第28話 鬼族ー角を生やした亜人達3ー
「ギギル!?なんでお前がここにいる!?」
頭に角があることから、現れたのがガジャラと同じ痩身鬼ではないかと思ったシロマは、それと同時に嫌な予感がしていた。
『(はっ!また増えたぞ!
こいつらどこまで増えるんだ?)』
「(オレが知るわけないだろ…なんなんだよこれ…)」
楽しそうにサティが語りかけてくるが、シロマは頭を抱えたくなっていた。
ギギルと呼ばれた仮面の男は、ごく自然にガジャラに話しかける。
「居てはいかんのか?」
「いい訳ないだろ!俺はモディフと共に国に帰れと…」
ギギルが仮面を外し、ガジャラの言葉を遮る。
「知っての通り、我も片角じゃ。
それも生まれた時からの…」
仮面をつけていた時には、2本の角が生えている様に見えたが、片方は仮面に付けられた偽物であった。
そして、本来角があったであろう左の額から、顎の下まで、刀で切られた様な痛々しい傷が走っており、左眼も完全に見えない状態だった。
ギギルはその傷を撫でながら、語り始める。
「我がまだ母の腹の中にいた時じゃ、人族の軍隊が集落に襲ってきたらしくての、身重の母は逃げ切れず、立ち向かった父諸共、人族によって斬り殺されてしまったそうじゃ。
我は生まれる直前だった様での、母が生き絶える直前に産み落とされたのを、襲撃を逃れた他の鬼族に救われたのよ。
この傷は、母が斬られた時に一緒に付いた傷じゃが、この傷のおかげで散々な扱いを受けたものじゃ…」
しみじみと語るギギルの生い立ちに、全員が声に詰まる。
「おっと…昔の話じゃ、忘れてくれ。
まぁ片角なのは我もじゃし、ボルグやティアーバが良いのなら、我も居て良かろう?」
ガジャラより頭一つ小さいため、下から覗き込む様にガジャラに問いかける。
その片眼をじっと覗き込むガジャラは、しばらくの沈黙の後、顔を上げて視線をシロマに移す。
しかし何も言わずに、ジッとシロマを見るばかりで、口を開く事はなかった。
「好きにしろよ…」
シロマは、肩を竦めながら、半ば諦めた様に言い放つ。
「…はぁ…だそうだ、好きにすればいい。」
「ふむ、まぁ断られてもついて行くつもりじゃったがの。
皆と同じように自己紹介させてもらおう。」
あっさり了承を得られたのが意外だったのか、少しだけ驚いたようだったが、ガジャラの右、ティアーバの横に跪くと、仮面をかぶりなおして口を開く。
「我が名はギギル、痩身鬼じゃが生まれつき片角での、体格では他の者に負けるが、戦力として劣ることはないと思うで、よろしく頼むの。
仮面をつけたままでの挨拶になるが、醜い顔をあまり長いこと晒したくないのでの、許して欲しい。
獲物はこの仕込み甲手じゃ。」
手から甲手を外し、カチャリと何かのボタンを押した。
すると、甲手が上下に動き、隙間から刃が飛び出してくる。
「今は大丈夫じゃが、基本的に毒を塗っておるで、むやみに触らん方が身のためじゃよ?」
初めて見る物だったため、少し近づいていたシロマに注意をしたギギルは、少し間を空けてから思い出したように口を開いた。
「そうじゃった、よく間違われるから先に言っておくが、我は女じゃからの。」
「あ、え、はい…」
シルエットと喋り方で男だと思っていたシロマは驚き、なんとなく目を逸らしてしまう。
『(クハ!まじか!女だったのかよ!見えねー!)』
「(声も低いし分かるわけないでしょ…サティ笑いすぎだよ。)」
「ま、普段は影に潜んでおるで、用があったらいつでも呼んでくれ。」
それだけ言うと、いつの間に切ったのか、指先から盃に血を数滴垂らし、音もなく闇に溶けて消えた。
「…悪い奴じゃないんだ…」
「お、おう…」
微妙な空気になってしまったが、ガジャラが手に持つ白い塊が、シロマの目に入る。
「そ、そうだ、それ、早く治してよ。」
ガジャラの手を指し示すと、ティアーバがすっと立ち上がり、ガジャラの手に乗っていた白い毛の塊を、両手で掬うように持ち上げる。
「シタ…オリテ…デス…」
「は、はい…え?」
ゆっくりと地面に降りたシロマに、ティアーバは手に乗せていた白い毛をパラパラと降りかけるように落とすと、腰のポーチから小瓶を取り出した。
「コレダス…ウゴクナ…デス」
小瓶の蓋を外し、中身をシロマの頭に出す。
「これなに?」
「…ウゴクナ…デス」
「はい…」
瓶から出てきたのは1cm程の黒い玉のような物、それが3つだった。
「シロマ、とりあえず何があっても動かないでくれ。
動くと失敗するかもしれないからな。」
ガジャラに念を押され、シロマはあることを思いついた。
「(サティ、少しの間交代な。今度埋め合わせはするから!絶対に動くなよ!)」
『(うおい!)』
嫌な予感を感じたシロマは、意識を完全にサティに渡す。
バルバンドロとの戦いの時、視覚以外の全てを取られていた事を思い出したからだ。
『(おい、ふざけるなよ…うわ、完全に引っ込みやがった…)』
残されたサティは、動かないように頭の上に乗っている玉に意識を向ける。
『(大体予想はついたけどな…)』
パキ…
ヒビの入る音がホールに響いた…
少し短いですが、次は来週になります。
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