第2話 誕生ー馬車で始まる人生ー
ガタゴト…ガタゴト…
麗らかな陽気の中を、鉱山都市で製作された工具や工芸品を乗せた馬車が街道を走る
「ケニー!もうすぐ着くない!そろそろ起きろい!」
御者台に座る恰幅の良い男が、荷台に声をかける
「起きてますよー…こんなに揺れてちゃ寝れませんよー…」
眠そうな声をしながら、ケニーと呼ばれた青年は荷台から顔を出した
「ナハハ!眠そうな顔するない!もうすぐテーパだない、そろそろあれ、出しとけい!」
「はーい…」
ケニーは、荷台に戻ると探し始める
「親方ー何処にしまいましたー?」
「ん?ワシの鞄に入っとるだない?」
「鞄どこですかー?」
荷台は多数の木箱が隙間なく積み上がり、動けるスペースはかなり狭い
鞄程度すぐに見つかりそうだったが、鞄は見つからなかった
「荷台にあるだろい?」
「こっちにはないですよー?」
「んなら、後ろだない、止めっから見てこい。」
言うなり馬車を急停止させる。
荷台から慌てた声と、荷物が落ちた音が響く
「ちょっとー親方危ないですよー荷物が落ちて来ましたよー?」
「ナハハ!大丈夫やい!今回は壊れ物積んでないからな!」
「いや、そういう事じゃないですよー誰が片付けると思ってんですかー?」
「お前だない」
「だからやめて下さいよー」
ケニーは文句を言いながら片付ける
「もうー箱壊れちゃってますよー?」
「中身が無事なら問題ないやい」
親方の軽い口調に呆れながら、ケニーは中身を確認する
「あーあー、高そうな箱がダメになっちゃってますよ…あれ?親方ーこんな荷物ありましたっけ?ん?」
「どうしたい?積み込みはお前がやったろい?」
壊れた箱から荷物を取り出すと、ケニーは首をかしげる
「あ、そうなんですけど…今回の荷物に人形なんてあったかなーって」
ケニーの手には一体のぬいぐるみが掴まれていた
…
少しだけ時間を戻す
…
ガタゴト…ガタゴト…
麗らかな陽気の中を、鉱山都市で製作された工具や工芸品を乗せた馬車が街道を走る
「…ん?光?」
箱が揺れ、隙間から光が差し込む
「ケニー!もうすぐ着くない!そろそろ起きろい!」
「うへぇい!!痛っ…なんだ?人の声?」
彼は声に驚き頭をぶつける
「明るいけど…まだ箱の中か?イシュトは…いないみたいだな」
「起きてますよー…こんなに揺れてちゃ寝れませんよー…」
「で、ここはどこなんだろう?イシュトは何も説明してくれなかったからな…」
箱の隙間から外を伺うも、見えるのは木箱だけだった
「んー…あんまり見えないけど、さっきの不思議空間じゃなさそうだな」
「ナハハ!眠そうな顔するない!もうすぐテーパだない、そろそろあれ、出しとけい!」
「テーパ?言葉は理解できそうだな…聞いた事ないけど、着くって言ってたから街かなにかかな?
