第22話 会敵ー炎に包まれてー
遅くなりました、土曜日更新の予定だったのに…
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迷宮の奥で、多くのものが慌ただしく動き回る音や、ザワザワと何かを話し合う声がする。
「グフ、聞いたか?バルバンドロが殺られたらしいぞ?」
「ギャハハ、マジかよ!あいつ口程にも無かったな!」
灯りが天井に吊るされたランタンのみの薄暗い室内で、撤退の指示が出ているにも関わらず、作業をまるでしていない痩身鬼達がいた。
その手には、何かの肉を持っており、クチャクチャと音を立てて食べながら、グダグダと話しをしていた。
その背後から、一つの影が近づいてくる。
話していた痩身鬼の首元に、禍々しい形の短剣を突きつけながら、影の持ち主が声を出す。
「オソイ…シヌ?」
短剣を突きつけたのは、女の痩身鬼で、一見するとスタイルも良く、身につけている鎧も露出度が高い物だったが、その顔は能面のように表情が無く、口調にも感情を読み取れるような抑揚が無かった。
「…す、すま…動くから勘弁してくれ…」
「…ソウ…」
女の痩身鬼は短剣を引くと、来た時と同じように音も無く去っていった。
「…やるか…」
「…おう…」
室内に残された痩身鬼は、必要な物をまとめ始めた。
他の部屋から聞こえていた話し声も、少しづつ収まってゆき、ガサガサと物を動かす音だけが迷宮内に響くようになるのだった。
………
【グギャー!!】
「なんか奥の方が騒がしくなってきたね?」
襲ってきた影鬼の一体に、バルバンドロの角を突き刺し、その体が消えるのを見ながら、シロマは呑気に話す。
『(そうみたいだな、もしかすると逃げる準備かもな。
戦いたいなら急がないと逃げられるかもしれないな。)』
「ん〜…」
どう聞いてもやる気のないシロマの声に、サティが問いかける。
『(…もう飽きたのか?)』
「そ、そんなことないよ…まぁ、影鬼は弱すぎて飽きてきたけど…」
『(はぁ…もうかよ…戦い方を覚えるためなんだから、弱い方が色々試せるだろ?)』
溜息と共に、サティは少しだけ教師モードになる。
だが、既に襲ってきた影鬼は、全て倒し終わっていた。
「試す…ん〜、一撃で終わるから何も試せないよ?」
『(…はぁ…それが油断だっての…さっきもそのせいで無駄に苦戦したんじゃないのか?)』
角を手の中で遊ばせながら不満を述べるシロマに、サティは呆れていた。
『(大体な、まだ数体倒しただけなのに飽きるとか、練習なんだから面白さとか要らないし、体が覚えるまで反復するもんなんだよ…
…って聞いてんのかよ!?)』
サティが話すのも聞かずに、倒した影鬼の落とした、光る欠片を拾っていたシロマだった。
「聞いてるよ。戦う時は真面目にやるってば…
それより、そろそろ気持ち悪い…」
『(ったく…火系の能力で綺麗にすれば…
そうか、まだ教えて無かったっけ…今回は俺がやるから覚えろな。)
古炎創柱』
時間が経ちバルバンドロの血が乾き始め、引っ張られるような感覚に不快感を覚えてきたシロマの言葉に、サティが能力を使って炎の柱を創り出す。
火柱の太さは、シロマが入るには丁度いいくらいしかなかった。
『(それに入れば綺麗になるけど、一度自分で出してみようぜ。
雷系の能力と同じ要領でやれば、こっちは耐性がある分使いやすいかもしれないしな。
今後も使うことは多いだろうし、覚えといて損は無いぞ。)』
能力や魔法は、大きく分けると4属性に分類される。
攻撃、破壊の火
速度、切断の風
防御、強化の土
治療、操作の水
そして、これら四元素を組み合わせることで、更に多くの属性を作り出し使用することができる。
シロマの使っていた雷系の能力は、系統としては火と風の混合能力なのである。
「簡単に…とりあえずやってみるけどね。
えーと…古炎創柱?」
シロマが手を前に出し、サティと同じく唱えると、 サティの出した火柱と同じくらいのものが、地面から立ち上る。
「おぉ、出るもんだね!」
『(…今更だけど、狂った性能した身体だな…)』
「え?なんか言った?」
『(いや、何でもない。さっさとやって行こう、結構時間経ってるしな。)』
自らを神と名乗る少年、イシュトアマルによって作られた身体は、かなりの高性能らしいが、シロマ本人ですら、未だに把握出来ていない部分が多い。
シロマは、立ち上る炎に恐る恐る手を伸ばしていくが、自分から炎の中に入る事は戸惑われた。
『(…どうした?)』
「いや…大丈夫なのは分かっているけどさ…」
『(今更怖がってんのかよ?)』
「怖がってないし!大丈夫だし!」
サティに煽られて、シロマは炎の柱へ飛び込んだ。
やはりと言うべきか、シロマの身体自体は炎に焼かれる事はなく、付着していた血液や他の汚れだけが燃えてゆく。
暫くの間、炎の中で目を閉じじっとしていたシロマだった。
『(もう出てもいいんじゃないか?十分だろ?)』
サティの声で、ゆっくり目を開けたシロマは、自分の手を見る。
炎によって赤く見えてはいるが、明らかに血の色とは違っていた。
毛先も炎によって作られた上昇気流に揺れ、血液による固まりは無くなっていた。
「…大丈夫そうだけど、慣れないとな…」
『(まぁ、炎なら耐性があるから余裕でいいぞ。すぐ慣れるよ。)』
「そんなモンかね…ま、綺麗になったからいいや。」
すっかり綺麗になったシロマが炎から出てくると、新たな影鬼が数体向かってくるのが目に入る。
「またかよ…いい加減にして欲しいな…」
『(違う…あれは影鬼だけじゃないぞ…)」
「え?」
影鬼の一団が、2つに割れてゆき、その間から実体を持った何者かが現れた。
「思ったよりも小さいのだな…」
その者は、手を振ることで影鬼を下がらせると、羽織っていた外套を脱ぎ、肩から落とす。
「ここから先は進ませるわけにはいかないのでな、俺が相手をしてやるよ。」
外套の下から現れたのは、角を生やしたい男の姿だった。
「また痩身鬼か?」
背格好は、先程襲ってきた痩身鬼とあまり変わらないように見えたが、頭に生える角は、額からではなくこめかみの辺りから生えていた。
「そんなところだ…
!!…そ、その手に持っているのは…」
シロマの手に握られたバルバンドロの角を見た途端、現れた男の顔色が変わっていった。
「あぁ、さっきの奴の角だよ。もしかして知り合いだった?
…返そうか?」
「黙れ…」
低い声で男が続ける。
「その角は我等の誇り…お前如きが触って良いものではない…さっさと…離せ!!!」