生産者と未知の出会い
金曜日なんじゃ~。
酒飲んでたくさん寝るんじゃ~。
あ、金ないや。
アイリの故郷であるピレスト村にたどり着いたのは一晩明けての事だった。
紫月はのびのびと背伸びをした。
ガタガタ揺れる馬車の中ではなかなか寝付けなかった。
アイリも欠伸を掻いていた。
村は一目見ると何ともなさそうに見える。
「それじゃいこっか」
シヅキはアイリについていく。
しばらく歩いていくと村の雰囲気はがらりと変わり始めた。
窓やドアがない家々が見えはじめたのだ。
「おおアイリ! 来てくれたのか!」
しばらく歩いていると道の向こう側から一人の老人が走ってきた。
「村長、村はどんな感じですか?」
村長と呼ばれたその人は額の汗を拭うと険しい顔になる。
「どうもこうも畑を持ってかれてな。貴重なマンドラゴラ畑は壊滅じゃ」
シヅキはそれを聞いてドキッとした。
マンドラゴラなるものは一体どんなものの材料になるのかと好奇心がくすぐられる。
「ところでそちらの男性がシヅキ君かな? 物を修理したり作ったりできるそうじゃないか」
「え? あ、はい」
シヅキが返事をすると村長は急に晴れやかな表情になった。
「ついて来てくれ。直してほしいものが山ほどあるんだ」
よっぽど困っていたのか詳しい説明も自己紹介もないままシヅキは引っ張て連れていかれた。
シヅキはその日、労働の喜びを自覚した。
たくさんの壊れた道具を修理し、水門や水路の修繕まで手伝った。
今まで触れてこなかった新しいタイプの作ることと直すことに彼は夢中になった。
そしてその夜、村の集会所で宴が行われた。
シヅキは満足の内に宴を締めくくり、喜びを感じながら眠りにはつけなかった。
宴は最初こそ秩序を保っていたが時間が経つにつれ統制を失い、今や狂乱の宴となっていた。
「シヅちゃん、抱っこ」
お酒が入るにつれてアイリは退化していった。
そして今は幼児のレベルまで退行していた。
「いや、飲み過ぎですよアイリさん!」
「抱っこ抱っこ! ぎゅってしてくれなきゃやだ!」
「ちょ!? 抱き着かないでくださいよ! おっぱいあたってますよ!」
アイリは酒癖が悪かった。
さっきから頬にちゅっちゅキスしてくるわおっぱい押し付けてくるわで最初は喜んでいたシヅキもさすがに困惑し始めた。
というかこの集団、行儀のいい人などいなかった。
みんなどこかかしこで暴れまわり飲み散らかし、台風が過ぎ去った後のように滅茶苦茶になっていた。
シヅキは目の前のすでに潰れたアイリを部屋に運ぶことにした。
布団の上で大きな胸が規則正しく上下に動いていた。
その姿を見るだけで心が癒される。
ああ、なんてすばらしいんだろう。
シヅキは触りたい衝動をぐっとこらえた。
欲望なんかに負けないという不屈の意志で卑しい心を乗り越える。
窓の外を欲望の塊から目を逸らすために見た。
そしてギョッとした。
青い光の柱が立っているのだ。
ただそれだけならサーチライトか何かかと思ってスルーしているところなのだが、つい最近魔法の使い方を覚えたシヅキにはその光が高濃度の魔力であることが見て取れた。
シヅキは急いで支度をして外に出た。
大人たちは皆酔いつぶれてダメになっていたので一人で行くことにした。
光の柱まで走っていくとそこには大きな川が広がっていた。この川が最近氾濫した川である。
柱は水の中から出ていて、シヅキは恐る恐るその発光物を手に取った。
「これは、短剣か?」
柄は淡い藍色、そして刃は綺麗な銀色の短剣が沈んでいた。
シヅキはその短剣に見とれた。
あまりの美しさ、そして神秘性が心を放そうとしなかった。
しかし、その興奮もいきなり降り始めた雨によって洗い流された。
土砂降り。
シヅキは大慌てで近くにあったほこらの屋根の下まで逃げ込んだ。
雨はしばらくやみそうになかった。
「えらいことになったな」
状況が変化するのに時間はかからなかった。
手元の短剣が魔力を帯び始めてきたのを感じたのだ。
そして、光の柱が再び現れた。
しかし今度は空に伸びずにほこらに向かって光は伸びた。
シヅキは導かれている気がしてほこらの扉を開けた。
中には鏡と、器が置いてあった。
光はその器を示している。
シヅキはその器に短剣を置いた。
ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!
突然鳴り出した不快な音に思わず耳をふさぐ。
頭が揺れる。
気持ち悪い。
シヅキはその場に膝をついた。
立っていられない。
しかししばらくしていると音は鳴りやんだ。
「……な、なんだったんだ?」
「ああ人間様、お待ちしておりました」
突然声を掛けられてギョッとした。
美しい女の声。
しかし、その声色には魔力が漂っている。
シヅキは恐る恐る顔を上げた。
目の前にいるのは黒髪を後ろで束ねた背の低い女の子。
いつものシヅキであれば見るなりその出会いを喜んでいただろう。
セクハラをしたかもしれない。
だが、怖い。怖いのだ。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい……!
なぜそう思うのか。
それは分からない。
しかし目の前の女の子からは今まで会ってきた人間とは決定的に違う何かがあるのだ。
「さあ人間様、一緒に」
女の子は近づいてくる。
足が動かない。
恐怖ですくんでるのではない。物理的に動かないのだ。
女の子はそんな動けないシヅキの首に手をかけた。
最初は手のひらの柔らかい感触があったが、その力は徐々に強くなっていく。
(殺されるッ!)
確かな確証。
今自分が殺されかかっているという事実を認識した。
「私と死んでくださいな」
美しい目だと思った。
顔立ちも端正で、体つきもなんかエロい。
こんなにかわいい子になら殺されてもいいかなと一瞬思ってしまう。
……。
…………………。
「うちの店員に何してくれてんだ」
小説書くんじゃ~。
明日用事あるからやっぱり寝るんじゃ~。