表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/34

第10話 無知ー注意と怒りー

「ご馳走様でした。ありがとね。」


マーヤは店を出てすぐにフリードに礼を言う。


「お祝いだからお礼はいいって」


フリードは照れたようにほおを掻くと、胸元から時計を取り出す。


「まだ昼の閉門まで時間もあるし、僕はバジュラの森で少し運動することにするかな、マーヤはどうする?」


マーヤは少しだけ考えた後、シロマを見てからフリードに応える。


「今日は止めとく、まだシロマに街の案内しきれてないし…」


「なぁ、バジュラの森って、外の大森林だろ?さっきの話だと危ないんじゃなかった?フリードは一人で大丈夫なのか?」


「ちょ!シロマ!」


マーヤがなぜか止めようとしたが、既に言い終わっていた。

フリードはシロマを見て、それが自分を心配しての発言で、他意はないことを感じとると、笑顔で返す。


「まぁ…奥に行けば僕でも危ないけど、そんなに奥まで行く気ないから心配いらないよ。」


フリードはシロマの頭を撫でながら続けて話す。


「それと、僕だから良かったけど、そういう事はあまり言わないほうがいいかな。」


シロマは何を言われたのか分からず首をかしげる。


「あー、この街でバジュラの森に入るのを怖がるのは小さな子供位でさ、あんに臆病者って言ってる事になるんだよね。」


「まじか!それはわる…」


フリードは苦笑混じりで話し、自分の発言が失礼なことだと気が付いたシロマは謝ろうとするが、フリードに頭を強めに撫でられ、言葉をそれ以上出すことができなかった。

フリードはいつもの笑顔に戻ると、心配そうにしていたマーヤの頭も一度撫でる。


「いいって。他意がないのは分かってるからさ。ただ、他の人だと喧嘩の元になるから注意しないとね。

マーヤも、そんな心配そうな顔しないでいいよ。じゃ、またね。」


フリードは帽子をかぶりなおすと、二人からゆっくり離れていく。

通りには多くの人がいたため、その姿はすぐに見えなくなった。


「またねー…もう!ヒヤヒヤしたよ!」


フリードが人混みに消えるまで、手を振っていたマーヤだったが、姿が見えなくなるとフリードと同じくシロマの頭を強めに撫でる。


「悪かったってば、知らなかったんだから仕方ないだろー…」


悪いと思っているのか、シロマは抵抗することはなかった。

暫く撫でていたマーヤだったが、満足したのかシロマを抱くように持ち変える。


「次からは気をつけてよ?」


シロマは頭の毛がわしゃっとなったのを気にして直していたが、そのまま少し考えるように唸る。


「んー…知らなきゃ気のつけようがないよ…バジュラの森って危ないって言ってたし…てか、他には知らないと怒られたりすること無い?」


マーヤは考える素振りを見せるが、すぐに何かを思い出したようで、目に見えて動揺したようだった。


「あ…じゃ、じゃあ戻ろうか。ね、そうしよう。」


「あるのかよ…」


腕の中で項垂れるシロマに、心の中でごめんと囁き、マーヤは歩き始めた。



………



昼時の大衆食堂は、多くの客で賑わっていた。そんな食堂の一角、硬そうなパンと肉を焼いたものが乗った皿が並ぶ机に、既に空になった木のコップが叩きつけられる。


「だー!腹がたつ!あの犬野郎!」


「もう忘れろよラドル…ほら酒が足りてないんだよ、親父!おかわりー!」


少し前にマーヤにぶつかった男ラドルは、皿の肉を手づかみで持ち上げ口に運び、くちゃくちゃと音を立てながら食べる。


「ケケケ…まーラドルの気持ちもわからない訳じゃないが、犬相手じゃ正直分が悪いってものさ、あぁ仕方ないさ。

それより、これ…俺たちは参加するのか?」


小柄の男が一枚の紙を机に出しながら聞くと、ラドルは注ぎ足された飲み物を一気に煽り、口の中の物を飲み下すと、一息ついてから話し始める。


人喰砦オーガフォートの探索依頼だろ?どうしたものかね…報酬は悪くないが、どうも気乗りしなくてな…」


ラドルは机の紙を持ち上げるが、言葉は歯切れ悪く、質問した小柄な男だけでなく、机を囲む他の3人も飲みかけのコップを手にラドルの言葉を待っていた。


「おいおい、俺だけで決めろってのか?レグランはどうなんだよ?」


小柄の男は咳払いをすると、立ち上がりオーバーなアクションで話し始める。


「ケケケ、俺に聞くかい?なら、旨味しか見えない案件だし、俺なら絶対受ける、あぁ受けるしかないね!ローレンスの旦那もそう思うだろ?」


ローレンスと呼ばれた男性は、伸ばした顎鬚をさすりながら答える。


「儂はどんな依頼でも、受けた依頼を全うする、今回の依頼もラドルが受けると決めたなら従うだけ…ルカーナも同じじゃろう?」


ルカーナは目元をバンダナで隠しており表情は伺えないが、肯定するようにゆっくり頷く。


「そうかい、リゾルはどう思うよ?」


中肉中背、特徴がないのが特徴のような男は、頭を掻きながら答える。


「そうですねい…まぁ良いんでないですか?割は良いですし、あの迷宮ダンジョンが危険だったのは何年も前のことですしね」


リゾルが言うように、人喰砦オーガフォート迷宮ダンジョンが攻略されたのは8年も前のことで、現在は探索隊を定期的に送り、復活の兆しがないか調査しているだけの枯れた迷宮ダンジョンだった。

しかし、今回の依頼は例年よりも多くの人員と予算をかけたものらしく、報酬もそれなりに高くなっていた。


「わーったよ…既に攻略済みの迷宮ダンジョンだしな、心配し過ぎて動かないってのは俺ららしく無い……ってな!」


ラドルはそう言うと、持っていたコップを上に掲げる。

他の4人も遅れてコップを掲げた。


「そうと決まれば早いほうが良い、レグラン!手続きは任せたぞ!」


「俺かよ!?…ケケケ、言い出しっぺだから行ってくるよ、あぁ行ってくるさ!」


レグランは言い終わらないうちに立ち上がり、店の出口に向かう。


「あ、あいつ金出して無いだろ!」


ラドルが気付いた時には、レグランの姿は店の中に無かった。


「これはラドルが金を出すしか無いのう。」


「くっそ!出しゃいいんだろ!出しゃ!」


ローレンスはニヤリと笑い、リゾルとルカーナに話す。


「ここはラドルの奢りだとさ!どんどん飲もうや!」


「旦那の奢りなら、こりゃ飲むしか無いねい!」


ルカーナも無言で頷いていた。


「お前ら…あーもう!親父、酒が足りねー!どんどん持ってこい!」


半ばヤケクソにラドルは叫んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