第21話 処理ー残されたものー
戦闘の後処理です、話は進まないけど必要かなと…
意見でも指摘でもいいので感想下さい。
闇色の炎が照らす暗い通路に、返り血で真っ赤に染まったものがフワフワと浮いていた。
『呆気ないものだな…もう少し楽しんでも…』
「(お〜い…終わったんだろ〜…身体返してよ…)」
左手に掴んだ、持ち主のいなくなった捩れた角を見ながら、若干感傷に浸りかけていたサティに、シロマが話しかける。
『…もう少し借り…分かった、返すよ…』
名残惜しそうなサティだったが、シロマとの約束は「相手を倒すまで」だったので、渋々身体を返すことになる。
すっとシロマに主導権が移ると、辺りに漂っていた瘴気も、黒々と燃えていた闇色の火柱も、霧散するように消えてしまった。
「…う〜…はぁ、動けないのはつまんないから嫌いだよ…」
伸びをしながらボソッと呟いてしまったシロマは、サティの一言で黙ることになる。
『(俺はずっとそうなんだぜ?
…おいおい黙んなって、別に責めたい訳じゃねえから。
最初に言った通り、契約のために取り憑いてはいるが、あくまで俺にとっては仮の身体だからな…
今回のは緊急措置って奴で身体使ったけど、別に毎回どうこうしたい訳じゃねえよ。
…ってことで、この話は終わり。
で、その角は使えそうだから持って帰れな。)』
一方的にサティが話したため、シロマは納得するしかなかった。
「分かった…なんかごめん…」
『(だ〜か〜ら〜、気にするなっての。
それとも、俺に身体をくれるってのか?)』
「…それは…ごめん、無理…」
『(だろ?だったら気にするな。
それでも気になるなら、たまに身体を貸してくれればそれでいいから、な?)』
「分かった…それじゃもう言わないよ。
え〜と…あ、この角何に使うの?」
サティの言葉でなんとなく気が楽になったシロマは、手に持つ角のことを思い出し問いかける。
『(それな、さっきので分かったけど…この身体じゃ肉弾戦不向き!
こんな短い手足じゃまともに戦えないって…
だからさ、その角を加工して武器っぽくすれば少しはマシになると思わないか?)』
サティの考えが伝わったのか、シロマは感嘆の声を上げるが、もっと重要なことに気がつき、声のトーンが下がる。
「おぉ〜、確かに素手だ、と…こんな感じに汚れるし…
あぁ…どうしよう…マーヤに怒られるかな?」
シロマの身体は、バルバンドロの角を折った際に飛び出した、大量の血液で、全身が真っ赤になっていた。
自分の手足が血に染まっているのを見て、水で落ちるのか?そもそも水に入ってもいいのか?と、不安になっていた。
『(大丈夫、大丈夫、さっき火柱に入っても大丈夫だったろ?
俺が調べた結果でも、かなりの炎まで耐えられるみたいだしな。
能力で自分を燃やせば、大概のものは燃え尽きて綺麗にできるぜ。)』
覚えているだろうか?シロマの身体、人間でいえば皮膚に当たる表面部分に使われている素材を。
神と名乗る少年、イシュトアマルが作り上げたその身体には、狐の魔物である妖狐、その中でも白い体毛に覆われた希少種、白狐の毛皮が使われていた。
妖狐種は、個体差はあるが炎を操る能力に長けた種族で、自らが操る炎に焼かれないように、毛皮には強い炎耐性が備わっている。
そして、その中でもシロマに使われた白狐の毛皮は、最高クラスの耐性を備えており、数千度の炎にすら耐える程だ。
「そうなの?あ、確かにサティの炎も大丈夫だったもんね。」
『(い、言っとくけど、前のは本気じゃ無かったからな!
