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第3話 到着ー裏路地のメイドー

馬車が走り始めて暫く経った頃、再びケニーと親方の話し声が聞こえてきた…


「そういえば、最近馬車や旅人見ませんねー…昨日から誰ともすれ違ってなくないですかー?」


「お前が寝てる間なら普通にいたない、仕事サボってた証拠だ…ない!」


親方の拳がケニーの頭に綺麗に入り、小気味好い音を立てる。


「ぬけっ!!痛いですよー」


「仕事サボるからない!最近は勉強も真面目にしてないみたいだし、そんなんじゃ一人前には程遠いない!」


「この人達、仲良いよなー…」


ぬいぐるみは、鞄から少し顔を出して流れていく景色を眺めながら二人の会話を聞いていた


「すぐ殴るのやめて下さいよー」


「言っても聞かないからだない」


「そんなことないですってー…あ、ほら、テーパが見えてきましたよー」


ケニーの声にぬいぐるみも反応する。


「お?テーパって街に着いたのか?どんな街なんだ?」


鞄に入ったままで、器用に荷台の端に移動すると、荷台から顔を出し、馬車の前を見る。


ぬいぐるみの目に映ったのは、天高く聳える大木達だった


「テーパってのは街じゃなくて森?…もしかして、関所みたいなものの呼び名なのか?」


漠然と考えながら、馬車の荷台から見上げていたが、徐々に距離が近づいていく中で、見えていた木々は、全て人の手が入っており、それは何かを守るような壁になっている事が分かってくる。


「壁…か?ならテーパって、やっぱり街なのか?」


そんな事を考えている間にも馬車は進み、やがて止まる。

そこは、門の様になっている場所で、青い服を着た男達が、周囲を警戒する様に立っていた。


「やー、親方じゃないですか!?お久しぶりですね、今日は何の用ですか?」


門の側にいた一人の男が、御者台に座る親方に気が付き声をかけてきた。


「今日は配達だない、通行証を持って行くから、確認して欲しいない」


親方が答えると、ケニーは馬車から降り、門の前にいる男に近づき、木でできた通行証を渡した。


「ケニーも、久しぶりだね!元気そうで何よりだよ!」


「元気だよー、フリードも元気だねー」


フリードと呼ばれた青年は、ケニーから通行証を受け取ると、それに目を通しながらも喋り続ける。


「まあね、最近は魔物モンスターも出ないし楽なものさ!」


「たしかにー、来る途中も見かけなかったよー」


「街道沿いは元々少ないけどね、知り合いの探検者も、最近は迷宮ダンジョンがスカスカだってボヤいてたよ!」


「モンスター?ダンジョン?聞きなれない言葉だけど…襲われたりするのか?イシュトが説明してくれなかったから、全然分からん!

