第12話 能力ー出来ることからコツコツと?ー
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魔道具店「クリス・クロス」の3階、マーヤの私室は、室内の灯りが全て落とされ、カーテンの隙間から差し込む月明かりだけが、唯一の光源だった。
布団の中からシロマは這い出すと、ベットの縁から床に飛び降りる。
フワフワの足のおかげで、一切音を立てずに降り立つことができたようだ。
暗い室内も、シロマには昼間と同じとは言えないまでも、ほとんど変わらない感覚で室内を見る事ができたため、なんの問題も無かった。
固いところがまるで無い足で、出るはずのない足音が出ないよう、シロマはゆっくりと扉に近づく。
扉に耳を当て、部屋の外から音がしないことを確認すると、ドアノブまで飛び上がり、なるべく音が出ない様、慎重に扉を開けるが、それでも扉が開く際、カチリと小さな音を立ててしまう。
小さな音だったが、誰もが寝静まる夜の事、その音がとても大きく聞こえたシロマは、ベットを振り返り、マーヤに気付かれていないかを確認する。
昼間の疲れからなのか、幸いにもマーヤが起きる様子はなく、穏やかな寝息だけが聞こえていた。
シロマは安堵の息を吐くと、ドアノブから手を離し、扉の隙間から廊下に出る。
廊下も室内と同じく灯りが落とされていたが、シロマの眼には明るさは関係が無いため、迷いなく階段へと進む事が出来たが、下の階にはまだ灯りがついていた。
『(まだクリスは起きてるみたいだな…あ、そっちの扉から外に出られるよ、屋根の上ならバレにくいし、戻りやすいから)』
サティに促されたシロマは、廊下にある別の扉に近寄ると、部屋の扉と同じ要領で開け、外に出る。
外に出て空を見上げると、そこには大きな月が3つ浮かんでおり、その明るさの所為なのか、星を見る事は出来なかったが、室内よりも外の方が明るく感じられた。
「明るいのか、暗いのか、眼のせいでよく分からないな…」
「夜だから暗いんじゃね?俺にも分からないけどな」
「ちょっと!オレの口で喋らないでよ!」
外に出ると、サティがシロマの口を使い喋り掛ける。その様子は、独り言を言っているようにしか見えなかった。
「いや、思念で会話するのって、結構疲れるんだぜ?俺たち以外誰も居ないんだし、気にすんなって」
「いや、勝手に口が動くのが気持ち悪いんだけど…」
「俺の体でもあるんだから、少しくらいいいだろ?」
何度か言い合いが続いたが、最後は他に聞いてる人が居ない時だけは、シロマが我慢することで話はまとまった。
「…って、そんなことはどうでもいいから、飛べるやつ教えてよ!」
「そうだったな。
ならまずは俺がやってみるから、ちょっと身体借りていいよな?」
シロマが頷くと、サティは能力を発動した。
「それじゃ、いくぞ…浮遊」
シロマの身体は、サティの能力でふわりと浮き上がる。
「お…おぉ…浮いたよ!浮いた!」
「そりゃ浮くよ、って暴れんな!」
浮いたことに興奮し、シロマはパタパタと手足を動かすと、バランスが崩れるのか、サティが嫌がる。
「この能力普段使わないから、慣れてないんだよ。だから大人しくしてくれ…落ちるぞ?」
シロマが大人しくなったことを確認すると、サティが説明を始める。
「暫くは俺が身体を動かすからな?朝まで時間もあるし、ゆっくり覚えよう。
まずはこの浮遊能力は、この通り少しだけ浮くことができる。このままでもゆっくりなら動けるよ。コツは…自分の身体が軽くなって浮き上がってくイメージを強く持つことかな。
イメージ次第で能力発動までの時間を短縮できるから、今の浮いてる状態を覚えておくといいよ。」
シロマはサティが言っている通り、浮いている感覚を覚えようとしていたが、なんとなく出来る気がしていた。
