやくように、塔の上から見ているであろう女王様にそう言いました。

全力で挑みついに倒れた自分の姿に女王様が満足してくれる事を願いながら。

すると、女王様があわてた声で言いました。

「おい、倒れるなっ!、お前が倒れたら、わらわが外に出られなくなってしまうではないかっ!。さあ、立ち上がって、その壁を壊し、わらわを迎えるのじゃっ!。」

(・・・え?)

何か変です。

ぼんやりとした意識の中、勇者は心に浮かんだ考えをそのまま言いました。

「もしや、冬の女王様は、この魔法の解除が出来ないのですか・・・?」

「なっ・・・」

女王様のうろたえた声。

次の瞬間!

ばしぃーーーっ!!!

強大な木枯らしが勇者の体を打ち、吹き飛ばしました!。

「え、ええい、この無礼者め!、わらわを愚弄するかっ!。木枯らしのムチの次は、氷のハイヒールじゃっ!。」

女王様の声が響き渡り、塔の上からたくさんのツララが降って来て、ドカドカと勇者の周囲に突き刺さります!。

「ひぃえーーーーっ!。」

そんな情けない声を上げて逃げ惑う勇者に、女王様の可愛い声が勝ち誇ったように言います。

「どうだ!、思い知ったかっ!?。わらわを愚弄する者は、え・・・えっとぉ・・・もげてしまえっ!、なのだ。おーっ、ほっほっほ!。」

終わりの方で、ちょっとつっかえながらも、女王様は高笑いを上げます。

倒れていたおかげで少し体が休まった勇者は、木枯らしを受けないように姿勢を低くして、慎重にそろりそろりと塔から離れながら、女王様にズバリと聞きました。

「冬の女王様は、自分でかけた魔法の解除が出来なくて、塔から出られなくなってしまわれたのですね?。」

「え、ええい、うるさいうるさいなのだっ!。わらわはちょっと忘れてしまっただけなのじゃ!。母上からこの仕事を受け継いで色々な魔法を試してみただけなのじゃ!。決して、夜の狼の声が恐くて氷の壁の魔法を使ったわけではないのじゃっ!。たくさん魔法を教わったから、ひとつくらい忘れても仕方ないのじゃっ!。」

びゅおぅーっ、ばしばしばしぃーーーーっ!!!

女王様のあわてた声が叫び、あたりを無数の木枯らしのムチが襲い、激しい吹雪が吹き荒れます。

勇者は、雪に潜り込んで、じっとそれをやり過ごしました。


しばらくして、やっと吹雪も木枯らしのムチもやみました。

普通の者なら自分のやっていた事の無意味さに、どっと脱力するところですが、過ぎた事はすっぱりと忘れて次に向かうのが勇者です。

勇者は、優しい声で女王様に呼びかけます。

「冬の女王様、氷の壁を解除する魔法は、どうしても思い出せませんか?。」

「・・・うー、思い出せないのじゃぁー!。」

女王様が、泣き声で言います。

「だから、だから、早くこの氷の壁を破って、わらわを外に出すのじゃぁー・・・ぐすん、ぐすっ・・・」

勇者は、優しくいたわるように女王様に言います。

「この氷の壁は、今の私には破れませんが、きっと方法を見つけて、必ずや女王様を塔の外に出して差し上げます。

ですから、しばしお待ちくださいませ。」

「か、必ずわらわを出すのじゃぞ!?。」

「はい、必ず!。」

力強くそう言うと、勇者は疲れきった体を引きずって、塔を後にしました。


必ずと言ったものの、勇者に具体的な方法の当てがあったわけではありません。

それでも、確かな希望を持って前に進む、それが勇者としての資質なのです。

王都に戻った勇者は、王に面会して、とりあえず現在の状況を報告し、春の女王様に会う許しをもらいました。

まずは、正攻法です。

勇者は、10代の少女の姿の春の女王様に聞きます。

「春の女王様のお力で、塔の氷の壁を溶かしていただけないでしょうか?。」

春の女王様はその桜色の顔を曇らせて答えます。

「それは、無理です。冬ちゃ・・・こほん、冬の女王が塔の中にいる限り、塔は塔の周りも含めて冬の女王の領域。他の女王の魔法は効果がありません。」

「そうですか・・・。では、塔には他の出口はありませんか?。」

「出入り口は塔の根元にある扉だけです。」

「うーん・・・、あ!、窓はどうですか?。」

勇者が聞くと、春の女王様は、恥ずかしそうに手を口元に当てて答えました。

「はしたない!。窓は出入りする場所ではありませんわ。」

「そうですか・・・。」

勇者は、そう答えて、春の女王様の宮を後にしました。


勇者は、姑息と言われるだけあって、言葉の裏やら抜け道を探すのが得意でした。

(出られないわけではない、という事か。)