…てか、結構離れてるのに普通に聞こえるな…」


馬車の荷台から門まで50mは離れているが、まるですぐ近くで話している様にクリアに聞こえていた。


「馬車の中でも、よく聞こえていたし…もしかして耳良くなったか?」


ぬいぐるみが自分の耳を触りながら悩んでいると、フリードの確認が終わった様だった。


「…通行証に問題は無いみたいだね、一応荷物確認させて貰うけどいいかな?」


「うん、貨物リストは一番後ろの荷物に貼ってあるよー」


「分かった…親方ー!規則なんで荷物の確認はさせていただきますね!」


タバコを吸っていた親方が頷くと、フリードは馬車に近づき荷台の後方に向かう。


「(こっちくるみたいだし、戻っとくか…)」


ぬいぐるみはカバンの中にスルスルと戻り、気づかれない様に隙間から外を覗く。

すると、フリードと呼ばれていた男が目の前を通り過ぎ、近くの荷物に貼られていたリストの確認をし始める。


「…リストに問題はないね、数は…20…25と、OK!箱の数も合ってるね…このカバンはケニーの?」


「そうだよー、マーヤへのお土産入りだよー」


「そうなの?見てもいいかな?」


「いいよー」


ケニーが答えると、フリードはカバンを持ち上げ、口を開いた。


「これは…犬かな?白い犬のぬいぐるみなんて珍しいものを見つけたね。」


フリードは、カバンの中のぬいぐるみを眺めながら、少し迷いながらも犬のぬいぐるみだと判断したようだった。


「(白熊だってイシュトは言ってたけど、犬に見えるのかな?それともこの世界に白熊っていないのか?)」


「犬かなー?でも、なんだかマーヤが喜びそうだと思うでしょー?」


「それは間違いないだろうね!おっと…親方を待たせてしまいましたね、失礼しました!通行証と荷物の確認は終わりまして、問題はありません!今から門を開けるので、少し待ってて下さい!」


親方に声をかけてから、フリードは小走りに門へ戻って行った


「いつも元気な青年だない!ケニーとは大違いだない!」


「えー、そんなに変わらないですよー」


そんな会話をしていると、巨木で造られた門が地響きを立てて開いていき、開ききったところで、フリードの声がかかる。


「親方ー!どうぞお通り下さーい!」


「ありがとうだい!」


門を抜け少し進んだ馬車の荷台で、ぬいぐるみはテーパの街を見渡せるようにカバンから顔を出す。


「おぉー!ちゃんと人の街だったよ!いいね、いいねー!」


その眼に映るのは、街を行き交う多くの人々、通りに面した店舗の数々等、活気ある街の姿だった。


「これは、デカイ街じゃなのか?お?あの鎧を着た人は、さっき言ってた探検者、ってやつか!?

いいねー!これなら退屈しなくて済みそうだ!」


興奮し、カバンから半分以上身体をはみ出し街を眺めていたぬいぐるみだったが、不意に不安になる。


「ま、流石に動くぬいぐるみはいな…」


「動くぬいぐるみはいない」そう言いかけたところで、馬車の後ろを茶色い熊であろうぬいぐるみのようなものが、フワフワと飛んで行くのが目に入る。


「居たーーー!!っぶね!!」


驚き身を乗り出したところ、馬車から落ちそうになってしまうが、ギリギリで踏み止まる。

目の前を飛んでいたぬいぐるみも、突然の声をかけられた事で、驚いていた様だったが、こちらはそれどころではない、目の前をぬいぐるみが飛んで行ったのだ、そのことを若干混乱しながらも考える。


「飛んでたぞ!?まじか…え?動いても大丈夫だったのか?むしろ飛べるのか!?

