第23話 赤光ー落ちたものー
今回は、書き方を少し変えてみました。
どうでしょうか?
感想お待ちしています。
あの色はバルバンドロの頭角だ、バルバンドロから奪ったとでもいうのか?
「あぁ、さっきの奴の角だよ。もしかして知り合いだった?」
モディフはバルバンドロが消えたと言っていたが、頭角だけを残して消したとでも言うのか?
ダメだ…時間稼ぎをするつもりだったが、こいつは危険すぎる。
「…返そうか?」
あ?…何?返すだと?
倒した相手の…相手の尊厳をなんとも思っていないだと…?
「黙れ…」
正直言って、粗野なバルバンドロのことは、好きではなかった…だが…
「その角は我等の誇り…お前如きが触って良いものではない…
さっさと…離せ!!!」
一気に間合いを詰め、腰に差した「鬼刀オード」を振り抜く。
刃は、確実に相手の体に当たり、その体を切り裂く。
踏み込みの勢いだけで、名前も知らない白い魔物の背後まで進む。
手応えはあった…刀を鞘に収め、後ろを振り返る。
「き、切れてない…だと…?!」
当たりをずらされたのか…?
自分の身体を確かめる様に触っている白い魔物は、何かを呟いているようだが…隙だらけだ。
「余裕だな!舐めるなよ!!
鬼式剣術【連なりの型】!!」
鞘に収めた刀を構え、居合切りの要領で何度も斬りつける。
鬼式剣術の中でも最速を誇る【連なりの型】は、一瞬の内に相手を細切れにする技だ。
「出し惜しみも、手加減もしない!斬り刻まれて塵と化せ!!」
白い魔物に、刃が何度も当たる感触が手に伝わってくる。
硬い…
刃が入っているのか不安になる程の硬さが、刃を通して伝わってくる。
しかし、型に入ると、型の終わりまで、身体は勝手に動いてしまい、そこに自分の意思は存在できない。
ただし、避けられたことも、防がれたことも、今まで一度も無いがな。
高速の居合いで巻き起された剣風が、通路に埃を巻き上げ視界が妨げられていく。
そして数十秒に渡る連撃が終わり、脱力感に襲われる。
型が終わると、数秒の硬直が訪れるのだが、こればかりは避けようが無い隙となる。
そのため、完全に硬直してしまう前に、相手との距離を取ることが必要になる。
いつものように型の終わりに合わせ、後ろに飛び退き、呼吸を整える。
「…はぁ…はぁ…やったか…?」
この型は、自分の限界を超える力を発揮できるが、その分消耗も激しい。
「…嘘だろ…」
土煙が収まると、そこには白い魔物が変わらず浮かんでいた。
………
シロマは困惑していた。
おそらくさっきまで戦っていた痩身鬼の仲間だと思ったのだろう。
サティが消してしまった鬼の、身体の一部だった角を返そうと声をかけたら、怒られたからだ。
「黙れ…その角は我等の誇り…お前如きが触って良いものではない…
さっさと…離せ!!!」
急に怒られて動揺したシロマが、口をパクパクさせていると、男は急に斬りかかってきた。
咄嗟のことで反応できなかったのもあるが、そもそも見えていなかったと思う。
しかし、シロマの身体に傷は無いようだった。
「き、切れてない…だと…?!」
斬りかかってきた痩身鬼の男が驚くなか、シロマも同じように驚いていた。
「お!…お?どこも切れて無い?」
『(いや、身体は切れて無いけど、少しだけ毛が切れたな。下に落ちたよ。)』
サティの指摘で下を見たシロマ、短い毛が数本落ちていた。
「え?あ、本当だ、え?禿げた?」
斬られた位置を手で触ると、少しだけツルッとしていた。
「うわー…これ、ちょっとヤバいかな?」
『(知ら無いよ、それより次来るぞ。)』
お腹のあたりの少しだけ毛が薄くなった辺りを撫でていると、さっきの男が再び斬りかかってくる。
「余裕だな!舐めるなよ!!
鬼式剣術【連なりの型】!!」
さっきと同じか、それ以上の速さで剣を振り回してくる男に、シロマは対処できないでいた。
「だ…も、…も…ない!…れて…と…せ!!」
気合いとともに連続で斬りつけてくる男が何かを叫ぶが、ガツンとズバンと斬りつけられる音にかき消され、うまく聞こえ無い。
シロマは、ギリギリ防ぐのに精一杯で、声も出せずに耐えていた。
数十秒…何もできずに斬られ続けるシロマの下には、パラパラと斬られた体毛が落ちていく。
土煙が舞い上がり、相手の姿が見えなくなるころには、嵐のような連撃も止まっていた。
「終わ…った?」
急に訪れた静寂に、シロマは恐る恐る顔を上げた。
土埃が巻き上げられ視界は殆ど無かったが、目の前にいた痩身鬼は離れたようだ。
「……直せるのかな……?」
足下に落ちた毛束と、つるりと毛のなくなった腕を見ながらシロマは呟く。
『(さぁね、直らないかもな?)』
「…そうか…それは…大変だな…」
『(そうだな、で…どうするんだ?)』
シロマの目から輝きが無くなってゆく。
「…嘘だろ…」
土煙が収まり、シロマの目にも痩身鬼の姿が見えてくる。
「…許さない…絶対に…」
輝きを失ったシロマの瞳に、赤い光が灯る。
その光は、鮮血によりも鮮やかな赤に、闇の黒が同居する、不思議な輝きを持っていた。
年度末のため、次の更新は4月9日を予定しています。