第24話 理解ー怒りの代償ー
投稿遅くなりました。
感想、要望、なんでも待ってます。
通路で燃えていた火柱が、徐々に輝きを失っていく。
赤く照らされていた通路に、本来の暗さが戻ってくる。
「嘘…だろ…」
痩身鬼とみられるガジャラは、眼に映る光景が信じられないように呟く。
絶対の自信をもって放った技が、まるで通用しなかったからだ。
そのショックから、しばらく呆然としていたが、シロマから発せられる殺気にも似た波動を感じ取り、ジリッと後ずさる。
逃げるのか戦うのか…逃げるならいつ、どこへ…戦うならどう立ち回るか…ガジャラは全力で思考する。
出した答えは、部下である他の痩身鬼が逃げる時間を少しでも稼ぐため、迷宮の入り口方向に誘導し、自身はそのまま逃げるというものだった。
ちょうど入れ替わっていた立ち位置を利用しての作戦だ。
その為にはシロマをうまく誘導する必要があったが、早々に作戦変更を考えさせられる事になる。
「…許さない…絶対に…」
誰にも聞こえ無いほど小さく呟くと、ゆっくりと瞳の輝きが薄れ、鈍い赤へと変わってゆく。
「風刃」
ガジャラの耳に聞こえたのは、能力を放つシロマの声だった。
「くっ…!!」
動き出そうと構えていたガジャラは、瞬時に身体を捻り、殆ど見えない風の刃を躱す。
身体のすぐ横を通り過ぎたそれは、分厚い壁を深く切り裂いて消えた。
視界の端に切断面を抑えたガジャラは、その切れ味に戦慄を覚え、僅かながら硬直してしまう。
「避けるなよ…」
シロマがぼそりと呟いたその声音の冷たさに、ガジャラの背中に冷たい汗が流れる。
シロマの瞳が、更に暗い赤に変わったように見えたガジャラは、無意識に下がり、横の道に逃げこむ。
「お前から仕掛けてきたくせに…逃げんな!」
生存本能がそうさせるのか、ガジャラの意思とは別に、身体がシロマから距離を取ったことで、奇しくも作戦通りの展開となる。
逃げに徹したおかげで、シロマとの距離を維持して進むことが出来たガジャラは、シロマの怒声を背中に聞きながら、迷宮内を入り口へと駆け抜ける。
それを逃すまいと追いかけるシロマは、能力を連発していたが、動き回る相手に当てることが出来ないでいた。
ひたすらに逃げ回るガジャラだったが、迷宮入り口のホールへ辿り着いたことで、気が緩む。
「もう少しで…」そんなことを考えて、気持ちが緩んだのだろう。
紙一重で避けていた風の刃を、避けそこなってしまう。
「!!!!」
悲鳴こそ上げなかったものの、右足の側面を抉り取られるように切り裂かれ、そこから赤紫色の血が吹き出る。
足を抉られバランスを崩したガジャラは、走っていた速度のまま転んでしまう。
ゴロゴロと地面を転がり、ホールの中央辺りで止まった。
「…やっと当たった…」
フワフワと漂うようにホールに入ってきたシロマを見たガジャラは、刀を杖のように使って、なんとか立ち上がる。
「そろそろ…死んでよ、風嵐刃!」
ガジャラが立ち上がるのを、冷ややかに見ていたシロマが、冷たく言い放ち能力を使う。
ほぼ無風だったホールに、突如として風が吹く。
徐々に強くなる風の中に、風の刃がいくつも出来上がり、ガジャラに向かい飛んでゆく。
「クソがー!」
雄叫びを上げ、刀を抜きはなった。
強風に片足で耐えながら、構えた刀で風の刃を捌いていく。
幾つかの風の刃を、刀で叩き落としたように感じたガジャラだったが、数百にも及ぶ、文字通り嵐のような斬撃の全てを防ぐことは出来ず、風が収まった頃には、文字通り傷だらけになっていた。
「…ちっ…まだ生きてんのか…」
そんな姿になりながらも、未だに立っているガジャラを見て、シロマが悪態を吐く。
「はぁ…はぁ…くっ…」
肩で息をし、口の端から血を流す傷だらけのガジャラは、刀を杖のように地面に突き立て、ギリギリのところで立っていた。
「な…何なんだお前…こんな力を持っていながら…何で俺たちを襲うんだ…?」
口から血を流しながら、ガジャラが問いかける。
「…は?…魔物けしかけたり、いきなり殴ってきたり、斬ってきたり…
全部…全部お前達からじゃないか!?」
叫ぶようにシロマが言う、明らかにイラつきが感じられる語気の荒さに、満身創痍のガジャラは、逃げることもできず、話すことで時間を稼ぐしかなかった。
「我等の砦に…警告を無視してまで、無断で立ち入ったのは…お前達だ…徒党まで組みやがって…何を今更…」
「訳のわからないことを…オレは一人だ!」
ガジャラの顔が引きつる。
目を見開きシロマに問う。
「…討伐隊の人間に使役された魔物じゃないのか?」
「討伐隊…?は?お前何を言ってるん…だ?」
二人の間の空気に、不穏な空気が流れ始める。
「…なに?…だとしたら、何しにこんな場所に来たと言うんだ?」
「…別に…迷宮を見つけて、気になったから入ってみただけだし…」
二人の間の空気が、更に微妙なものになり、カラスでも鳴き出しそうな空気が漂う…
「お前は…ただ単に迷宮に興味があっただけだと言うのか…?
俺たちに何かするつもりはなかったと…?」
「だったらなんだってんだよ…」
その答えを聞いたとたんに、がくりと膝をつくガジャラ。
いつの間にか、赤かったシロマの瞳の色も、元の黒色に戻っていた。
「ク…クハ…クアッハッハ!」
複数の影鬼と、歴戦の戦士であるバルバンドロという戦力を失った、それは単なる勘違いで済ませられる被害では無かった。
しかし、たった一度刃を交わしただけなのに、その戦力差に絶望すら覚えていたガジャラには、これ以上戦う必要がないことの安堵が勝り、力が抜けたのだ。
「だ…大丈夫か?」
突然笑い出すガジャラに、すっかり毒気を抜かれたシロマは、心配そうに問いかける、それを手で制して、ガジャラが口を開いた。
「あ、あぁ…最後に確認させてくれ…
お前は俺たちの敵なのか…?」
ガジャラにとって、その答えで今後の運命が決まる質問だった。
敵と答えられたら、自分に勝ち目は無い、足の状態も悪く、逃げることもできない。
しかし、そうはならないと分かっていた。
「……さぁ?」
拍子抜けの答えに、またも沈黙が流れる。
「……クアッハッハッハッハ!
いや、すまない…そうか、お互いの勘違いだとはな…
勘違いとはいえ、いきなり斬りかかったことを、まずは謝らせて欲しい。
すまなかった。」
ガジャラは、膝立ちの状態で頭を下げる。
突然謝られて、シロマも動揺する。
「え、勘違い?あ、いや…あれ?」
『(あーらら…こうなったら残念だけど終わりかな…)』
サティだけは、残念そうな声を上げたが、状況についていけず混乱するシロマ。
その場に完全に座り込んだガジャラは、ホールの出口から遠巻きに様子を伺っていた影鬼数体を、手招きで呼び寄せると、何やら命令を下す。
影鬼達は、迷宮の奥へと戻ってゆく。
迷宮内で起こった戦闘は、一先ずの終結を迎えた。
バタバタですが、戦闘は一旦終わりです。
次回は後処理と、今更の紹介回にしようと思ってます。