プロローグ 始動
前回のはプロローグではありません。
こっちがプロローグです。
今シヅキはとある雑貨屋の世話になっていた。
ここペル共和国の首都リースの大通りに面するこのこじんまりとした雑貨屋を経営しているのはロベルトという中年の男性でとても気前のいい人である。
この人との出会いはさかのぼること一年前、彼がこの異世界に降り立って早速途方に暮れていた時の事であった。
~1年前~
(ここに来たはいいがお金もなければ仕事もない。どうしようか)
紫月は途方に暮れていた。
異世界に来てすぐに町に着いたのはいいのだがお金がないのでどうしようもない。
あの死神は本当に能力だけを置いていったようでそれ以外のお膳立ては何もしてくれていないらしい。
「薄情なやつだな」
死神に情を求めるのがそもそもの間違いな事には気が付かない紫月であった。
しかしあの死神が用意してくれたものは本物であったようで紫月は本当に超常的能力に目覚めてしまったらしい。
昨日の晩のことである。
暗くなってきたので火が欲しいなと思いどうしようかと考えた時、近くにあった木材を試しに手に取って念じてみた。
すると木材がまばゆいばかりの光に包まれて気が付けば、それは歴史博物館などでよく見る火おこし機に変化していた。
いや、どちらかと言えばこれは生産のほうが表現としては適切だろう。
その晩、紫月は一睡もせず狂ったように火をおこした。
人類の文化は火の文化と言ってもいい。
「うひょおおおおおおおお! 燃えるで燃える、人類最初の聖火じゃあああああああ!」
紫月は人類が初めて火を手にした時の気持ちをその時全身で感じ、うなりをあげながら火をおこし続けた。
そして次の日になって興奮が収まり町を見つけて今に至る。
ロベルトは朝の優雅なティーブレイクを楽しむべくいつもの喫茶店を目指していた。
店員さんに巨乳で若いお姉さんがいるので朝一番で彼女に元気をもらうために毎朝足を運んでいる。
そんな彼の目に昔は随分と一般的であった洋服を着た人間が映った。
ロベルトもかつては地球の出身者なのである。
その日彼はお姉さんとの会話を楽しんだ後に洋服を着た人間、紫月の身柄を保護したのであった。
そしてそれから一年が経った。
ないお金はペル共和国の徴兵制度を利用して稼ぎ、最近契約が切れたため現在はロベルトの元で働いている。
ちなみになんで徴兵制度を使ったのかというと、それはお金を稼ぐのと同時に学問を無料で納めることが出来るという利点があったからである。
シヅキのスキルはp能力、プロダクションキャパシティーと呼ばれるものであるらしくそれを教えている学科があったので当然のように受講。
p能力は簡単に言えばどこでも自分の知っているものであれば材料さえあれば生産できるという物である。
工業製品を機材なしに魔力で生産できるチート能力であるのだがなぜか受講している人は少なかった。
なぜか。
それはこの国の二大職業の騎士と魔法使い、そしてp能力のコスパの悪さにある。
人気のない職業ということである。
何とも納得のいかない事実であるとシヅキは思った。
ちなみに彼には騎士の素質も魔法使いの素質もありませんでした。
シヅキは店番をしていた。
今ロベルトは喫茶店に行っている。
そんな暇な午後の陽気の中、店のドアが開いた。
「シヅいる?」
「いらっしゃいま、なんだエステルか」
「折角お客さんとしてきてあげたのにその言い草は失礼だぞ」
突然現れたエステルという名の少女はシヅキが徴兵時代に知り合った騎士養成学校の生徒で容姿端麗頭脳明晰スポーツ万能と見かけでは欠点など見当たらない美少女である。
性格が残念でなければ完璧である彼女は友達がいない。
そのためとある行事で知り合って以来ずっとつるんできている仲である。
「私は暇じゃ。かまえ甘やかせ!」
そう言うとエステルはシヅキの膝に勢いよく腰を落ち着けた。
「悪いなエステル、この椅子一人用なんだ」
「じゃあ私に譲れよ~」
シヅキが17歳、エステルが15歳という年齢差もあってか彼女の体がかなり軽かった。
「どうした。またクラスの奴らにはぶられたのか?」
「ん? なんか言った!?」
「なにも」
どうやら何かあったようである。
今にもキレそうだよ言わんばかりの形相で微笑んでいた。
「ところでこの椅子ってこの前まであったっけ?」
「よくぞ聞いてくれました! これは俺の自作にして今までの中で一番の出来のイスなのだ!」
さっきまでのだるそうな雰囲気が一転、シヅキは目を輝かせた。
「すごくいいだろこれ! 細部にまで作りこみをしてあってめちゃくちゃ苦労したんだ! 一気に作らずに部品ごとに分けて作って、設計図まで書いたんだぞ。俺が!」
物を作ることにかけての情熱は他の追従を許さないと言わんばかりの勢いでエステルに説明していく。
エステルはまたいつもの発作かと適当に相槌などを返していた。
しばらくエステルと色々なことを話していた。
最近の学校の事や製作活動のことなど。
すると突然店のドアが乱暴に開け放たれた。
二人がその方を見るとクマのような大きな男が立っていた。
「わが店に足りないものを言ってみろ!」
「店長の人望」
容赦なくシヅキ。
「私みたいに可愛い店員じゃない?」
「ないない」
シヅキは笑いながら否定。
直後頭を絞められた。
あばら骨がゴリゴリあったってちょっと痛い。
「どっちも違うわ! 特にシヅ!」
ロベルトは店の奥から黒板を取り出してくるとチョークで殴りかく。
黒板にはマスコットと書かれていた。
「俺の店には愛嬌が足りていないんだ!」
黒板を叩きながら目を見開く森のくまさんにエステルが店の奥からはちみつを持ってきて差し出した。
「怒んな怒んな、当分足りてないんでしょクマさん?」
「俺はどこぞのプ―じゃねぇえええええええええ! そうではない。わが店には愛嬌のあるマスコットキャラクターが必要だと言いたいのDA☆」
この中で一番愛嬌のないおっさんが言うと妙に説得力があった。
「くだらない。何がマスコットだ。考えるだけ時間の無駄だ」
シヅキは興味なさそうに息を吐いた。
「そういうな。マスコットキャラクター作成にあたってお前には着ぐるみの作成を依頼しようと思っているのだが。もちろん材料は使いたい放題だ」
「マスコットキャラクター最高! 日本のゆるキャラの力を見せてやりますぜ兄貴!」
シヅキの手首は球体関節で出来ていた。
「エステルも手伝え。小遣いもだそう」
「え~めんどい……。でもいいよ。暇だし」
エステルはシヅキの服の袖をつかむ。
「だから明日また来てもいいよね?」
少し不安そうに二人に問いかける。
この期に及んで俺達も自分をハブるのではないかと不安になっているのだろう。
「ああ、もちろん。しっかりと手伝ってもらうからな」
シヅキもそんな少女の心を察してか、いつになく気を使っていた。
「よし! ではロベルト雑貨屋マスコット計画始動だな!」
今までことごとくの作戦は無事失敗してきた。
今回はどうなるのやら。
早速一人ブックマークの人が増えました。
ありがとう!
くだらない話しか書かないけど今後もよろしくお願いします。
ちなみにこれからもこの欄に雑談など書いてきます。
読んでくれる人もいないと思うので独り言だと思ってスルーしてください。