表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/34

第16話 影鬼ー初めての戦いは突然にー


人喰砦オーガフォートの最奥、天井に下げたランタンの明かりが、ユラユラと揺れる室内。

部屋の中央で、水晶球を見ていたものが声を出す。


「兄者、また侵入者だ。今回は人じゃないみたいだぜ。

入り口近くまで来た奴は離れて行ったみたいだが、どうする?追うか?」


「…いや、逃げた奴を深追いする必要はない。

だが、中に入った奴は逃がすな、嗅ぎ回られる前に捕らえろ。

影鬼シャドゥオーガでも向かわせておけば、事足りるだろう。」


水晶を覗いていた者は、牙をのぞかせながら笑う。


「ケケケ、分かった。直ぐに向かわせる。」



………



迷宮ダンジョンの入り口から通路を少し進むと、天井が半円形のかなり広い空間になっている。

灯りの無いその広間に、シロマが辿り着いた。


「おぉ〜、中は結構広いんだな。もっと狭いのかと思っ……なぁ、あれってもしかして…骨だったりするか?」


壁沿いには、人のものか魔物モンスターのものかも分からない、半分朽ち果てている骨が、大量に積み上げられており、異様な雰囲気を醸し出していた。


『(まぁ、迷宮ダンジョンだからな、骨くらい転がってるだろうけど、骨屍スケルトンって骨だけの魔物モンスターが寝てるだけの可能性もあるから、気をつけてな)』


「…へぇ…骨だけの魔物モンスターなんかいるのか…気持ち悪…」


よく見ると、壊れた鎧や折れた剣、穴の空いた盾等、様々なものも一緒に積み上げられていた。


『(死霊アンデット種は結構種類がいるし、骨屍スケルトン系や腐屍ゾンビ系の奴らは、街から離れた戦場跡や迷宮ダンジョンに行くようになれば、直ぐに見慣れるさ。

死霊アンデットのなかでも見慣れないのは、幽体レイス系と屍人グール系だけどな。奴等は見た目が…ま、会えば分かるよ。)』


「ふーん…いろいろいるんだなー」


フワフワと広間の中を進むシロマは、落ちている骨に少しだけ警戒していたが、特に何も起きることはなく、広間の奥、迷宮ダンジョンのさらに奥に伸びているであろう通路へと進んでいく。

迷宮ダンジョンの通路は、迷路のように入り組んでいるため、度々迷いながら進むことになったが、その途中で出会うのは、天井に張り付く蝙蝠や、キーキー鳴きながら地面を走るねずみくらいで、シロマは退屈し始めていた。


「…なーんか…迷宮ダンジョンて、思ってたよりつまんないな…魔物モンスターいっぱいで、もっと派手な感じだと思ってのに、なんも出てこないや。」


『(攻略済みだからだろうけど、それにしても静かすぎ…お?なんか来たみたいだぞ…?)』


「何…?ついに魔物モンスターのお出ま…し…何あれ…?」


通路の先、曲がり角から顔を覗かせたのは、真っ黒な靄のように見える魔物モンスター影鬼シャドゥオーガだった。

その身体は闇に溶け込むため、灯りのない迷宮ダンジョンの中等では、不可視に近い魔物モンスターで、それだけでもかなり厄介な魔物モンスターではあった。

しかし、シロマの眼にはその姿がハッキリと見えている。


「な〜んか、初めてあった時のサティに似てない?知り合いだったり…する?」


『(いや、あれは俺とは別種だし…って、俺はあんなに気持ち悪くないだろ!

多分、さっき話した幽体レイス系にシャドゥってのがいるから、それの…)』


【グァガー!!!】


魔物モンスターを前に、呑気に話す2人だったが、影鬼シャドゥオーガが威嚇の咆哮を上げたため、会話を中断しシロマは慌てて耳を塞ぐ。


「……ぁぁあー!……おぉ…ビックリした…」


【グルルル…ガルァー!!】


影鬼シャドゥオーガは、唸り声を上げながらシロマに近づくと、その腕を伸ばし襲いかかってくる。


「ちょっ!おぉ!こいつ、腕伸びてんぞ?!…これ、当たったら痛いかな?」


『(シャドゥの強さは、サイズ次第だからな、このサイズだと…いや、当たったら分かるよ。)』


「えぇー…痛いなら嫌なんだけ…ど!!」


サティと喋りながらも、影鬼シャドゥオーガの攻撃をフワフワと避けていたシロマだったが、微妙に避けきれなかったのか、腕に少しだけ当たってしまう。


「いっ!!……たくない?え?今、当たったよな?」


『(そうだな、当たったな)』


【ガルァー!!ガ…ル?】


影鬼シャドゥオーガの攻撃は、確かに当たっていたが、シロマの身体に傷一つ作ることはなかった。

そのことを確認しようと動きを止めたシロマに、影鬼シャドゥオーガは更に攻撃を加えるが、シロマに効いている様子はなく、その事に影鬼シャドゥオーガも不思議そうな声を出す。


「まじか…痛くもなんとも無い…これも、この身体の性能なのか…因みに、この魔物モンスターの強さは?」


『(このサイズのシャドゥなら、そこまで強くはないだろうね。)』


「そっか、もっと強い奴もいるって事だな…で、こいつの倒し方は?」


『(そうだね…実体を持たないこの手の魔物モンスターには、通常の攻撃は効きにくいからね、昨日教えた能力スキルを適当に使えば倒せるよ。)』


影鬼シャドゥオーガは、Bランク指定の魔物モンスターであり、迷宮ダンジョンの外に野営している調査隊では、まず勝てる見込みの無い相手なのであるが、それが分かるのはもっと先の話である。


「適当って…なら…あ、雷砲ブラストボルト!」


シロマが能力スキルを発動すると、右手から、後ずさりしていた影鬼シャドゥオーガに向かって、雷光が走る。


【グギャー!!】


逃げ遅れた影鬼シャドゥオーガは、能力スキルの直撃を受けてしまい、身体の大半を消し飛ばされ、断末魔の叫びを上げ消えていった。


「え?消し飛んだ?」


『(あ〜あ、適当の意味分かってる?これはやり過ぎだ〜…)』


影鬼シャドゥオーガの身体を貫いた雷撃は、迷宮ダンジョンの壁も数枚貫通したところで、やっと威力が減衰したのか、スッと消えていった。

貫かれた壁は、ガラガラと音を立てて崩れ、その破片は暫くの間、パチパチと放電していた。


………



「な…し…影鬼シャドゥオーガが…一撃だ…と…」


水晶球を見ていた者は、驚愕に目を見開き言葉につまる。


「どういう事だ…?この辺りに影鬼シャドゥオーガを倒せる魔物モンスターなんていたのか?」


「分からねぇ…しかし、実際…」


「モディフ、被害状況と奴の解析を急げ。他の奴らには、戦闘準備をさせておけ。」


「もう砦全体に警報を出したが…あいつの目的は?あの人間か?…でも…」


モディフも呼ばれた者が、水晶球に映ったシロマを見ながら考え込みそうになる。


「詮索は後だ…念の為、あの人間はここに連れて来させておけ。

それと…「奴」にも用意をさせるんだ。」


「人間の件は分かったが…「奴」も出すのか?大丈夫な…」


「奴」と呼ばれた者について、モディフが問かけ、不安を口にしようとするが、遮られる。


「大丈夫かどうかは問題じゃない…全ては、計画の為だ…」


静かだった迷宮ダンジョンの最奥部は、けたたましく鳴る警報音によって、一気に騒がしくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