第26話 鬼族ー角を生やした亜人達ー
遅くなりました。
書いてるうちに切れ目が分からなくなって遅くなりました。
御意見御感想、宜しくお願いします。
迷宮入り口のホールには、奥から続々と影鬼が姿を現わす。
しかし、それを確認する余裕がシロマには無かった。
「ちょ…ちょっと待って…え?なんの話してんの?」
ガジャラはシロマの問いを無視するように、ずっと背中から抱きついていた女の痩身鬼の手を自然な動作で外すと、刀をシロマに差し出しながら話を続ける。
女の痩身鬼は、声を出すことなくガジャラの腰の飾り紐を掴むが、ガジャラがそれを気にすることはなかった。
「敗者の剣だが受け取って欲しい。
お前よりは弱いが、それでも露払い役ぐらいはできるつもりだ。
この刀もお前には通じなかったが、これでも名付きの鬼剣、俺共々これからよろし…」
「待てっての!なんの話だよ!」
ガジャラの言葉を遮ってシロマが叫ぶ。
「ついてくとかなんの話だよ!?
オレ何も聞いてないんだけど!?」
出した刀を下ろし、右手で頭を掻いたガジャラはニヤリと笑った。
「…勢いでどうにかなると思ったが、ダメか?」
「何が…」
「兄者?どういうことですか!?」
ガジャラの足元で口を開けていた男が、シロマの声にかぶるように驚きの声を上げる。
他にも何人かの痩身鬼がザワザワと声を上げ、呆れたような溜息を吐いたものもいたようだった。
ガリガリと頭を掻いたガジャラが、面倒くさそうに口を開く。
「…あーっと…あれだ、今回の作戦は失敗ってことなんだよ。
攻めるための準備は粗方終わっているが、このまま計画通りに攻めても、そこで浮いているシロマがいる。
バルバンドロは殺され、俺も負けた程の相手だ…お前らじゃ傷一つ付けられんだろうよ。」
周りで聞いているだけだった痩身鬼からも、どよめきが起きる。
「かといって、このまま計画を遂行できずに国に帰れば、俺は当然のように粛清されるだろうな。
まぁそれはいい…お前達はどうなると思う?
モディフ、お前なら分かるだろ?」
足元の男、モディフが一瞬だけ顔を上げ、そのままグッと唸り顔を伏せる。
「…そういうことだ、おそらくお前達も粛清対象になってしまうだろう。
俺としてはその事態は避けたいと思ってな…
そこで考えた、指揮官である俺が離反したとなればどうだ?
話は違う、そうは思わないか?」
モディフが再び顔を上げるが、喋ることなくジッとガジャラを見つめる。
「そう、簡単な話だ、俺が橋頭堡として機能し始めたこの砦の情報を、秘密裏に人族に流した上、人族の奴等と結託し内部から破壊。
戦力としては俺に次ぐ実力者であるバルバンドロを、反逆者である俺に殺されてしまう。
影鬼と互角以上に戦う人族の奴等も現れ、これ以上の計画続行は不可能となった。
そのため影鬼数体を殿に撤退をしてきた。
…これならお前達まで責任を問われることは無いだろうよ。」
ザワザワと、集まっていた痩身鬼から声が上がる。
「兄者…俺たちのために…」
「ガジャ兄…」
「何がどうなって…」
「おい…どうなるんだよ…」
「え?ガジャラ様裏切るのか?」
ザワザワと声が響くが、ガジャラは気にする様子もなく、話し続ける。
「まぁ…全てはシロマが居たのが誤算だったというわけだ。
モディフ、後のことはお前に任せる。
うまいこと報告しておいてくれ。」
モディフの頭を子供をあやすように数回叩いてから、その顔をシロマに向ける。
「…って訳だ、俺は国に帰ればこいつら共々殺されちまう。
だからシロマについていく。これで理由になったか?」
「え?…あ…うん…」
急に聞かれたシロマは、慌てた様子で応える。
サティは、「ククク」と楽しそうに笑っていた。
「これ以上はうまく説明できんからな、理解してもらえてよかった。
これからよろしく頼む。」
頭を下げたガジャラに、下から声がかけられた。
「あ、兄者…問題がある…」
「ん?何がだ?」
「バルバンドロが死んだこともそうだが、兄者が裏切るような鬼だと国の…あの堅物爺さん連中が信じると思えなくて…それに…え?兄者?」
モディフの話を聞きながら、ガジャラは不意に刀を抜く。
怪しく光るその刀身を眺めると、片手で振り上げた。
また斬りかかってくるのかと、構えかけたシロマの前で、彼は自分の左角を斬り落とした。
「兄者!」
「ニイサマ…」
『(ほほう…)』
目の前で自分の角を斬り落としたガジャラに、モディフが悲鳴のような声をかける。
他の痩身鬼達からも動揺した声が上がっていた。
シロマは意味が分からず、開いた口がふさがらなくなるが、サティは興味を惹かれたような声を出していた。
「…角を傷つけたのは初めてだが、これは痛いな…」
「兄者!何をしているのです!?我らにとって角は!?」
声を出すモディフを手で制したガジャラは、斬り落とし、地面に落ちていた自分の角を拾う。
「シロマ、持っているバルバンドロの角をこれと交換してくれ。」
「え?あ…」
「な!兄者が角を斬る必要など無いのです!それなら俺が!」
モディフは槌矛を腰から抜き取ると、その先端に付いた切先を自分の角に当てる。
「やめろモディフ!」
モディフの槌矛を掴み、諭すように語りかける。