ならば、他に出られる場所がないのですから、窓から出ていただくしかありません。

ただし、問題はたくさんあります。

まずは、高さです。

女王様は、神聖にして不可侵のお方です。

万が一にも落ちては大変です。

長いハシゴをかけて降りていただくのは危なすぎます。

ロープを女王様の体に縛って下ろす?。とんでもありません!、ロープが女王様の体に食い込んだり擦れたりして、怪我をさせてしまいます。そもそも、女王様の体に触れる事すら許されないのです。

もっと安全な方法・・・

「地道に塔の前に、窓までの高さの階段を作るしかない、か。」

勇者はそうつぶやくと、建設の人手を頼むべく、王様の所へ向かいました。


「それは出来ぬ。」

勇者の頼みを聞いて、王様は言いました。

「季節の塔とその周りは聖域。建物を建てるのはもちろん、地面に穴を掘ることすら許されないのだ。禁を破ろうとする者は、季節の塔の魔法で弾き飛ばされてしまうだろう。」

「なんと・・・」

勇者は、がっかりして、王宮を出ました。


何か方法があるはず。

それでも勇者はあきらめず、方法を探すべく、もう一度季節の塔へと行きました。

現場を良く見て考えるのはとても大切な事です。

良く探せば、使える方法が見つかるかもしれません。

雪に覆われた広大な敷地の中、塔が立っています。

塔へとかすかについている線は、前回勇者がつけた足跡でしょう。

(何か方法があるはず・・・うん?。)

(雪に足跡がつけられるという事は・・・)

ふと思いついて、勇者は大きな雪玉を作り、塔に向かってごろごろと転がして行きます。

地面の雪がくっついて、みるみる雪玉は大きくなって行きました。

勇者は、そうやって大きくした雪玉を塔の前に集めると、今度は横に雪でゆるい坂道を作って、雪玉をどんどん積み上げて行きます。

雪玉の山は、少しづつ高くなって行きました。

勇者は、にやりと笑います。

(どうやら、雪で作った山は『建物』の内に入らないようだな。)

こうやって雪を集めて塔の前に大きな坂道を作れば、女王様を塔の窓から出せます!。

女王様が『はしたない!』と言って窓から出て来てくれない恐れもありますが、とりあえず、勇者は応援を頼むべく王宮へと戻りました。


「何!、雪の山ならば大丈夫なのか!?。」

王様はそう言って、近隣の村人に勇者の手伝いをするように、命令を出してくれました。

「さすが、『泥くさ勇者』だけあって、力技な方法だねぇー。」

「いやまったく、『姑息勇者』だけあって、あいも変わらず姑息に抜け道を探すもんだ。」

村人たちは、苦笑してそんな事を言いながらも、喜んで手伝ってくれます。

冬が終わらなくて一番困っているのは、農業をやっている村人達なのですから。

村人達の手伝いのおかげで、雪の山はみるみる高くなり、大きな坂道が塔の横に出来て行きます。

そうして数日が過ぎ、坂道の高さが塔の高さの半分ほどになった日のことでした。

冬で畑仕事が休みなのに、連日出かけて行く大人たちに好奇心を抱いた村の子供たちが、大人達の後をつけてやって来たのです。

「うわぁー!、大きな滑り台があるっ!!。」

大人たちが作っている物を見て、子供たちは歓声を上げました!。

そして、止める大人達の手をかいくぐって坂道へと登り、滑り降りて来ます。

「わぁー!、きゃぁーっ!。」

1人が滑り降りれば、もう競争です!。

子供達は、次から次へと坂道に登っては、滑り降りて来ます。

あっという間に、坂道はつるつるの滑り台と化してしまいました。

子供たちが遊んでいては、作業が出来ませんし、坂道がつるつるになっては、滑ってしまって材料の雪玉を上げるのが大変になってしまいます。

大人達は、子供達を捕まえようとしました。

その時です!

