第18話 通路ー遭遇までのあれやこれやー
シロマの放った雷砲は、迷宮最奥の部屋も貫き、部屋の壁に大穴を開けていた。
その衝撃で舞い上がった土煙と、天井や壁だったものの残骸でボロボロになった室内に、突如大声が響く。
「…ふざけんな!なんなんだあいつ?!」
瓦礫の下から立ち上がったものは、体に着いた埃を払いながら悪態を吐く。
「!?あー!!俺の…俺の球がー!!!」
瓦礫が直撃したのか、ほとんど粉々になった水晶球が眼に入る。
「…す!殺す!殺す!殺ーす!!!!」
殺意に駆られ、飛び出そうとしたものの肩を、誰かが掴み止めていた。
「…落ち着けモディフ。」
「さわっ…あ、兄者…すまねぇ…」
怒りに任せて、肩を掴む手を振り払いかけたモディフだったが、掴んでいたのが誰かを見て、手を止める。
「ここまで連続して能力を発動できる奴だ…無策で相手するつもりか?」
「兄者の言う通りだ…分かった、どうしたらいい?」
モディフは落ち着きを取り戻し、指示を待つ。
「こちらの戦力が削れるのは仕方ない…影鬼をもう何体か向かわせて、足止めさせておけ。
牽制のみに徹すれば、時間稼ぎくらいはできるだろ?」
「わ、分かった…」
「…大幅な計画見直しが必要になるな…クソ…」
兄者と呼ばれたものは、大きな牙の覗く口で、ギリリと歯ぎしりをした。
「おっと…こっちもご機嫌なことになってんな。
お、ガジャラの…警報鳴ってたのはこれやった奴のせいか?
何っっ!!…って〜!…まだ帯電してやがんのかよ。」
声の主は、壁に空いた大穴から室内を覗き込む時、穴の縁に手を掛け感電したようだ。
「バルバンドロか…丁度いい。お前、身体が鈍って仕方ないって言ってたよな?」
兄者もといガジャラは、邪悪な笑みを浮かべ話しかけていた。
………
土煙の収まった通路を、身体に付いた土汚れに払い落としながら、シロマはフワフワと飛んでいる。
「急に静かになったけど、さっきのでみんな倒しちゃったかな?」
『(それはないと思うぜ?まだ殺気らしいものも感じるしな。油断しない方がいいぞ?)』
サティが忠告したと同時くらいに、迷宮の奥から、数体の影鬼が姿を見せる。
「またこいつらか…邪魔だから纏めて吹き飛べ!雷撃陣!!」
シロマは面倒くさそうに能力を使うと、手から雷球が飛び出る。
雷球は、影鬼達の手前まで、放電しながらゆっくりと飛んでいく。
影鬼達は、速度の遅い攻撃をそれほど脅威と感じなかったのか、当たらないようにしてはいたが、ほとんど無視するように向かってくる。
【ガルァー!】
【ゴー!】
【ギュギギ!】
【シャー!】
思い思いに威嚇であろう声を出しながら、シロマに向かい歩みを進める影鬼達。
そして、全員が雷球を通り過ぎた時、派手に電撃を撒き散らし、それは弾けた。
雷砲とは違い、壁や天井を壊すことは無かったが、雷球からの強烈な放電で、周囲の影鬼は、断末魔の叫びを上げる猶予もなく消し飛ばされる。
雷球からの放電が収まってからも、地面に落ちていた瓦礫や壁からは、パチパチと放電が続いていたが、浮いているシロマには、関係が…あった。
「う〜…なんか引っ張られてる感じがする…なにこれ?」
『(静電気だな、こんな狭いところで雷撃陣なんか使ったら、そこら中が帯電するに決まってるだろ?)』
シロマの全身の毛が、全て逆立つ。
短い毛ばかりだったので、見た目にそこまで変化は無かったが、違和感はあるようだった。
「気持ち悪いな〜…これも奥にいる奴が悪いんだ…」
必死に全身の毛を戻そうと頑張るシロマだったが、無駄な努力に終わる。
幸いなことに、壁や天井も広範囲で帯電しており、舞い上がっていた土煙や埃などの汚れは、全てそちらに吸い寄せられ、シロマに付くことは無かった。
『(なんでもいいけどさ、あんまり高威力の能力撃ちまくってると、魔力落しちまうぞ?)』
「魔力落?」
『(昨日教えただろ?能力やら魔法やらで魔力を使い切ると、気絶するみたいに落ちるんだって。)』
「そっか…もしかしてもう魔力が切れそうだったりするのかな?」
不安そうにシロマが聞くが、サティは軽く答える。
『(あ〜それはない。今までの倍撃っても大丈夫だと思うよ。)』
「それ…注意する意味あんの?」
サティの口ぶりから、自分の魔力量が相当多い事に、若干引きながらシロマは聞く。
『(ほらな、過信するだろ?だから注意しろっての。
この魔力量じゃ、一度落ちたら3日位は戻って来れないんだからな?)』
「そんなにか…それはつまんないから気をつけるよ…」
そんな会話をしながら、真っ直ぐに撃ち抜かれている通路を進んでいると、前方に影鬼とは明らかに気配が違う者を、サティが見つける。
『(今度は、厄介そうなのが出たな…左から来るぞ?当たんなよ?)』
「え?分かっ…うっふぇぁい!?」
サティに言われ、ほんの少しだけ右に動いたシロマの横、先程までいた場所を炎弾が数個飛んでいく。
炎弾はそのまま通路の先、シロマ達が来た方向に飛び去り、弾けた。
ゴウ!と何かが燃え上がるような音が数度響き、それによって生じたであろう熱気と衝撃波がシロマを襲う。
「っぶねー!火柱上がってるよ…」
シロマが進んできた通路を塞ぐように、数本の火柱が立ち上っていた。
「ひゅ〜、不意打ち狙ったのに避けるかね?お前何者だ?」
炎弾を撃ったであろう者がシロマに話しかける。
「人…じゃないよな?角あるし…」
『(ありゃ大鬼の亜種だな、見た目からの予想は痩身鬼ってところかな…)』
「喋れるんだろ?俺はバルバンドロ!痩身鬼の戦士だぜ〜」
『(な?痩身鬼だったろ?ほとんどの魔物は、見た目で分かるからお…)』
「おいおい、無視すんなよ〜、寂しくて泣いちまうだ、ろ!」
バルバンドロは、腕に巻いた布に炎を纏わせ、ヘラヘラと笑いながら飛び込んでくる。
その一撃は、喋り方や表情からは想像できないほどに鋭く、そして強力なもので、シロマは防御するのが精一杯だった。
「いってー!まじか?!速すぎんだろ?!」
「へぇ〜、防ぐかい?中々の反応じゃんね。こりゃ楽しめそうだ!」
この時、楽しそうなバルバンドロと対照的に、こちらに来て初めての痛みを受けたシロマは、少しだけ焦っていた。