「俺の鬼の誇りなんてのは、シロマに負けた時に捨てた。敗者が生きるとはそう言う事だ…
角の一本程度、どうということは無い。
それに…もう斬った。お前まで斬る必要はない。
ティアーバ、お前もだ。」
背後で短剣を抜いていた女の痩身鬼に対しても、振り返る事なく静止する。
ティアーバと呼ばれた痩身鬼は、首を傾げてから口を開いた。
「ナゼ?ニイサマトオナジ…ダメ?」
「ダメだ、片角では国で生き辛くなるからな。」
「クニ?カエラナイダイジョウブ。」
ティアーバは、躊躇なく短剣を動かし、他の痩身鬼に比べて白く細い角を斬り落とす。
「ティアーバ!」
「イタイ…フフフ…ニイサマイッショ。」
落ちた角を拾ったティアーバは、短剣をしまい、切断面を撫でていたが、ほんの数秒後には、極自然にガジャラに腕を絡めていた。
「お前な…仕方ない…シロマ、こいつもいいか?」
「え?なんで?」
「ちょ!兄者!」
知らないシロマだけ疑問を持つが、自分で角を斬り落とした2人に、他の痩身鬼達の多くは困惑の目を向けていた。
「仕方ないだろう、片角の鬼があの国でどう扱われるか、お前が知らん訳はないだろう…」
鬼族にとって、力こそが全てだが、唯一の例外が角である。
角は鬼の象徴であり、形や大きさ、色によって、殆ど立場が決まってしまう。
それが片方無いということは、例外なく立場が悪くなる。
男であれば妻を娶ることも、正統な子を残す事も許されず、多くの場合剣闘場での奴隷として、非業の死を遂げる事になる者が多い。
女であれば権利もなにもない、奴隷のように扱われ、下位の鬼族の慰み者にされる。
しかし…それくらいなら、まだマシと言えるだろう。
最悪の場合、死ぬまで別種との交配を強要され続け、化け物のような半獣半魔を生み続ける、そんな地獄の日々を送る事になる。
「…つう訳だ。」
「うへぁ…でも、オレ…」
「分かっとるなら、何故軽率な行動をしたんじゃ!」
ガジャラがかるく説明した後、その内容にシロマが気分を悪くしていると、今まで黙っていた痩身鬼の1人、全身鎧に身を包む男が、怒気を感じさせる声を上げた。
「さっきから黙って聞いておれば、好き勝手言いおって!
国戻りたくないのなぞ、主だけではないわ!」
言い放つと、左右で大きさの違う茶色い角の小さい方を、素手でボギリとへし折る。
「ボルグ!なにして!」
「クハハ!主が角を斬るからよ!
儂の獲物だと両方斬りそうでの、仕方ないから無理やり折ってやったわ!」
高らかに笑うボルグと呼ばれた痩身鬼は、引きつった顔で折った角を握りしめていた。
「ふざけるな!なんのつも!!」
ボルグは、角をガジャラの足元へ投げることで言葉を遮った。
「ふざけとるのは主じゃろう!
なんのつもりかは知らんが、儂を舐めるのも大概にせいよ!」
「な…なんだと?」
「儂は主の中に王の器を感じたから付いてきたんじゃ!
それがなんじゃ!!」
ボルグの頬に涙が伝う。
その様子に、誰もが声を出せなくなっていた。
「…主が国を出るなら儂も付いて行かせい、それが叶わんなら…」
ガシャンと音を立てて、背中から大剣を取り外すと、肩口に乗せる。
「ここで首をはねい…」
その目は真剣で、冗談や駆け引きの類でないのは明らかだった。
チラリとシロマを見たガジャラは、表情の読めないぬいぐるみが、ぽかんと口を開けているのを確認すると、溜息と共にシロマに話しかける。
「…やめろよボルグ…
シロマ…もう1人追加みたいだ…」
「…え?…えっと…」
わたわたとしているシロマに、ガジャラが囁く。
「これ以上増えられても困る…シロマ続けてくれ…
ガジャラ、ティアーバ、ボルグ…」
「え?あ…ガジャラ、ティアーバ?ボルグ?」
「お前達を眷属と認めよう…」
「お前達をけんぞくとみとめよ…え?」
勢いで言ってしまったシロマに、間髪入れずにガジャラが続ける。
「魔人形シロマよ、我が剣を貴殿に捧げる。
この命尽きるまで、共に歩もう。
…っと、これで俺らはシロマの眷属だ、バルバンドロの角を替えてもらってもいいか?」
「けんぞ?な?…よくわか…もう知らんし…
はい、角。」
どうにでもなれと、軽く投げやりな様子で持っていた角をガジャラに渡し、代わりにガジャラの角を受け取る。
「おう、モディフ!
あいつらのこと、頼んだぜ。
お前なら任せられる。」
バルバンドロの角を渡しながら、その手をとりモディフを立たせる。
耳元でボソリと何かを呟くが、それはモディフ以外に聞こえることは無かった。
「兄者…分かったよ、なんとかしてみる…鬼使いの荒い事だよ…」
角を受け取ったモディフが、ぼそりとつぶやく。
そして…
「…全員撤収!3時間で消えるぞ!
ほら、さっさと動け!」
残った痩身鬼達は、各々ガジャラやボルグに思い思いの別れの挨拶をしてから、迷宮の奥へと消えていった。
静かになったホールの真ん中に、シロマと痩身鬼3体、そして縛られた人間が1人残された。
『(なんだこれ…)』
「(オレが聞きたいよ!)」
次回はシロマの腕の毛どうにかします…
このままだと怪しまれちゃうからね。
ボコボコの人間どうしよう…
殺してしまうか?
アイデアあればよろしくです。