第31話 別話ー周りの人達2ー
短いですけど更新です。
時間軸は前話と同じところです。
「ん…」
「あ、気がついたっすね!」
天幕の中で目を覚ました少女を、白い仮面を着けた男が心配そうに覗き込んでいた。
目覚めてすぐに、目の前に白い仮面を着けた人物がいたら…皆さんはどうするだろうか?
…
…
…
「きゃー!!」
「ぐぎゃ!」
数度瞬きをした少女は、悲鳴と共に強烈なフックで、仮面の人物を視界から排除した。
相当な力で殴ったのか、仮面の男は吹き飛んで地面に転がる。
「な…パ…パルパ?」
「うへっ…」
ゴロゴロと地面を転がり、柱にぶつかった仮面の男は、パルパ。
迷宮調査隊の一員であり、光系統の魔法と闇系統の魔法を使える優秀な魔法使いである。
殴った銀髪の少女は、バレーリア。
パルパと同じく、迷宮調査隊の一員で、銀色に輝く刺剣を操る軽装の剣士、まだあどけなさの残る少女である。
「あんた、人の部屋で……あれ?」
上体を起こしたバレーリアは周りを見渡し、自分の部屋で無いことに気がつき、困惑の声を上げる。
そこに、土で汚れた服を払いながら立ち上がったパルパが、仮面に隠れて表情は見えないが、哀しげな声で話しかけた。
「ひどいっすよ、リアっち…治療したのに殴るなんてあんまりっす…」
「治療…?…なん…あ!」
何かを思い出したように、バレーリアが立ち上がり、パルパに詰め寄る。
「私はどの位眠っていたの!?卿は!?卿はどうなったの!?」
パルパの襟首を掴むと、矢継ぎ早に問いただすと、前後に振られたパルパが、慌てながら答える。
「わ!じ…ふ…いっ…。グー…がそ…に…な…の…確…にむか…よ…ここ…くな…れて…す。」
パルパは(10分位っす。グーさんが外に何かの確認に向かったっすよ。ここで動くなって言われてるっす。)と言ったが、体を振られながらだったため、殆ど聞き取れない言葉になってしまった。
「何言ってるか分からないわよ!バカパルパ!」
パルパを乱暴に突き飛ばすと、バレーリアは天幕の入り口に向かって歩いていこうとした。
「な…何してるっすか?言われた通りここで待つっすよ。」
「うるさい!卿のことを探しに行くのよ!邪魔しないで!」
ヒステリー気味に叫ぶと、バレーリアは入り口傍にかけてあった外套に手を伸ばす。
「ちょ…もう!闇の鎖よ、影より出でて束縛せよ!影縛鎖!」
パルパが早口に唱えると、バレーリアの足元からジャラジャラと音を立てて現れた闇色の鎖が、バレーリアの全身を、外套に手を伸ばした姿勢のまま瞬時に縛り上げる。
「なっ!ちょっと!なんのつもり!?」
「動いちゃダメっす。グーさんからも暴れるなら止めろって言われてるっす。」
唸るような声を上げたバレーリアは、鎖から逃れようと体をよじり、抗議の声を上げる。
「うぅ!外してよ!痛いってば!」
横に首を振り、拒絶の意思を示したパルパが口を開く。
「ダメっす。離したら外に行く気っすよね?まずは落ち着くっすよ。」
「なんなのよ!ふざけないで!」
パルパの声が聞こえないかのように暴れるバレーリアに、2人とは別の声がかけられる。
「バレーリア、暴れたところでパルパの鎖は外れん。少しは落ち着いたらどうだ?」
柱にもたれるように座り、身体をバレーリアと同じく闇色の鎖でぐるぐる巻きにされている男、ディカールが声をかけた。
「ディカ…ふん!」
バレーリアは鎖に巻かれていない頭を、ディカールから背けるように動かしていた。
「そうだな、今回の件は私が悪かった。あいにくと、頭を下げることが出来ないが、悪かったと思っている。」
ディカールが謝ると、少しの間をおいてバレーリアが、ばつが悪そうに口を開く。
「別に謝ってなんて言ってないし!てか…先に手を出したのは私だし…
あーもう!悪かったわよ!」
その様子に、パルパは頷きながら、口を開く。
「良かったっす。仲直りっすね。」
「るっさい!バカパルパ!あんたは早く外しなさいよ!」
「それはダメっす。オイラだけじゃ2人に暴れられたら止められないっすからね。」
胸を張って宣言するパルパに呆れながらも、バレーリアは暴れることをやめた。
「はぁ…もぅいいわよ…」
ため息混じりに言い放つ。
「分かってもらえて良かったっす。とりあえずグーさんが戻るまで、どうす…」
ズズン…
微かな地響きを、3人が3人ともに感じ取り、パルパに至っては驚きで飛び上がってしまう。
「うひぁ!」
「え?なに?」
「…なんだ…?」
それは、シロマが迷宮の壁を打ち抜いた時の音だったのだが、そうとは知らない彼等は、各々に困惑の声を上げることになった。
「な…なんすか今の!?ゆ…揺れたっすよ!!な、なんなんすか!?え?揺れたっすよね!?地面!何が…え?どうなるんすか!?」
「…落ち着けパルパ。」
「そ、そうよ。あんたは少し落ち着くべきだわ。」
バレーリアが精一杯強がるが、鎖で縛られていなければ、腰から崩れていただろう。
「じ…地面が揺れたんすよ!ふた…2人ともなんでそんなに落ち着いてられるんすか!?」
「何度も言わせるんじゃない…慌てるなと言っている。
すぐに鎖を外すんだ。」
慌てるパルパに、強い口調でディカールが指示を飛ばす。
「わ…分かったっす…暴れないで下さいっすよ…?」
ディカールが無言で顎をしゃくると、パルパが手ゆっくりと上げると、2人の身体に巻き付いていた鎖が薄くなっていき、やがて消えてしまった。
バレーリアが鎖から解放され、少しだけよろけると、パルパに食ってかかる。
「っと…この!バカパル!」
同じように解放され、片膝の状態から立ち上がろうとしていたディカールが言葉を遮った。
「やめろ。バレーリアは他の奴等に知らせて来るんだ、周辺確認と…うおっ!!」
「うふゃ!!」
「きゃ!!」
ズズズン!!ミシ!ズズン!!
先ほどよりも長く強い揺れに、ディカールは再び膝をつき、他は尻餅をついて転んでいた。
揺れが続く中、なんとか立ち上がったディカールが、叫ぶ様に命令を下す。
「…バレーリア、パルパ、各隊に伝令!全員戦闘準備!!
完了次第、周辺警戒!!急げ!!」
「り…了解!パルパ、行くわよ!」
「は、はいっす!」
彼方此方で悲鳴が起き、かなりの動揺が広がる広場に、バレーリアとパルパが飛び出して行く。
時折強い揺れが続くなか、ディカールは背中に嫌な汗が滴り落ちる感覚を覚えるが、柱にめり込んでいた自分の武器を引き抜くと、2人を追う様に天幕から出て行った。
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