2限目 不安!
『ねぇ……きままちゃん? 』
『え……』
『お友達とは、お喋りしないの? 』
『いや……』
『ほら、みんなお外で遊んでるよ、きままちゃんも行ってきたら? 』
『……』
------------うるさい!
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「きまっち? 」
「あ、あぁ……」
私はふわりのその声で我に返る。
「大丈夫? なんかぼーっとしてたけど……」
目の前で不安そうにこちらを見てくるふわり。
「ん? あぁ大丈夫……」
ホームルームを終え、自由の身になると、真っ先にこちらへ駆けつけてくれたふわりと話をしていた。
今は一限目の放課後。
いつもとは違う、一番左後ろの席と、ちょっと慣れない椅子と机に変な違和感を感じていた。
今日から小学五年生。
ふわりも、ゆるりも、そふとも、皆同じクラス。
私はその事実に凄い安心していた。
クラスの右側を振り向くと、ゆるりとそふとが二人で喋っている。
よくある光景だ。私はそれを見て心の中で微笑む。
二人はこの学校に入学してからの知り合いらしい。
昔ゆるりから聞いた話だけど、大人しかったそふとにゆるりの方から話しかけたのがきっかけだという。
「また、皆同じクラスになれて良かったね~」
「だな」
私達……私とふわりの出会いは、どうだっただろう。
私はふわりとは昔からの幼なじみで、互いに相手のことを理解しあっている……つもりだ。
こうやって二人で話すことが自然になるまで、どれくらいの時間がかかったんだっけ。
「また一年、きまっちと一緒にいれるなんて嬉しいな」
笑顔を向けてそう言ってくるふわり。
そんな顔を見せられ、私はちょっと照れくさくなる。
「わ、私も……」
「相変わらず照れ屋で可愛いな~」
「……」
私はこういう会話は、どうにも慣れなかった。
「あ、二人とも、ご無沙汰ですね~!! 」
そんなセリフと共に、そふととゆるりがこちらにやってくる。
「ご無沙汰ではないだろ」
「あぁ、間違えたーっ!! 」
そふとのボケに、ゆるりがつっこむ。
二人の会話は、聞いてて心地が良い。
「小学五年生になっても、皆変わんないね~ 」
「良い意味でも悪い意味でも変わんないよねー特にこことか」
私の胸の先をツンツンしようとしてくるそふと。
「ちょっ、やめ……」
私は慌てて胸を手で隠す。
「お前も相変わらず変わらないな」
「え、ゆるりんも触って欲しいって? 」
「そんなこと言ってない」
「あぁ、そもそも掴む胸がないかぁ~」
「ちょ~っと静かにしてくれないかな」
そんな会話の中、授業が始まるチャイムが鳴る。
「あーあ、終わっちゃったよー……」
「じゃあ私達、席戻るね」
「私も戻らないと~」
ふわりのその言葉を最後に、私はまた一人になった。
皆が席に戻る。
クラスがまた静かになる。
「ふぅ……」
やはり、会話は難しい。
四人の中に、私はうまく入り込めているのだろうか。
そんなことを考えてしまう私がいた。
「さぁ、授業だぞ席につけ~」
新しい学年での、退屈な授業が始まった。
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『あ、あの~、きまま……ちゃん? 』
『……』
『その、私とグループに、なっちゃったんだけど……』
『……誰? 』
『あぁ! 私は綾野 ふわりっていうんだけど、ふわりでいいよっ! 』
『そう……で、綾野さん何の用ですか?」
『いやだから、隣同士でグループ作ってって、先生が言ってて……』
『……聞いてなかった』
『ハハハ……そっか……』
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「おい比良坂っ! 」
「あっ……!! 」
「新学年早々寝るとはいい度胸だな」
あぁ、授業が退屈すぎて寝てしまった。
……なんて、言えるわけもなく、私は謝る。
「す、すみません……」
前の方で、ふわりが心配そうにこちらを見ているのが分かった。
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授業の終わりを知らせるチャイムが鳴る。
