表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/34

第1話 転生ー退屈が終わる時ー


「息子が帰ってきてないの!誰か!誰かー!」

『ギャハハ…逃がさねーよー』

「無理だ…お終いだ…」

『久しぶりのニクだー!』

「じーさん!急げ!死んじまうぞ!!」

『こいつ不味…そっちはどうかなー』

「イヤだ!食わな…ぎゃーーー!!」

「助けはまだ来ないのかよ!」

『無駄無駄〜効かないんだよ!』

「おかーさーん…おかーさーん…」

『西側に逃げたぞー!一人も逃がすな!』

「騎士団はまだ来ないのか!」

『ギャハハ!死ね!死ねー!』

「神よ…」

『…ニガサナイ』

「西からなら逃げられるみたいだ!早く!!急げって!!」

『久しぶりの獲物だ、全員喰い殺せ!』

「鬼に食われるくらいなら…ぐっ!…!!」

「ただの大鬼オーガじゃない!逃げろるげ!ぎゃー!」

『ざ〜んね〜ん遅かったね〜』

「腕が…俺の腕が無いんだよ…」

「助けて…誰か…」

『北から騎士団来たってよ!食物の追加だぜ!』

「いやーー!!!!」

「押すな!押すなって!!」

「化け物が…」

『食物が反抗してんじゃね〜よ!』

「ははは…おしまいだよ!逃げられるわけ無い…」

『そろそろ帰るぞ!遊んでる奴は切り上げろよ!』

「親父…ごめんな…」

「死にたくない…まだやりたいことが…」


……


 平和な街並み、突然起こる狂乱。

 其処彼処で悲鳴や断末魔の声が上がり街は地獄に様変わりする。

 頭に角を生やした者たちが殺戮を楽しむ様子を、目を閉じることもできずに、ただただ見続けるのだった…


「…」



「イヤなもん見せられた…さっきのはなんなのさ?」


『ん?神のお告げってやつだな!』


 彼は転生による効果なのか、妙にはっきりした頭で考える。


「…で、オレになにかしろってこと?」


『別にないよ?君に関係ありそうな事柄が見えただけだと思うし。』


 自らを神と名乗った少年、イシュトが語る。


『僕の力の一部に少しだけ先の未来が見えるものがあるんだけど、それが少し使えたんじゃないかな?

 でも僕は、運命はこの世界に生きる者が決めるべきだと思うから、よほどの事がないと手出しはしないよ!』


 イシュトは、なぜかは分からないが胸を張りながら答え、その後思い出したようにモジモジしながら続ける。


『べ、別に転生に関わったからって君の事を気に入って、力を貸したりなんかしないんだからね!』


「そっちの趣味はな…そっち?そっちってなんだ?

 …まぁいいや、で、どうしたら未来を変えられるかとかは教えて貰えるの?」


 顔を覆ってクネクネしていたイシュトは、そのまま答える。


『え?無理無理、僕にも分かんないよ〜、見えた未来も確定事項じゃないしね。

 ま、99%外れる事はないけどね。』


「そうか…流石にあれはどうにかしたほうがいいと思うんだが…」


 先程見た光景があまりに凄惨で、自分の周りを見る余裕がなかったが、会話をすることで少しずつ周りを見る余裕が出てきた。


「で…他に誰もいないみたいだけど、ここはどこ?暗いし…」


『そうだね、箱の中だからね!』


 当然のようにイシュトは答えるが、納得するのは難しかった。


「箱?え?箱ってどういう…」


『箱は、箱だよ、僕のお気に入りの天石製のやつだよ!』


「材質を聞いてるんじゃなくて…」


 そこで彼に新たな疑問が生じる…


「…ん?普通に会話してるけど、転生すると前世の記憶は消されるんじゃなかったっけ?

