旅先での恐怖
日々の日常に変わらない毎日に飽き飽きしていた私はブラリと旅に出ようと考えた。
平日は仕事の為休みを使っていくことに。場所は特に決まっていない。
気が向いた場所にふらりと立ち寄る。そんな旅に憧れを持っていたから。
今日は日曜。
どこかで宿を取らないと。あっ、でも予約してないから取れないかも…と不安な面持ちである民宿の宿に立ち寄った。
そこはお世辞にも綺麗とは言えなかったが、家族的な作りであることと、少人数しか受け付けていないらしく、空きがあれば泊まろうと考えた。
入り口は小さく可愛らしい机があるのみ。
その机には鈴らしきものが置かれていた。鳴らせば出てくるらしい。
チリーンと鳴らすと奥から「はーい」と返事と共にこれまた綺麗な女性が着物を着て現れた。
「あ、あの〜?ここの方ですか?」
「はい、そうですよ。お泊りですか?」
「はい。予約はしてないんですがあいてますか?」
「お客さんはお一人ですか?」
「はい。」
「なら大丈夫ですよ。2名様の部屋が1つだけ空いてますから。」
「あ〜、良かった。じゃあお願いします。」
「はい。ではこちらへどうぞ。」
テキパキと動き、無駄がない。
私の荷物を持って奥の部屋へ案内してくれる。
この民宿は二階建てなので、どちらになるのかと思ったら一階の方で、奥の部屋だと言われた。
案内されたのは一階の1番奥。
景色はまあなんとか見れるかな?でも、部屋に露天風呂は良い。疲れた体をほぐしたかったのでご飯前にでも入ろうかと思った。
「露天風呂はいつでも入っていただけますよ。お食事はそれからにされますか?」
「はい、そうしていただけるとありがたいです。」
「わかりました。なら、出られたら内線でおしらせください。」
そう言って女性は部屋を後にした。
私は早速露天風呂に入ろうと準備する。
その時ピチャッと音がどこからか聞こえた。てっきり露天風呂の水の流れる音かと思ったのだが、それにしては…変だ。
それでも気にしないようにして入浴する。
疲れた体にお風呂の水が気持ち良い。
浴槽内で足や腕をよ〜くマッサージする。
そして浴槽から出てよく体を拭き服を着る。
その時、ふと誰かの視線を感じた気がした。
でもこの部屋には今は私しかいないはず。
気のせいねと一人納得して備え付きの電話を取り内線電話で食事の準備をお願いした。
しばらくすると女性がやってきていろいろな料理をテキパキと並べていく。
どれを見ても美味しそうだ。
一人で食べるにはさみしいと思いテレビをつけた。チャンネルをくるくる回しバラエティをかける。
部屋には笑い声が絶えなくなった。
笑いながら食べるので食も進み早く食べ終わった。
内線電話で片付けをお願いし、私はぶらりと旅館内を探検することにした。
対して大きくないので直ぐに見終わり部屋に戻ると布団が敷かれていた。
まだ寝るには早い。時間は午後9時。テレビを見て時間をつぶしたり、携帯をいじったりして過ごした。読みかけの本も持ってきているので気が向けば読んでいた。
その時ピチャッとどこからか音が聞こえた気がした。何処だろう?隣の部屋からかな?私はあまりこういうのは得意ではない。こういうの…とは、お化けとかだ。お化け屋敷にさえ怖くて入れないのにましてや一人旅、怖くなったら寝られなくなってしまう。
初めは部屋の電気を消して寝ようと思ったのだが、怖くなってきた為電気はつけたまま寝ることにした。でも明るい為なかなか寝付けない。
音も大きくなったように聞こえ、テレビをつけて誤魔化してみた。
初めは良いのだが、眠気が襲ってくるとあの音が聞こえてくる気がして寝るに寝られない。
音がした。
テレビの音量を消し、耳を澄ませると露天風呂の方から音がする気がした。
怖い、怖い、怖い。
露天風呂はさっき入ったばかり。
今は誰も入ってはいないだろう…。
時計を見ると夜中の2時。
もしかして…ここ、出るの?
そんな不安を抱えたまま布団に潜り込んだ。
ヒタヒタ…。
誰かが歩く足音が聞こえた気がした。
もう怖くて頭まですっぽりと布団の中に入っている。ただひたすら時間が過ぎるのを待った。早く朝にならないかなぁ〜などと思っていても思い通りにいかないのが現実だ。
ギュッと両目をつぶって寝よう寝ようと思った。その時足音が聞こえた気がした。何かこう…引きずるような感じで。。。
それが近くで聞こえた気がして怖くてたまらなかった。
夜中だけど怖いからいいよねとひとり勝手に何か納得して慌てて部屋を出た。ガランとした部屋の前は何もない。
それでも何かいる気配がして仕方がなかった。
携帯のライトモードをつけて明るくするも特に何か変わった風ではない。その時周りを明るく照らした時真っ青な顔をした女将さんが目の前に立っていた。
「ヒーッ!」
私はビックリして腰が抜けてしまった。
立っていたと思った女将さんの足が宙を浮いている。
再度女将さんを見ると口からは血が出ていた。そう、首を吊った女将さんがいたのだ。
それが宙を漂いながら近寄ってくる。
慌ててその場から逃げ出す事ができた私は着の身着のままで民宿を後にし、近くの家に助けを求めた。
出てきたのは年老いたお婆さんで、私があんまり慌てているのでコップ一杯の水を持ってきてくれた。私はそのままゴクゴクと一気に飲み干し、今さっき会った事を話して聞かせた。するとお婆さんが恐ろしい事を話してくれた。
私が泊まった民宿はもうずいぶん前に閉館していたとのこと。何でも採算が合わなくなって借金をこさえちまった民宿の女将がそれを苦にして首を吊って自殺したらしい。
それがちょうど一年前。
知らない人はいないが、知らずに来た人も何人かいて、怖い目にあったと人づてで聞いているそうだ。
それを聞いた私は怖くなってしまった。
汗が止まらない。
そんな体験するなんて思いもしなかったからだ。
ただ問題は1つ。
部屋に荷物を置いてきてしまったことだ。夜のこんな時間にあの民宿に行く勇気はなく、翌朝改めていくということになったのだが、いかんせんてもちがまったくない。財布も部屋に置いてきてしまっている。どこかに泊まることはできない。困った〜と考え込んでるとお婆さんがうちに泊まりなよと言ってくれた。見ず知らずの私を泊めてくれるとは…感謝して泊まらせてもらうことにした。
そして翌朝朝早くに目が覚めた私は民宿があった場所に向かった。
しかし、実際見た民宿は荒れ果て雑草が生い茂っていた。
一回の1番奥の部屋に荷物を取りに行くとそのままに置かれていた荷物があった。
これ以上ここにはいられないと慌てて荷物を手にその場から逃げ出すとお婆さんが出迎えてくれた。
「すみません。ありがとうございました。これで帰れます。」
「そりゃよかったね。気をつけて帰りなよ。」
お婆さんはそれだけ言うとその場からゆっくりと歩いて行った。自宅に帰るようだ。
私も自宅に帰るために電車に乗った。
今度からは泊まるところは確認して前もって予約しとこうと思った私でした。




