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もっと、きままに!  作者: たか式
3/3

3限目 友達!

「……時間だ、答えを聞こう! 」

どこか愉快そうに、そふとが言う。

給食を食べ終え、今は昼の休憩時間。

私たちは、いつもの様に私の席に集まって、おしゃべり。

「なんのことだよ」

「えー? ゆるりんが、女の子みたいになりたいって話」

「そんなこと言ってないだろっ?! 」

「ありぇ~?? そうだっけぇ~??? 」

「そうだよ!! 」

「大丈夫大丈夫、心配しなくても、ゆるりちゃんは立派な女の子だよ~? 」

「だ~か~ら~!! 」

普段の落ち着いた姿とは違った表情を見せながら怒るゆるり。

ゆるりは、この二人には弱いみたいだ。

「きまっちも、ゆるりちゃんには女の子らしくなって欲しいって思うよね~? 」

「え、あぁ……、うん。その方が可愛いと思うよ」

ふわりに唐突に話を振られ、私は慌ててそう答えた。

「な、何言ってんだきままぁ?! 」

「ほぉ~、きままも言うようになりましたね~……」

そう言って、何故かどこか関心したようにうんうんと頷くそふと。

「きまっちひどいっ! 私にも可愛いって言ってよ~!! 」

「えぇ……? 」

一人で真っ赤な顔を隠しながら俯くゆるりを見ながら、私は呆然としていた。



--------------------------------------------------



――――キーンコーンカーンコーン



授業の終わりを示すチャイムの音が鳴る。

時刻は、十六時。一年前を比べて、一時間帰る時間が遅くなっている。

(低学年の頃は、十四時くらいに授業が終わるのが普通だったのになぁ……)

私は机の中の教科書類をランドセルの中に入れながら、昔の学生時代のことを思い出していた。

「きまっち~」

「あ、ふわり」

「帰ろっか」

「うん……」

私は用意を済ますと、目の前の幼なじみと一緒に、教室の扉へ向かった。。

「あ、二人とも帰るの? 」

「え? うん……」

そふとと喋っていたゆるりが、私たちに声をかける。

「ワシらも一緒に帰るで~」

「結局いつものメンバーか」

「きっと、離れられない絆で結ばれてるんだよ~」

私は、そんな三人の会話を聞きながら、一緒に教室を出た。



--------------------------------------------------



「だああああつっかれたああああ」

オレンジ色に染まる空の下で、そふとが伸びをしていた。

空がこんな色になるまで学校にいたことは、去年までの私たちにとっては珍しいことだった。

「久々の学校だもんね~」

「学校が始まって早々、この時間まで授業だしなぁ……」

ゆるりがちょっと愚痴気味にそう言う。

「あ、あの……ふわり」

「ん? 」

「なんで腕組んでるの……」

「え? きまっちがどこにもいかないよーに! だよっ! 」

「私はペットじゃないぞ……?! 」

さっきから私の腕と自分の腕を組んで離そうとしないふわり。

「ラブラブやなぁ~……じゃあワシらも……」

「ちょっ、抱きつくなっ?! 」

「もっと女の子らしく素直になれや~」

「そ、そふとも女の子ならもっと女の子らしくしろぉ?! 」

二人は、楽しそうだ。

まるで、四人でダブルデートでもしているみたい。

「なんか、楽しそうだね、きまっち」

「……え? 」

「なんというか……今日、ずっと浮かない顔だったから……」

「別にそんなことは……」

私そんな顔してたのか……?

「いや、まぁ私がそう見えただけだけど」

何やら安心した様な顔で、ふわりが話を終わらせてしまう。

おかげでこっちはモヤモヤしたまま。

「ん? 二人とも何話してんの~? 」

「え、二人だけの秘密~」

「なんだそれ」

そふとたちに聞かれ、ふわりは適当にそう答える。

「あぁ、ここでお別れかな」

気づけば、ゆるりとそふとと分かれる道に出た。

「もう着いちゃったかー」

「まぁ、明日も会えるしね」

「じゃあ、何か最後に言い残すことはないか? きまま? 」

「えっ、私……? 」

そふとからのフリに、私は戸惑う。

「じゃあきままの最期の締めで、解散だな」

(ど、どうしよう……)