「なぁ…多分オレ、これできる。」
「え?早くないか?…ま、まぁ…それならやってみようか…」
サティは屋根に着地すると、シロマに身体を明け渡す。
「…っと、えーっと…浮遊!」
シロマの身体はサティの時よりはゆっくりだが、確実に浮かび上がる。
「お〜、浮いた浮いた、ほらね?」
「まじか…浮遊って下級能力だけど、ここまで早く使えるように出来るもんかね…」
フワフワと浮かぶことをシロマが楽しんでいるなか、サティは別のことを考えていた。
『(シロマ、その浮遊状態で移動能力を使ってみよう、移動って唱えれば使えると思うぜ。
風に押されて動く感じをイメージすると、発動しやすいかな。)』
急に思念会話に切り替えたサティに少し戸惑いながら、シロマは言われた通りに移動能力を使用する。
「こうか?…移動!」
浮いているだけだったシロマの身体が、スーッと後ろに流れる。
「お?お?動いた、動いてるよな?な?」
シロマはフワフワと漂うように動いていたが、少しづつ速度が上がっていく。
『(すげ〜な…本当にできちまってるよ…これ、もしかしたら飛行も使えるんじゃないか?)』
歩くよりは遅い速度で、フワフワと空中を動いていたシロマだったが、サティの言葉でピタリと止まる。
「そう?じゃあ、やってみよう。」
シロマは屋根に降りると、勘で能力を発動させる。
「えっと…飛行!…ん?…何も起きにゃ!!」
シロマの足元に空気の揺らぎが現れたかと思うと、能力の発動まで時間はかかったが、高速で空へと飛び上がっていく。
「…ひゃ〜っは〜〜!!飛べた!飛べたよ〜!!」
シロマは叫びながら、先程までとは比べ物にならない速度で空中を飛んでいた。
「すげーな!いや、マジでお前すげーよ!飛行は固有能力だぜ?よし、他にも色々やってみようぜ!ここじゃ誰に見られるか分かんねーし、バジュラの森でやろう!なんか楽しくなってきた!」
サティはシロマに、街の外に飛んでいくように指示すると、朝日が昇るまでの数時間、自分の使える能力を面白がってどんどん教えていった。
………
そして朝、マーヤやクリスが起き出す前に部屋に戻ったシロマは、布団の中には入らずに、ベットの端っこに座る。
マーヤと同じ布団に入るのは抵抗があったようで、起きるまで寝顔を見て過ごすことになった。
「寝る必要が無いのも、良し悪しだよな…」
シロマが腕組みをして唸っていると、ドアを叩く音と共にクリスが部屋に入ってくる。
「おぉ、お前さんは早起きじゃの。
…マーヤは…まだ寝とるのか…朝じゃぞ!起きんか!」
「ふきゃ!」
クリスは杖の先でマーヤの布団を剥ぎ取ると、そのまま杖で頭を叩く。
布団を剥ぎ取られた際、シロマは巻き込まれて転がり落ちかけたが、咄嗟に能力を使うことで落ちることを避ける。
「…ん?もう飛べるんじゃな」
シロマは、「しまった」と思ったが既に遅く、落ちることを避けるために浮遊を使っていた。
「あ、はい…」
いまだにマーヤは枕に顔を埋めて悶えていたが、クリスが杖を床に強めに突き立てると、その音で跳ね起きる。
「お、おはようござ、おはようございます、師匠!」
「ん、おはよう、そろそろ自分で起きるようになろうの。」
クリスが喋りながら部屋を出て行くなか、マーヤはまだ眠いのか、目を擦っていた。
クリスが出て行く際、扉を閉めなかったため、階下に降りていく足音が聞こえ、やがて聞こえなくなると、まだ眠そうなマーヤがシロマに話しかけた。
「シロマ…明日から朝起こして…」
まだ寝ぼけているマーヤが、シロマが浮いていることに気がつくのは、もう少しだけに後になるのだった。
次回はラドル達がメインになる予定で、現在書いています。
見てくれた皆様、ありがとうございました。
皆様、良いお年を!