第8話 始まりの街ーテーパー
シロマ達がいた魔道具屋「クリス・クロス」は、大小多数の店舗が軒を連ねる商店街の一角にある。
商店街の道は、二頭立ての馬車がすれ違える程度には広い通りだったが、時刻は正午を少し回った頃、通りには飲食店も多く立ち並ぶため、かなりの人でごった返していた。
喧騒から少し離れた街の西門、その横に門兵の詰所があり、そこから青で統一された制服に身を包んだ、一人の青年が出てくると、そこに女の子、マーヤが走り寄っていく。
「あ、フリード!みてみてー私の魔人形!!」
フリードは、自分に向かい走ってくるマーヤが、見覚えのある人形を抱いているのを確認する。
「やー、それはケニーの持っていた人形だね…マーヤもついに魔人形使役者になったんだ…っと!…危ないよ?」
フリードは飛び込むように走ってきたマーヤを受け止め、勢いを殺すように一回転し、ゆっくりと下ろす。
「えへへー、フリードさんがいるから大丈夫ですー、それより見てください!私の魔人形…シロマです!」
「どうも…シロマです…」
今日何度目も行われたやり取りに、シロマは疲れた様子で挨拶をする。
「初めましてシロマ、僕はフリード、フリード・カーリィっていうよ、君の主人とは幼なじみなんだ…宜しくね。」
フリードは兵服を整え、軽く敬礼をしながら挨拶をする。
王国兵の制服は詰襟タイプで、それをきっちり着こなすフリードは、シロマの目にも好青年にしか見えなかった。
「は、初めまして…(今、歯光ったぞ…前も思ったけど、無駄に好青年だよな…)」
「でねでね、この子に街の紹介してるんだけど、フリードも仕事終わったら一緒に来ない?」
「僕は、仕事が終わったところだから構わないけど…そうだ、お昼まだならお祝いに何か奢ろうか?どうかな?」
フリードは爽やかな笑顔で聞くと、マーヤが喜びの声を上げながら、シロマを空中高く放り投げる。
「うきゅあー!……ぁぁあー!」
「やったー!何でもいいですか!?行きたいお店があったんです!」
シロマが投げられたことで奇声を上げながら飛んでいき、ゆっくりと落ちてくる。
そしてマーヤは、落ちてきたシロマを器用に受け止めた。
そんなマーヤの喜びようを見守るフリードは、微笑みながら頷く。
やはり好青年であった。
「南門近くなんですけど、カサード料理を出すお店がベイルードから出てきたらしいんです、ちょっと辛いけど美味しいって評判になってて、私、カサード料理食べてみたかったんです!」
カサード料理は、テーパの街から東の方角に聳えるカサード山脈周辺で食べられている料理で、その地方の特産品である様々な香辛料をふんだんに使用し、少し辛めに味付けをした料理である。
テーパでは、香辛料使った料理は少ないため、大変な人気を集めていた。
マーヤはフリードの手を引きながら、人混みを南門に向け進む。
「そんなに引っ張らなくても大丈夫だよ。本当にマーヤは元気だね。」
フリードは片手で帽子を押さえながら、マーヤに引かれるまま通りを進む。
「売り切れることもあるみたいだから、食べられないと嫌で、きゃ!」
フリードに振り返って話しかけたマーヤは、店から出てきた男にぶつかり悲鳴を上げる。
「っと…危ないだろうが!どこ見て歩いてやがる!」
「ご、ごめんなさい!」
マーヤのぶつかった男は、マーヤの襟を掴み力を込めるが、その腕をフリードは素早く掴み、それ以上何もさせることは無かった。
「…謝ったでしょう?この手を離しなさい…服を掴むなんて、女性に対する礼儀がなってないようですね…」
「い、いててて!」
フリードが少し力を加えると、男は大げさに痛がり、掴んだ服を離す。
その時後ろから仲間らしき男は、男が声を上げたため声をかけるが、フリードの服装を見ると、顔を顰めながら声を上げる。
「どうしたラドル?…って!お前王犬か!?」
「犬とは、お連れの方も失礼な人ですね…」
フリードはため息を吐きながら、掴んでいた腕を離す。
「…ってーな!てめえ!っざけたことしてくれんじゃねー…っか!?」
ラドルは持たれていた腕を摩ると、鼻息荒くフリードに殴りかかる。
マーヤを後ろに庇うように移動していたフリードだったが、庇いながらも相手の拳を軽く避ける。
「なんだ?喧嘩か?」
「なんだなんだ?」
周りの注目が少しづつ集まり始め、フリードは「弱ったな」と零すと、目元を隠すように帽子を深くかぶり直し、マーヤに小声で話しかける。
「…マーヤ、ちょっと人が増えてきたから逃げるよ、掴まって…」
「何コソコソ話してやがんだ!舐めてんのか!!…えぇー!?」
フリードはマーヤを抱えると、一気に屋根まで跳び上がり、ラドルの拳はまたも空を切る結果になる。
フリードは、木の皮が張られた屋根の上にマーヤを下ろすと優しく声をかける。
「っと…マーヤ大丈夫?」
「う、うん大丈夫」
ラドル達は、屋根の上まで追ってくることは出来ないようで、下で騒ぎ続けていた。
「んー、下は暫く騒がしいだろうから…このまま上を行こうか?」
フリードは何気なく言ったが、二人が居るのは10m以上ある建物の屋根の上、シロマはマーヤに抱かれながらではあったが、肩越しに街を望み感嘆の声を上げる。
「おー!屋根の上って凄いな!見晴らしもいいし、折角だから上行こうよ!楽しそうだし!」
「あはは、明るい魔人形だな!よし、じゃあ行こう。」
フリードは笑いながらシロマの頭を撫でると、マーヤの手を取る。
「待って、私な…っうぇぃ!」
「やったー!」
フリードはマーヤを抱き上げると、屋根から屋根へと軽々と跳んで行く。
その様子を、下から見上げていたラドル達は、驚くことしかできず呆然と口を開けて見送ることになった。
「ラドルよ…あれは無理だ、相手が悪い…」
「そうだぞ!落ち込むなよ!」
仲間に慰められ、周囲からも哀れみの声が聞こえ始めると、顔を紅潮させながらラドルは声を荒げる。
「うる…うるっせーよ!あんなもん逃げただけじゃねーか!
…見世物じゃねーぞ!くそが!…行くぞ!」
周りの視線に耐え切れ無くなったラドルは、逃げるようにその場を去っていく。
一週空いてしまいました、すみません。
街並みが考えていたより広くなりそうだったので、ミニチュア作ってたら文章書くのが遅れてしまいました。
まだ完成していないので、完成したら公開したいなと思っています。