三人が何やら期待の目でこちらを見てくる。

私は、考えた。

『今日はお疲れ様、また一年間よろしく! 』

これは、普通すぎる。つまんねぇ奴……となって場が白けるに違いない。

『五年生になろうと六年生になろうと、お前らはずっと私の親友だ!! 』

インパクトはあるが、言った後のことを考えると、怖くて言えない。

「……」

三秒くらい沈黙した後、私は口を開けた。

「こ、今年こそは、人と喋れない性格、治そうと思いますっ!! 」

「……」

そして、再び三秒ほどの沈黙が流れ……

「よく言った、よく言ったぞきまま~!! 」

「よく言えました~きまっち~!! 」

「言ったからには、ちゃんと実行して貰うからな! 」

三人の歓声の言葉が発せられた。

「あ、頑張ります……」

私は、小声でそう言った。



私にとって重大な約束を交わした後。

二人と別れ、ふわりと二人きりになった。

「さて、と……」

「……え? 」

二人きりで帰り道を歩き始めて、先にふわりが口を開ける。

「きまっちに、言いたかったことがあるんだけどさ」

「え、うん……」

さっきのテンションとは打って変わって、真面目な表情を作るふわりに、私はちょっと緊張する。

「何か、悩んでない? 」

「……え? 」

その言葉は、きっと親友として私に発せられた言葉なのだろう。

「たぶんだけど、ゆるりちゃんもそふとちゃんも、気づいてるよ」

「うん……」

「私に出来る事なら、相談に乗るよ? 」

「ふわり……」

ふわり。ゆるり。そふと。そして、私。

この四人の輪の中で、自分だけ浮いてないだろうか。

それが、私の頭のなかにずっと引っかかっている、悩み事だった。

「ねぇ、ふわり? 」

「うん」

「私、浮いてないかな? 」

「なんで、そう思うん? 」

「三人が喋ってるところにいるだけじゃないか、とか、三人を眺めてるだけなんじゃないのかって、私思うんだ」

「うん」

私の悩みを、彼女は黙って聞いてくれる。

「私の事、皆ちゃんと友達と思ってくれてるのかな、なんて……」

「それが、きまっちが浮いてるんじゃないか、て思う理由? 」

「うん……」

「なーんだ、心配して損した~」

「……え? 」

「友達と思ってるに決まってるよっ!! 」

「あっ……」

彼女を顔を見ると、初めて見るかもしれない、真剣なその表情と、目のところにうっすら見える涙が分かった。

「ごめん……」

「皆、きまっちのこと大好きだから……嫉妬しちゃうくらいに」

「……」

「ねぇ、きまっち」

「……え? 」

「このキーホルダーのこと、覚えてる? 」

「あぁ」

彼女のランドセルにもついている、私のハートのキーホルダーを触りながら、ふわりが言う。

「まだ小さい頃、ふわりと初めて友達になった時に買ったキーホルダー……」

「うん。友達の証明として、あの時お揃いの買ったんだったよね」

まだ小学校に入る前の小さい頃。

孤独を愛しているフリをして、誰とも話をしなかった私。

先生に二人一組になってと言われて、同じく仲の良い子がいなかった女の子が、私の元に来る。

それが、ふわりとの初めての出会いだった。

ふわりは、当時は人と話すことが苦手であった。

もしかすると、今もそうなのかもしれない。

無駄にお節介焼きなその性格が、返って人を寄せ付けなかったのだ。

不器用な癖に、私にしつこく構おうとしてくるふわり。

彼女は、私を放っておけないと言っていた。

それは、昔も今も変わらずそうだった。

そして、そんな彼女のことが、私は……。

「私は、ゆるりちゃんたちもきっと、きまっちが一人で浮いてるなんて、思ってないよ」

「うん……」

「……そんな難しく考えなくていいんだよ、言いたいこと言えば。私たち、きまっちが思ってるよりもずっと優しいんだから!! 」

「や、ちょっ……」

「きまっち好きぃ~!! 」



私は、涙をごまかすように、いつもより強く抱きしめてくるふわりの抱擁を、嫌がったフリをしながら受け入れた。

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