第29話 黒玉ー出てきたモノとー
遅くなりました。
変な方向に行きそうですが、がんばって書いていきます。
感想、お待ちしています。
シロマの頭に乗っている黒い玉に、次々とヒビが入っていく。
パキパキ…
黒い玉は何かの卵だったようで、瓶から出したことをきっかけに、孵化が始まる。
ワサワサ…ワサワサ…
『(あー…こういうことかー…)』
黒い玉は、蜘蛛の卵だった…割れた卵の中からは、小さな子蜘蛛が次々と何十匹も出てくる。
「突刺蜘蛛の子供らしい、変に動かないでいればちゃんと直してくれるはずだから、暫く耐えてくれ。」
『(うわー…気持ち悪いー…)』
蜘蛛達が、白い毛を咥えてワサワサと身体を這い回る。
一本一本、元あった場所に自分の糸を接着剤のように使いながら植え直していく蜘蛛たち。
数10匹の子蜘蛛が、頭から腕にかけて動き続けるのは、かなり気持ち悪かったことだろう。
ものの数分で白い毛を運び終え、元通りと言っても大袈裟ではない程度に復元を完了させた子蜘蛛達は、ぬいぐるみであるシロマの身体に何箇所かある、ごく僅かな隙間からサッと中へと入り込み、腕の部分まで移動するとそのまま動かなくなった。
『(…え?おい…まじかよ…)』
「…ティアーバ?大丈夫…なんだよな?」
「クモ、ガイナイ…ナカデソダツ…デス…」
「ちょ…ティアーバ!」
ガジャラは、ティアーバの手を引いて少し離れるとヒソヒソと話し始める。
少し離れたくらいなら、シロマやサティには聞こえてしまうのだが、それを知らないガジャラは、ティアーバから詳しい話を聞き出していた。
シロマの斬られた毛の部分を直していたのは、他者の魔力を食べる魔物、突刺蜘蛛の子供達だった。
大人の突刺蜘蛛は50cm程にもなるため、他の魔物や人を襲って魔力を食べる事が出来るが、子供のうちは自力での狩りができないため、人の持ち物や下級の魔物に寄生する。
先程植えた毛のように、自分の糸が付いている物に触れた相手から、魔力を少しだけの吸い取って食べる生物らしい。
しかも今後は傷ついても、中に蜘蛛が住んでいるうちは、自動で傷を直してくれるそうだ。
幸いと言うべきか、住処《家》であるぬいぐるみの中を食い荒らすような事はせず、殆ど動くこともないらしいが、知ったところで決して気分の良くなるものではなかった。
「…本当に大丈夫なんだな?」
「ン…モンダイナイ。」
ガジャラが念を押してから振り返ったが、その顔は引きつり気味の顔をしていた。
「と、とりあえず元に戻ったみたいだし、良かったな。」
飛行の能力を再使用し、ふわりと浮かびあがっていたサティは、身体の中にいる蜘蛛達に集中してみるが、何も感じられない。
そして、未だに引きつった顔のガジャラにサティが冷たく言い放つ。
『良くはねーよ。
蜘蛛が身体の中にいるとか、気持ち悪いだろ?』
「そりゃそうだろうが…動いたりしないだろう?」
元のモフモフに戻った腕を触りながらでも、その下にいる小さな蜘蛛の動きは感じ取れなかった。
『動かなきゃ良いってもんでもないぞ…出すことはできないのか?』
「ムリ…デナイ…」
『(虫と同居かよ…これは早く自分の身体を見つけないとだな…)』
「(終わった?)」
見計らったかのように、呑気にシロマの意識が戻ってくる。
今まで完全に遮断していたようで、蜘蛛のことにはまるで気がついていないようだ。
『ま、仕方ないと思うことにするわ。
もうこの話は終わりにしよう。』
「(ねぇ、終わったなら変わってよ。)」
「分かった、俺も知らなくてな…すまん。」
頭を下げるガジャラに、ふん、と鼻で返事をしたサティは、それ以上喋らなかった。
「(終わったんでしょ?ねぇってばー…聞こえ…)」
『(うるせえよ!お前、勝手が過ぎるんじゃないか?
俺はお前の召使いになった覚えはねぇし、今は俺の身体でもあるから手助けくらいはしてやってるよ…
けどな、何様のつもりだ?なめんのも大概にしろよ!)』
あまりにも身勝手なシロマに、サティが声を荒げる。
「(別にそんなつもりは…)」
『(黙れ!どう思っていようが関係ない、暫くは俺が身体は使う!文句はないよな?)』
かなり頭にきたのか、サティの周りにドス黒い靄が立ち上る。
濃厚な死の気配にも似たその靄に、ガジャラ達は一斉に飛び退いた。
「…シロマ?…何か気に障った…か?」
死を覚悟したような生気のない顔で、カチカチと歯を鳴らしながら、ガジャラは絞り出す様に声を出す。
『いや…気にするな、なんでもない。(大人しくしていれば朝には返してやる、黙って反省してろ。…返事は?)』
「(はい…)」
サティの気がすんだのか、黒い靄は薄くなり消えていく。
靄が収まるに連れてガジャラ達、痩身鬼達の顔にも生気が戻ってくる。
「そう…なのか?」
『殺すつもりなら直ぐに殺すさ。
それとも殺されたいのかな?』
「そ、そんなことはな…」
声が上ずるガジャラをからかうように、サティは言葉を続ける。
『クハハ…そんなに恐がるな、俺についてくるんだろ?』
「…ひ…!」
一瞬で距離を詰めるように動いたサティは、ガジャラにだけ聞こえるように耳元で囁く。
『死にたくなかったら…俺を失望させるなよ?』
ぞわりと総毛立ち、その場で固まってしまったガジャラの様子に満足したのか、サティは肩を叩いて少しだけ離れると楽しげに声を上げる。
『クハハ、冗談だよ冗談。そんなに固くなるな。』
「…は…はは…」
引きつった笑いのガジャラに、他の痩身鬼達も不安げな表情を浮かべていた。
次回はまた、少し時間かかるかも…
6月中には更新する予定ですが、迷宮外の話になると思います。