第19話 対決ー人形対鬼1ー
シュッ!ポス…、ビシュッ!パフ…、シュバッ!フワ…
聞いてる者に疑問しか生まない音が、バルバンドロの放った火球によって作られた、火柱が吹き上がる通路に響いていた。
殴りかかっているのは、頭に二本の角を生やした痩身鬼と呼ばれる魔物で、名をバルバンドロと言った。
余程自分の拳に自信があるのか、その手には何も持っておらず、腕に包帯のような布切れを、ぐるぐると巻きつけているだけで、他に武器らしい物は何処にも持っていなかった。
「へ〜い、へ〜い!なんでやり返してこないんだよ?!守ってばっかじゃ勝てない…ぜ!!」
「うるさいよ!だったら殴るの止めろよ!」
煽るように話しかけるバルバンドロだったが、その拳は鋭く、シロマは防御するのが精一杯なのか、ジリジリと押し込まれていた。
「あははは!それはできないね!それとも降参するかい?」
笑いながら殴り続けるバルバンドロだったが、一度も有効打を当てられないことに、少しだけ気持ち悪さを感じてきていたが、軽口を叩くことはやめなかった。
『(手伝ったほうがいいか?)』
「いい!別に痛くないし!」
『(そうか?ならいいけど…)』
「へぇ!言ってくれるじゃんか!ならこれでどうよ!肉体強化腕部限定!」
シロマに取り憑いている悪魔サティが、怠そうに聞くと、殴られ続けていたシロマが不機嫌に返した。
しかし、サティの声が聞こえないバルバンドロは、自分への言葉だと受け取り、多少の苛立ちと共に能力を発動した。
バルバンドロの使った能力は、自身の肉体を強化するもので、使用者の身体能力を30%程上昇させる効果があるものだが、バルバンドロは、腕部のみに限定することで、その効果を引き上げる。
能力を使用したバルバンドロの身体は薄っすらと光り出し、肘から先の腕部へと、徐々に光が収束していく、拳に光が集まるのに比例して、繰り出す拳の速度は速く重くなっていった。
そしてある時、シロマの防御が間に合わなくなり、身体の中心にバルバンドロの拳がめり込む。
「ぐっ…!!」
「あは!当たったね!どう?効いた?手応え無いから分かんないんだよ…ね!」
呻き声を上げてしまうシロマに対して、バルバンドロは嬉しそうに問いかけながらも、その拳を止めることはなく、更に速度を上げながら殴り続ける。
ボスッ!ボスッ!と何度もシロマの身体に当たるうちに、当たった時の音も少しづつ重くなってゆく。
殴られる度、シロマの口からはくぐもった声が発せられ、誰の目にもダメージが通り始めたことが分かるようになってきた。
「効いてきた?効いてきたよな?!あははは!は?」
『(遊び過ぎだ…)飛行!』
見かねたサティが能力を発動し、シロマの身体が後ろに吹き吹き飛ばされるように後退し、バルバンドロの拳が空を切った。
急な後退に意表を突かれたバルバンドロは体勢を崩し、その間にシロマは更に下がる。
後ろには轟々と燃え上がる火柱があったが、下がり続けるシロマは、そのまま火柱に飛び込んだ。
燃え上がる火柱の中央でピタリと止まると、視界は炎で塞がれ身体が焼かれるような感覚がシロマを襲う。
「ちょっと!サティ!?」
『(落ち着けよ、この程度の炎、熱くもないだろう?見た目は派手だが、熱量は全然低いよ。)』
サティの言う通り、火柱の炎はシロマの身体に燃え移ることはなく、毛の先すら燃えることは無かったが、燃え上がる炎の音が周りの音をかき消し、外の様子は分からなくなった。
「そうじゃなくて!なんで勝手に…」
『(あ?勝手にじゃねーよ、今は俺の身体でもあるんだよ。防御もなってないし、あのままじゃその内怪我してたぞ?)』
シロマが気にしたのは、サティが急に身体を動かしたことだったが、サティの言うように戦い慣れていない事もあり、バルバンドロの攻撃に対応出来なくなっていた事も事実だった。
対応出来なくなれば、そのうち致命的なダメージを受ける事もありえるたが、サティの判断が結果として、その事態を未然に防ぐ形になった。
『(明らかに経験不足だな…奴はお前が思ってる以上にやるみたいだし、少し俺に任せてくれないか?)』
「サティに?でも…!!」
シロマが渋っていると、目の前に拳が飛んできた。
シロマが火柱に飛び込んでからある程度時間が経ち、業を煮やしたバルバンドロが、闇雲に殴り込んできたのだ。
運良く当たる事は無かったが、鼻先に拳が飛んできたことで、サティからも余裕が無くなり、シロマの応えを聞くことなく、身体の主導権を奪い取った。
『こいつは思った以上に危険だ、俺が相手するから少し見てろ。』
言うなり火柱から飛び出したサティは、火柱を殴っていたバルバンドロをかわして、その後ろに回り込んだ。
「お?やっぱり燃えてねーな!…ん?」
『この程度の炎で燃えるわけないだろ?さて、反撃させてもらうぞ…』
バルバンドロは、シロマの雰囲気の変化に気が付いたようで、訝しむように目を細めるが、直ぐに考えることを放棄した。
「…おいおい、随分と雰囲気変わってんな…ま、続けられればなんでもいいや。」
『ふん、長引かせるつもりは無いさ…限界突破!」
バルバンドロがヘラヘラと喋る中、サティは能力を発動させる。
それは強化系能力の中でも上位に位置する能力で、文字通り肉体の限界を超えた力を発揮できるようになるものだった。
黒い瘴気のようなものがシロマの身体から立ち上り、見る者に絶望感を感じさせる程の威圧感とを撒き散らしていく。
『さぁ、痩身鬼の小僧よ…我が名は…サティ…煉獄を支配する魔王である…』
そして暫くの沈黙を挟み、手を広げたサティが宣言する。
『…さて、これより蹂躙を…開始する!』
中途な終わり方になりますが、もう少しだけ戦闘は続きます。
誤字脱字の指摘等、何かあれば書き込みいただければと思います。
説明とか少ないですかね?