 多分記憶引き継がれてるけど、いいの?」


『あ…』


 イシュトの顔が一瞬曇り、慌てて続ける。


『だ、大丈夫!今から消すから!』


「え?消すの?消すなら、さっきの奴も忘れるってこと?」


『い、いや、あれは…』


 イシュトは明らかに狼狽し、視線が空中を泳ぐ。


「記憶を消すってことは、意味ないよね?なんでわざわざ見せたの?嫌がらせなの?」


『嫌がらせじゃないもん…本当に後でやるつもりだったもん…』


 彼は思ったままに聞いただけだが、かなり効いたらしく、イシュトの狼狽する姿を見ながら更に続ける。


「神様が嘘つくんだ…へぇ…神様なのに…」


『い…いや、嘘とかじゃ…うぅ…』


 イシュトが頭を抱え苦悩し始めたのを見ても、彼は攻める手を緩めず続ける。


「残念だな〜、いい神様だと思ってたのにな〜嘘つくとか…あぁ残念だな〜…」


『あ、ぐっ…むぅ…』


 彼は思った、チョロいと。

 無意識にガッツポーズを取ろうとして、今まで気がつかなかったのが不思議なことに気がついた。


「…あれ?身体が動かない?」


 意識があり目が見える、なら動けてもおかしくない…そのはずなのに彼は、指すら動かすことが出来ないでいた。

 そこで思い出したのは、イシュトの言葉…

『箱の中だからね!』


 考えればおかしい、なぜ自分が箱の中にいるのか不安になってくる。


「イシュト…ちょっと聞きたいんだけど…」


『…怒られ…え?…な、なに?』


「…オレは人に転生したんだよね?」


 頭を抱えていたイシュトは、ブツブツと呟いていたが、彼の問いかけに顔を上げる。


『人じゃないよ…熊のぬいぐるみだよ…』


 聞いたは良いが、理解したくなかったのか、暫くの沈黙が続く。


「…熊?熊なの?人じゃなくて熊か…生肉とか食べられるかな…それだと記憶はいらなかっ…」


『違う違う!熊じゃなくて熊のぬいぐるみだよ!

 ぬ・い・ぐ・る・み!!

 しかも白熊のやつだよ!?僕のお気に入りの一つさ!間違えられ…』


「ストーップ!!聞き間違いだと思ってスルーしたけど、今ぬいぐるみって言った?」


『し・ろ・く・ま・のぬいぐるみだよ!』


 イシュトは、腹を立てたようだったがそれどころではない。


「ぬ、ぬいぐるみだと…?ぬいぐるみ?なんで?生き物じゃないじゃんか!」


『自分で選んだんだよ?転生前に僕がいろいろ質問して君が答えたの、覚えてないの?その結果だよ?』


 転生前の意識がはっきりしない中で、色々な質問に答えていたようだが、残念ながら内容は思い出せなかった。


「まじか…動けないとか天界より退屈じゃないか…」


 退屈な天界に飽きていたため、彼は転生する事を選んだ、それなのにさらに退屈になるなど思ってもみなかったのだろう。


『え?動けるでしょ?』


 イシュトの軽い返しに憤りを感じるが、それでも体は動かない。


「…ぬいぐるみなのに?この通り全然動けないですけど?」


『僕が作ったんだから動けるはずさ!なんせ、素材が違うよ!素材が!

 骨格は聖魔鉄カオティックアイアンからパーツを削り出して、龍玉を関節にした特製品だし、身体は白狐の毛皮を天界虫の糸で縫い合わせたんだ!体のモフッとしたとこは、天馬ペガサスの鬣だよ!中綿も白猿の毛を使ってるからね!ただのぬいぐるみとは、質が違うよ!』


「いや、質とか知らないけど、現に動けないから…」


 力を入れても指すら動かない状況は、まったく変わらなかった。


『そんなはずないんだけどなー、ちょっと見てみるね。』


 イシュトは、無造作にぬいぐるみを抱き上げると、クルクルと回しながら身体中を触る。


「ちょっ!おま!どこさわっ!フヒャヒャ、ま、やめ!フヒャヒャ…」


 ぬいぐるみでも触られる感覚はあるらしく、彼は奇声のような笑い声を上げてしまう。


『んー…あ、首のところの処理が残ってたみたいだね!いやー失敗失敗。』


 そう言いながら、ぬいぐるみの首から針らしきものを抜き取ると、変化が起きた


「フヒャ、は、は…お?おぉ?」


 今まで動かすことが出来なかった身体に、突然感覚が宿り、動かせる様になる。


「おぉー!動く!動くぞー!?」


 彼は手を回したり足をバタつかせたりと、色々動かしていた、少年に抱かれたままで…


『ね?うごくでしょ?』


「動く!動く!だから…そろそろ離してくれないか!?」


『えぇ〜?…仕方ないな〜』


 イシュトは、残念そうにぬいぐるみを離す。


「ありがとう…しかし…もしかして、オレ小さい?視点も低いし…」


 先ほどまでは、何かの台に乗っていたのか、イシュトと目線は変わらなかったように感じていたが、今はかなり視点が下がり、イシュトの足しか見えなくなっていた。


『そうだね、ぬいぐるみだから、あんまり大きいと可愛くないしさ!』


「お、おぅ…で、どのくらいの大きさになってるんだ?」


『20cmくらいかな、僕が抱くのにちょうど良く作ったからね。』


「まじか…小さすぎるだろ…」


 頭を抱えるぬいぐるみだったが、イシュトは誇らしげに胸を張る。


『可愛いは正義さ!』


 胸を張るイシュトを見上げていると、ぬいぐるみは考えるのが馬鹿らしくなってきた。


「ま、いいか…動けるし問題ないだろう、うん。…で?いつになったらさっきの世界に行けるんだ?」


『ん?もう着くよ、残念だけど貰われちゃう運命だからね。』


「え?…貰われるってどう言う…」


『そういう運命だから仕方ないね、それじゃ、またどこかでねー!』


 イシュトはそれだけ告げると、突然消えてしまう。

 一人残された彼は、ゆっくり意識が遠のいていくのだった…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