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第11話 証紋ー繋がる感覚ー

マーヤは店の前まで戻ると、静かに店内を伺う。

店のカウンターにはパイプを燻らすクリスが居たが、何かの本を読んでいるようで、窓から覗いているマーヤに気がついた様子は見えなかった。

マーヤはそのままゆっくりと窓から離れ、店の裏口に回ろうとするが、通りを走ってきた人にぶつかり、軽く悲鳴を上げてしまう。

幸いなのか、相手もマーヤと同じくらいの大きさだったため、吹き飛ばされることもなく、その場に尻もちをつく位で済んだ。


「おっと…すまねぇ、急いでいたんだ、怪我はないかい?」


走ってきた男は、マーヤに謝ると手を伸ばす。


「あ、だ、大丈夫です。」


「そうかい?それは良かった、あぁ良かったとも。」


男は、マーヤを起き上がらせると、よほど急いでいたのか、再び走り始める。


「すまねぇが急いでいるんだ、行かせてもらうぜ?あぁ行かせてもらうとも…」


言い終わるより早く駆け出していた男は、直ぐにマーヤから見えなくなった。


「は〜…ビックリした〜…」


「いや、ビックリしたのはこっちもだからな!」


「え?どこか痛い?どこ?」


マーヤはシロマをクルクルと回しながら確認するが、解れも破れもない事が分かりホッとする。

シロマは回されてる間、奇声を上げていたが、抵抗虚しくされるがままだった。


「良かった〜、どこも怪我してないね!」


「よ…よくな…うぇ…良くない…頼むから、急に動かさないで…くれ…そう簡単に怪我しないし、痛けりゃ言うから…」


シロマはまだ世界が回ってるように感じ、気持ちが悪くなりながらも、なんとか意思を伝える。


「誰じゃ!店の前でさわ…おや?マーヤ、見物はもう良いのか?もっとかかると思っておったが…」


シロマの奇声が聞こえたのか、それとも話し声が聞こえたのか、クリスが店から出てきて声をかける。


「た、ただいま戻りました〜…」


マーヤは話しかけられて驚いたのか、少し狼狽えた様子で一歩下がる。

クリスはそんな様子に、何かを察したのか、ため息とともに呟く。


「まったく…そそっかしい奴じゃ…二階の物入れに入っておるものなら、好きなものを使うが良い。」


「ありがとうございます。師匠!」


クリスは、やれやれといった様子で首を振ると、店に戻って行き、マーヤもそれに続いて店に入る。


「(教えてサティ。クリスとマーヤはなんの話をしてたんだ?なんかざわつくんだよ…)」


店内に入る直前、直感的に何かを感じ取ったシロマは、体内に潜む悪魔サティに問いかける。


『(正確なことは言えないけど、証紋タグのことじゃないかな?)』


「(タグ?それはなんなの?なんか嫌な響きなんだけど…)」


シロマが不安げに問うと、サティが教えてくれる。


『(証紋タグは、一種の契約道具だけど、俺も実物は見たことないな。聞いた話だと首輪らしいけどね。)』


「(首輪?…そんなのつけたくないな…契約道具ってことは、パペッターの契約みたいに制約とか出てくるんじゃないの?)」


『(効果としては、魔人形使役者パペットマスター魔人形パペッター魔力マナや感覚を共有出来るようになったり、離れても会話が出来るようになるから、お互いの存在を今より強く認識出来るみたいだね。

そういう意味での制約だから、むしろ出来ることは増えるんじゃないかな?)』


サティが説明している間に、マーヤは店の二階、前に魔化の儀を行った書斎に着く。

机にシロマを座らせると、「ちょっと待ってて」と言い残し、窓際に置いてある木製の宝箱の様なものに近づき、中を覗き込み何かを探し始めた。


「(ふーん…魔力マナの共有ってことは、オレも魔法とかが使えるようになるのか…でも首輪だったら嫌なのは変わらないな…)」


『(いや、君の魔力マナ自体はあの子より多いよ?…それに俺がいるんだぜ?魔法くらいなら多分使えるよ。もしかして、気がついてない?)』


シロマはクリスが言っていた「潜在的に魔力マナを持つ」という言葉を思い出したが、それよりもマーヤより多いと言われたことに驚く。


「(それ本当?だったら…)」


そこでマーヤが声を上げたため、シロマの思考は遮られる。


「あったー!これなら絶対似合うよ!