…いや、待てよ…そもそも意思を持って動いているのか?」


馬車の荷台に戻ったぬいぐるみは、そのまま大の字に寝転がると、興奮しながらも考える。


「飛んでるのも何か仕掛けがあるはずだ、そうだよ!…いや、落ち着けオレ…まずはどうやって動いてんのか確認しよう、うん、それがいい…でも、どうやって?」


興奮も冷めてきて、落ち着いてきた辺りで、馬車はとある店の前で止まる。


「着いたのかな?…これは…何屋なんだ?おっと、一応カバンに戻っておかないとな…」


御者台で動く気配を感じたぬいぐるみは、店を見るのを止め、カバンの中に戻る。

すると親方が御者台から降り、ケニーに声をかけるところだった。


「荷物の受け渡し手続きしてくるやい、お前は馬車を裏に回しておくやい。」


「分かりましたー」


ケニーは、親方が店に入るのを見送ると、馬車をゆっくりと裏路地に進ませる。


「これは…本屋?いや雑貨屋かな?なんか雑多な感じだし…」


ぬいぐるみは、また、カバンから顔だけ出すと、通り過ぎていく店を眺めていた。



………



ケニーは、店の裏に馬車を止めると、荷台に積んである中身入りの木箱を下ろし始める。


「(ケニーって結構力あんのな…あんなデカイ木箱、中身入ってんだろ?なのに、スイスイ下ろしてら…)」


ケニーは特に疲れる様子もなく、木箱を下ろしていき、10分程度で全てを下ろし切ると、ちょうど親方と髭を蓄えた老人が、店の裏口らしき扉から出てくる。


「ふー…あ、親方ー下ろしときましたよー、クリスさんお久しぶりでーす」


「やぁケニー坊、ご苦労様じゃの。」


クリスと呼ばれた老人は、南京錠の付いた扉に近づき鍵を開けながら、ケニーに挨拶する。


「いえいえー、荷物は中に入れますかー?」


「良い良い、後はこれらがやるでの。」


クリスが持っていた杖を地面に当てると、地面には2つの魔法陣が展開する。

すると、各々の魔法陣から輝くクリスタルが、ゴボッと音を立てながら出てくる。

そんな光景を荷台から見ていたぬいぐるみは、声こそ我慢したが、また興奮し始める。


「(な、なんじゃありゃ!!光ってんぞ!?)」


そんな驚きを他所に、クリスタルは出続けていき、徐々に中身が入っていることが見えてくる。

クリスタルの中には、メイド服を着た美しい女性が1人ずつ入っていた。


「(人?でもあんなものに、人が入っているものなのか?)」


クリスタルが魔法陣から完全に出た所で、クリスは声を上げる。


「起きるのじゃ、マリー…サリー…」


クリスの声をきっかけに、少しだけ浮いていたクリスタルは内側から弾ける様に砕け、中にいた女性が地面に降り立つ。


『おはようございます、マイマスター』


マリーとサリー、そう呼ばれていた2人は、声を揃えクリスに挨拶する。


「うむ、おはよう、そこの荷物を倉庫に片付けておくれ。」


『畏まりました、マイマスター』


2人の美女は、恭しくお辞儀をすると、直ぐに作業を開始する。


「いつ見ても不思議ですねー、あの細腕でよくあんなに軽々持てますねー?」


ケニーが疑問に思うのも無理はない、マリーとサリーの2人は、一度に2個ずつの木箱を軽々と運んでいたのだ。


「ほっほっほっ、まぁわしの創った魔人形パペッターじゃからの、この位ならば苦にもならんじゃろの…


「(パペッター?地面から出てきたけど、やっぱり人じゃないのかな?)」


そんなことを考えながら、ぬいぐるみが2人のメイドを観察していると、クリスは続ける


「で、お主も魔人形パペッターを手に入れたようじゃが…あんな代物どこで買ったんじゃ?」


「えー?持ってないですよー?僕そんなにお金持って無いですしー…それに元々魔力マナも少ないですからー」


ケニーは思い当たることが無く、不思議そうに声を上げる。


「ふむ、では…あの荷台でカバンからコソコソとこっちを見とるのは、お主の魔人形パペッターでは無いのかの?」


「(やべ…ばれたのか?)」


クリスは杖で馬車の荷台にある、ケニーのカバンを指すと、ぬいぐるみにも緊張が走る。


「カバンの中?あー、もしかしてぬいぐるみのことですかー?」


「そうじゃ、かなりの魔力マナを感じるのでな…もう一度聞く、ケニー坊…お主のではないのか?」


クリスの声が一段低くなり、再度ケニーに質問すると、荷物をしまっていた2人も、いつの間にか馬車とクリスの間に移動し、警戒の姿勢を取っていた。


「そんなに凄いものなんですかー?

あれは、馬車の荷物に紛れていたんですよー、積み込んだ時には無かったんですけどねー不思議ですよねー」


ケニーは呑気に喋っているが、その発言は、より一層クリス達の警戒を強めることになる。


「…では、お主のものでは無いのじゃな?」


「そうですねー、クリスさんが知らなかったらマーヤにあげよ…」


ケニーの言葉を待たず、クリスは厳しい声で命令を出す。


「マリー!魔物モンスターの類かもしれん!用心して確認するんじゃ!」


「畏まりました、マイマスター」


「(まずい!非常にまずい!どうする!?どうすんの!?)」


ゆっくり近づいてくるマリーに、ぬいぐるみは激しく動揺するしかできなかった…

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