予想通り、私の元へ彼女が歩いてくる。
その顔は怒っているようだった。
「コラーっ!! 」
「うっ……」
「なんで寝てたのっ! 」
こっちに来るがいなや怒り出すふわり。
ふわりは、昔から変なとこに真面目だった。
「ごめんなさい……」
「ごめんじゃなくて、理由を聞いてるんだよっ! 」
「そりゃあ退屈だったからでしょ~」
横から声が聞こえてくる。
いつの間にかこちらに来ていたそふとの声だった。
そして、やっぱり隣にはゆるりがいた。
「退屈なのは分かるけど、寝ていい理由にはならないよ! 」
「あ、退屈は否定しないのね……」
さり気なくゆるりがつっこみを入れる。
「退屈だからといって寝ちゃだめだよ、きまっち! 」
「いや、私は退屈も何も言ってないけど……」
「え、退屈じゃないの?すごいね~きまま~」
大げさな態度を取りながらそう言うそふと。
「退屈じゃないと言ったら、嘘になる」
「コラーっ!! 」
正直に答える私に、また怒鳴るふわり。
「二人共傍から見たら親子に見えるな」
そんな光景を見たゆるりがニヤけながら、そんな感想を漏らす。
「え~きまっちみたいな息子いたら、それはもう大忙しだよ~!! 」
何やら文句言ってるのか喜んでいるのか分からない表情で、ふわりがそう言う。
「こんな母さんいたら疲れるし……」
ふわりみたいな性格の母さんなんて、面倒な説教をたくさん聞かされそうでお断りだ。
「じゃあ訂正、親子じゃなくて、恋人みたい」
「あ、それいいねぇ! 」
「なにもよくない」
そもそも女の子同士だろう、というのは言わないでおく。
「二人が恋人だとしたら、ふわりが女の子できままが男の子って感じかな」
ゆるりが勝手な感想を述べる。
「きまっちは女の子だよ!! 」
「なんでふわりが怒るんだ」
「ワシもきままが女の子派かな~」
「派ってなんだよ、派って」
いやらしく笑みを浮かべながら言うそふとに、私がつっこむ。
「えーふわりは女の子っぽいとこ多くて可愛いと思うんだけどな、私は」
「ゆっ、ゆるりちゃんは逆に男の子みたいだけどね~」
そう言われてどこか慌てたような口調でふわりがそう言う。
「なんでだよ! 」
怒り気味に言うゆるり。
ゆるりは男の子みたいと言われることに憎悪を抱いている様で、言われるといつも怒っていた。
別に悪いことではないと私は思うのだけど、彼女には気に入らないらしい。
「その怒り方とか」
「じゃあどうすればいいんだよ」
「喋り方変えればいいんじゃない? 」
そふとがそう提案する。
「変えるったって……」
「もっと女の子らしく喋ってみるとか……? 」
「べべっ、別に女の子らしくなりたいとか、思ってるわけじゃ……」
「え、違うの? 」
「じゃあどうやって思ってるん?」
「何も思ってないよっ?! 普通に喋ってるだけで……」
「ほんとかよー」
そんな話をしていると、放課の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
「あぁ、授業始めるから、席座って~」
さっきから前の教師用机で突っ伏せて寝ていた女の先生が、眠たそうな顔をしながらそう言う。
ちなみに、担任である。
「じゃ、じゃあ授業始まったから!! 」
逃げるようにそう言い放つゆるり。
「この話、あとでまた聞くからな~? 」
「忘れないでね~? 」
そふととふわりが楽しそうにそう言っている。
「普通に喋ってるって言ってるだろ?! 」
二人にそう言われたゆるりが、困ったような顔を作っていた。
「ハハハ……」
私は三人のそんな様子を、笑いながら眺めていた。
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「はぁ……」
私は溜め息をつく。
『これで、いいのかな……』
授業をよそ見に、私はそんなことを考えていた。
私は四人の中にいるだけで、安心してしまっているのではないかと。
『もっと、喋れるようになりたい、んだけど……』
四人の中で、私だけ浮いている。
私はどうしても、そんな気がしてならなかった。
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