ごめんね、アルガリの実を食べても味がしないって言ってた時に思い出せば良かったんだけど…」


マーヤが手に持っていたのは、紐状のもので、ぱっと見何なのかシロマには分からなかった。


「それは?」


「これは特別な作り方で作られた革ベルトなんだ、証紋タグって言う物でさ、これを付ければ私の感覚を少し共有できるようになるから、食べ物の味も分かるようになるよ。」


シロマには良い提案に思えたが、少しの不安を口にする。


「…味がわかる様になるのは嬉しいんだけど、それは何処に付けるものなの?」


「大体は首に巻いてる、かな?師匠とマリーさんも付けてるよ?」


やはり首輪だったことに、シロマは少し嫌な気持ちになるが、食べ物の味が分かるようになるのは魅力的だった。


『(迷ってんのか?首輪が嫌ならこう言えばいいよ…)』


「えっと…友達に首輪はないんじゃない…かな?

えーっと…フリードに首輪は、渡さないだろ?」


マーヤは指摘されたことに驚くが、その指摘が納得できたのか、自分の手に持っていた証紋タグを見る。


「そういえばそうだね…どうしようかな…」


「えっと…タグってのは、腕に付けるんじゃダメなのかな?」


サティに言われたまま、シロマが喋る。


「なぁ…別に首に付けなきゃいけないルールは、無いんだよな?」


「え?…そっか、腕に巻けば良いんだ、それなら友達同士でも不自然じゃないよね?

そうだよ、シロマに言われるまで気がつかなかったよ。」


マーヤは何度か頷き、少し長い方を自分の右手首に巻きつける。

留め金も装飾もなかった無地の革ベルトは、巻きつけた途端、白く変色し、マーヤの手首にぴたりと止まると、チリンと鈴の様な音を立て、ハート形のチャームが出現する。


「はい、シロマも付けてね!」


既にマーヤが付けてしまったため、選択権は無くなったシロマは、革ベルトを受け取ると、左手首に巻いた。


『(因みにだけど、付けると余程のことがないと外れないから気をつけて…な?)』


シロマが革ベルトを巻いた後で、サティが言葉をかけるが、既に付けてしまった後なので気をつけようが無かった。

シロマは心の中で「もう少し早く言ってくれ」と思いながら、ため息を吐いた。


シロマの革ベルトは、青白い輝きを放つ金属の様な腕輪に変わると、マーヤの物と同じく手首にぴたりと止まり、外周に四つの赤い球が音もなく浮き上がってきた。


「へぇ〜…そんな風になるの初めて見たよ、なんかカッコいいね!」


「そう?なんか手首の違和感が凄いんだけど…」


マーヤが珍しい物を見る様に、シロマの証紋タグを見ていたが、付けた本人は、手首に一体化した様な腕輪に違和感があるのか、逆の手で触っていた。


「とりあえずは、味覚だけ共有してみよっか。…えっと…あった!これ食べてみて。」


マーヤは腰のポーチを探り、小さな種みたいなものを取り出すとシロマに渡す。

シロマはそれを受け取ると、恐る恐る口に運ぶ。


「!!!甘!なにこれ、甘!」


「上手くいったみたいで良かった、それはアルガリの実を干した奴なんだよ。」


シロマはこの世界に来てから初めての甘さ、味の感覚に、感動したのか驚いたのか、甘い甘いと連呼しながら、口元が緩むのを押さえきれず、うっすらと涙まで浮かべていた。


「ごめんね、そんなに喜んで貰えるなら、もっと早く証紋タグを付けてあげれば良かったね。」


マーヤは喜ぶシロマの頭を撫でながら、証紋タグの説明を続けた。


証紋タグには幾つかの機能が備わっている。

第一に感覚の共有、これは味覚や視覚等の感覚器官を共有することでお互いの足りない部分を補うことができるようになるが、共有出来るのはお互いが望んだ感覚のみになる。

第二に魔力マナの共有、これはお互いの魔力マナを相互に使用可能になる為、両者の魔力マナが尽きるまで魔法の類が使い放題になるが、最大量が増えるわけではないので、強力な魔法がいきなり撃てるようになるわけではない。

第三に通信機としての役目、かなりの距離でも通信が可能なため、都市間通信にも使われている。


また、他にもマーヤも知らない機能があるようだが、現時点では説明はしないでおこう。

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