お、戻ってきた」
ケニーが荷台に戻ってきて探し始める
「親方ー何処にしまいましたー?」
「ん?ワシの鞄に入っとるだない?」
「外にいるのが親方、今中でゴソゴソしてんのがケニーか…」
彼は久しぶりに会う人間に懐かしさを感じていた
「鞄どこですかー?」
「荷台にあるだろい?」
「…さっきから何探してんだ?」
「こっちにはないですよー?」
「んなら、後ろだない、止めっから見てこい。」
言うなり馬車を急停止させる。
「ぬぁ!…げはっ!」
馬車の制動に巻き込まれ、崩れる箱に巻き込まれる
「ちょっとー親方危ないですよー荷物が崩れたじゃないですかー?」
「ナハハ!大丈夫やい!今回は壊れ物積んでないからな!」
「いてて…なんだ?」
「いや、そういう事じゃないですよー誰が片付けると思ってんですかー?」
「お前だない」
「だからやめて下さいよー」
「とりあえず怪我はないし大丈夫かな?…大丈夫なのか?」
彼はフワフワの手で自身を確認する
「そっか…オレぬいぐるみなんだっけ…」
「もうー箱壊れちゃってますよー?」
「中身が無事なら問題ないやい」
「動いてたらやっぱり不自然かな…ぬいぐるみだもんな…」
そんなことを考えながら彼は動きを止めた
「あーあー、高そうな箱がダメになっちゃってますよ…」
「(どうしたもんかな…)」
「あれ?親方ーこんな荷物ありましたっけ?」
ケニーの手が伸びて彼を掴む
「ぁ…(あっぶね!急に掴むなよ!声出そうになったし!)」
「ん?」
「どうしたい?積み込みはお前がやったろい?」
壊れた箱から荷物を取り出すと、ケニーは首をかしげる
「あ、そうなんですけど…今回の荷物に人形なんてあったかなーって」
「荷物なら貨物リストに載ってるから見てみるよい、あと早く探すよい!」
「はーい、ちょっと後ろ見てきます」
ケニーは、ぬいぐるみを持ったまま馬車を飛び降りる
「(っぶね!これ、動かないって思ったよりきついぞ)」
ケニーはそんな事を考えるぬいぐるみに気がつく事なく、馬車の後ろに向かう
「親方の鞄ありましたよー」
「通行証はあったよい?」
ケニーは親方の鞄を開けるため、片手に持っていたぬいぐるみを荷台に座らせる
「んー…財布…鍵…飴玉…うへぁ、手についた…あ、あった通行証。
親方ー通行証ありましたー!」
「ナハハ!もうすぐテーパだから持ってくるよい」
「はーい、ちょっとリスト確認してから持っていきますー」
ケニーは積んだ荷物に貼られていた貨物リストを確認する。
「ぬいぐるみ…ぬいぐるみ…人形?…どっちもないみたいだな…どこでまぎれこんだんだ?」
貨物リストにぬいぐるみや、人形は無かった
その為、ケニーはぬいぐるみを見ながら首を傾げる
「(これ、やばいか?)」
「親方ー、この人形貨物リストに無いものみたいですよー」
ケニーは御者台でタバコを吸っていた親方に話す
「ならテーパでの手続きが面倒だから捨てるよい」
「捨てろって…なら僕が貰っちゃダメですかー?」
「(まじか!?男と暮らす趣味は無いぞ…)」
「なんか妹にプレゼントしたら喜びそうな気がするんでー」
「(なんだ、そういう事か、イシュトと同じような趣味のやつかと思ったよ…)」
ぬいぐるみが安堵していたが、二人はそれに気がつくことは無かった
「ふむ…面倒になっても責任取れるならよいよい」
「多分大丈夫ですよ、じゃ自分の荷物にして持って行きますねー」
「荷元に確認するのを忘れるなよい」
「分かりました、到着確認の時に一緒に確認しますー、それまで自分の鞄に入れときますね」
ケニーは、ぬいぐるみを鞄に入れると荷台に置いた
「(どうしたもんか…このままだとケニーってやつの妹に貰われちまうが…ふむ…)」
ぬいぐるみは鞄の中で器用に腕を組むと、暫く考え込む
「(イシュトの予言通りに動くのは癪だな…逃げるなら今だけど…この世界のこと知らなすぎるしな…」
「ケニー、出発するから早く乗るよい」
タバコを吸い終わった親方がケニーに声をかける
「了解ですー」
「では、行くよい。」
「(ま、悪い人達じゃ無さそうだし…考えても仕方ないか?差し当たり目的もないし情報収集も兼ねて着いて行ってみるかな)」
ケニーが御者台の後ろに乗ると、馬車は再びテーパに向けて走り始める