第15話 散策ー光届かぬ森の奥でー
「よ〜るは、一人で、散歩する〜♪しろいくまだよ、しろくま〜♪いぬじゃないんだ、しろくま〜♪」
月明かりも届かない暗い森の中、シロマが歌いながら、木々の間を飛んでいる。
「楽しいことは〜♪ないかいな〜♪退屈なんて大嫌い〜♪し、し、しし、しろくま〜♪し、し、しし、しろくま〜♪…ん〜?」
歌いながら、前日に能力の練習をしていた広場近くにやって来たシロマだったが、人の気配を感じ取ったため、歌うのを止めて、サティに話しかける。
「(サティ、なんかいっぱいいるよ?)」
『(ん?本当だね、何かあったのかな?)』
真っ暗な森の中とはいえ、自分の真っ白な身体は目立つ、そう思ったシロマは、木の影に隠れる様に動き、そっと広場の様子を伺う。
「結構多そうだけど、なんだろうね?サティ分かる?」
『(流石に分かんないな…見つかると面倒だし、今日は練習止めとくか?)』
「ん〜…それはつまんないな〜…昨日の続きもやりたいし、他で練習しようよ…」
広場からは見えない位置、木の後ろにフワフワと浮きながら、シロマとサティが会話していると、遠くからその様子を見ている人がいた。
その人は、音も立てずに近づいてきていたが、二人はそれに気づくことはなく、その距離はゆっくりと縮んでいく。
『(まぁ、こんな日もあるよ、とりあえず離れようぜ?)』
「そうだね…うきゅあー!!」
突然目の前に電撃が通り過ぎ、シロマは悲鳴をあげる。
「な、な、何だ?!敵か?!」
シロマが驚いていると、少し離れた位置で茂みを揺らす音が聞こえる。
「!!!誰だ?!…ちょっ!待てって!!」
声を上げると、茂みを揺らす音が、離れるように移動したため、シロマは慌てて後を追う。
暫く追跡していたシロマだったが、残念ながら見失ってしまったようで、
キョロキョロと周りを見ながら進んでいると、何かの入り口らしき場所にたどり着いた。
「これ…洞窟?」
『(あれま…誘い込まれたのかな…多分これ、迷宮の入り口だぞ?)』
シロマが見つけたものは、迷宮、人喰砦の入り口だった。
「迷宮?あ、そういえば、フリードが言ってたよ。森には迷宮ってのがあるって…
これが入り口なのか、そんなに大きくないね?」
『(呑気だな…もしかすると、中は魔物だらけかも知れないんだぜ?)』
「やっぱり…危なかったりするのかな?」
シロマの問いに、サティは、少しだけ考える。
『(…うーん…まぁ、街にも近いし、攻略済みだろうから、そこまで強い魔物は出ないか…
うん、危なくは無いんじゃないかな。
…なんだ?もしかして、入りたいのか?)』
「…興味はある…危なく無いなら、入ってみたい…かな。」
『(はは、そうか、なら入ってみようぜ。
この身体なら、よほどの事がなければ傷一つつかないよ。)』
「…まじで?この身体、そんなに凄いの?」
シロマは、自分の身体を作った神、イシュトを少しだけ見直すことになる。
『(まじまじ、ほら、俺は昼間暇じゃんか?
だから、この身体の解析をして…あ、気を悪くするなよ?俺の身体を探す時、参考にするためだからな?
まぁ、まだ全部が分かった訳じゃ無いけど…
多分、殴られたり、切られたりしても、ほとんど痛みすら感じないんじゃないかな?びっくりはするかもしれないけどさ。)』
「そんなに?凄いな…
よし…今夜は、迷宮探索にしよう〜」
自分の身体が、思った以上に高性能なことを知ったシロマは、気を良くして迷宮に入って行った。
………
「…入ったか…しかし、なんか喋ってたが、誰と喋ってたんだ?」
大木の上、かなり高い位置から、ハーフエルフのグインが、その様子を眺めていた。
彼は、シロマが迷宮に入った事を見届けると、地面に飛び降りる。
「…しかし、なんなんだ…さっきから、震えが止まらない…」
グインの手は、小刻みに震えていて、まるで止まる事は無かった…
「…この迷宮…いや、さっきの人形に対してか…?」
本能的に危険を察知したグインは、震える手を抑えながら、森の中に逃げるように姿を消した。