俺の本気なら消し炭に…いや、やめとこう…
…とにかく、汚れる事は気にしなくていいから、まずは戦い方をどうにかしないとな。
さっきの戦い方じゃ、勝てる相手にも勝てないからな。)』
ムキになりかけたサティだったが、シロマに物事を教える時に使う【教師モード】で話を進める。
『(いいか?まず間合いをきちんと把握する事、今のシロマの場合、中遠距離での能力攻撃が、今のところの武器だな?)』
声は出さずに頷くシロマに、サティは続ける。
『(竜種でもない限り、今のシロマと、遠距離戦をまともにやりあえる奴はいないと思う。
ただし、距離があればの話で、今回みたいに至近距離での殴り合いになると、痩身鬼程度の相手でも苦戦する。)』
サティが言う程、痩身鬼は弱い魔物ではない。
魔物の危険度を示す基準に、冒険者組合の設定した討級というものがある。
小鬼や粘性生物といった、出現しても一般人に被害が少ない魔物の討級は、一番下のHである。
因みに、痩身鬼は大鬼の変異種ではあるが、その強靭な肉体と残忍さから、特Aに指定されていて、討級がAに近づく程に危険度は高い事を示す。
それは、現れるだけで災害となる竜種を除けば、最上位の魔物である。
もし、先程のバルバンドロが、テーパの街に現れたとしたら…
おそらく街は廃墟と化し、殆どの住民も殺されてしまうだろう。
「そうだね…殴られてもそんなに痛くは無かったけど、反撃する暇はなかったからな…」
今回戦ったバルバンドロは素手だった、その為苦戦はしたが、怪我をすることは無かった。
もし、相手が強力な武器を持っていたら?
もし、他にも仲間がいて、防御しきれなかったら?
…おそらくは怪我では済ま無かったと思われる。
『(シロマは戦闘感を鍛える必要があるな。
相手と自分の実力差をはっきり認識して、何方が格上かを知れば、戦い方も変わってくるだろうしね。
こればかりは、実戦を繰り返すとかして覚えていくしかないかな、それでも意識しているのとしてないのじゃ大違いだ…ん?)』
サティが不意に言葉を止める。
何かが通路の奥から近づいてきた気配を感じ取ったのだ。
『(シロマ、また影鬼が来たみたいだな。
よし、今回は能力なしで戦ってみようぜ。)』
「え?能力なし?大丈夫かな…?」
『(大丈夫だって、ヤバけりゃ助けるからやってみな。
その角を使えば素手よりは戦いやすいと思うぞ。)』
シロマは不安がっていたが、サティに励まされて乗り気になった。
「よし…やってみる。」
………
瓦礫の散らばる室内で、小さな水晶を覗いていたもの、モディフが顔を上げる。
その額には短い角が2本生えていた。
「兄者…バルバンドロが…」
室内にいたもう1人に声をかける。
崩れた瓦礫に腰掛けていた男が、ゆっくりと顔を上げる。
「どうした?もう終わったのか?」
その男ガジャラは、額ではなくコメカミの辺りから角が生えていて、他とは違う雰囲気を纏っていた。
「それが…終わったには終わったんだが…」
歯切れの悪い男に、次の言葉を促すよう。
「勝ったんだろ?もしかして、呆気なすぎて暴れ始めたのか…しかた…」
「違うんだ兄者…バルバンドロは負けた…消えちまったよ…」
水晶を持った男は、うな垂れるように呟いた。
「…もう一度だ…誰がなんだと…?」
驚きに目を見開き、ガジャラは聞き返す。
「バルバンドロが負けた…しかも死体すら残さずに消えちまったよ…」
「そんな…間違いない…のか?」
「俺も間違いであって欲しいさ…でも水晶は…」
ガン!と壁を殴ったガジャラに驚いて、モディフは水晶を落としかける。
「バルバンドロだぞ!?戦闘狂のあいつが負けたと言うのか!?
…信じられん…」
「…兄者…これからどうするんだ?」
「…撤退だ…バルバンドロが負ける相手だ、残念だが一度撤退するぞ…態勢を立て直すんだ…」
熱くなりかけたガジャラだったが、冷静に戦況を見た結果、歯ぎしりををしながらも撤退の判断を下す。
「殿は俺がやる。さっさと撤退しろ。」
「そんな、兄者を置いていくなんてでき…」
「バルバンドロを殺せる相手だ…俺以外で時間稼ぎができるのか?」
モディフの言葉を遮るように、強く問いかける。
「分かったなら、全員に撤退命令を出せ。早くしろ。」