「何をしているのだ?。おおー!、何と楽しそうなものを。」

塔の天辺の窓から、冬の女王様が可愛らしい顔を出してそう叫んだのです。

「わらわも遊ばせるのじゃぁー!。」

女王様は、そう叫んで窓から身を乗り出します。

「あっ!、危ないっ!!!。」

坂道の高さは、まだ塔の高さの半分しかないのです。落ちたら命を落とすかもしれません!。

勇者を始め、大人達はそう叫んで塔に駆け寄ります!。

その目の前で、女王様は手を滑らせて、窓から落ちました・・・!。


村人の大人達は、ぎゅっと目をつぶりました。

勇者ただ1人が目を開けて女王様が落ちるのを見ています。

勇者たるもの、どんな時でも現実から目をそらしてはいけないのです。

時間が凍りついたような一瞬。

「降臨!。」

凛とした女王様の可愛い声が響きます。

女王様の足元に大きな雪の結晶が生じ、女王様を乗せてゆっくりと降りて来ます。

周囲には細かな雪の結晶が舞い、キラキラと輝いています。

「うわぁーーーっ!、すっごーい!。」

その神々しい姿に、子供たちが歓声を上げて迎えます。

子供達の歓声に、大人たちがおそるおそる目を開けた時、女王様は坂道の天辺に後光を背負って立っていたのでした。

「そーれぇー!。」

女王様は、うれしそうにそう言うと、神秘的なドレスの裾をまくり上げて、雪の坂道改め雪の滑り台を滑り降りて来ました。

女王様の無事な姿にほっとするやら、その可愛い姿に微笑ましくなるやらで、大人達は足の力が抜けて、その場にへたり込みます。

1人の村人がつぶやくように言います。

「女、女王様、そんな事が出来たのですか?。」

女王様は得意そうに答えます。

「うむ。こんな事も出来るぞ。『アイススパイリン!』。」

女王様がそう言って手を振ると、雪が渦巻き、雪の滑り台の横に美しい氷の螺旋階段が出来ます。

「うわぁー!!!。」

子供たちがまた歓声を上げます。

「これで、登りやすくなったであろう。・・・さあ、遊ぶのじゃっ!。」

女王様はそう叫ぶと、螺旋階段を駆け上って行きます。

子供たちが歓声を上げて、その後に続きます。

「あはは・・・・・。」

あんな事が出来るなら、最初からそれを使って塔から出られただろうに。

大人達はへたり込んで、楽しそうに遊ぶ女王様と子供達を眺めながら、自分達の苦労は何だったのかと、力なく笑うのでした。


日が落ち始める頃、夕焼けの赤い光に、勇者がふと見上げると、空はいつの間にか鉛色の雲が吹き払われ、晴れ渡っていました。

子供達は遊び疲れて家に帰り、冬の女王様もさすがに遊び疲れたのか、氷の玉座を出して休んでいます。

そんな冬の女王様に、後ろからやさしい声がかけられました。

「もう十分遊んだ?。」

「うむ、わらわは満足じゃ!。」

冬の女王様が振り向くと、そこには春の女王様がやさしい笑みを浮かべて立っていました。

「では、交代してね。」

春の女王様はそう言って、冬の女王様に手を差し出します。

「うむ、交代じゃ!。」

冬の女王様が、氷の玉座から立ち上がりその手にタッチします。

すると、パキーンという音がして、塔の周りを覆っていた氷の壁が砕け散りました。

続いて、氷の螺旋階段が、氷の玉座が。

「では、後は頼むぞ!。」

冬の女王様は、そう言って春の女王様が乗って来た輿に乗り込もうとします。

すると、その耳に顔を寄せ、春の女王様がこっそりと言いました。

「来年からは気をつけてね?。窓から出るなんて、はしたない事なんだから。」

冬の女王様は、顔を赤らめ、うろたえて言います。

「あ、あれは、落ちただけじゃ!。わらわは窓から出たのではないぞ!。」

「はいはい。」

春の女王様はにっこりと笑って、冬の女王様の頭を愛おしげになでると、塔へと入って行きました。

その背中を、ちょっぴり口を尖らせて見送り、冬の女王様は自分の宮へと帰ったのでした。


それ以来、この国では春が待ち遠しい頃になると、季節の塔の前に子供たちが滑り台を作って遊ぶお祭りをするようになったそうです。


めでたしめでたし。



ちゃんちゃん!



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