王都の冒険者2
王城の喧騒が背後に聞こえる。
常人には突破できない城壁も、ミツルギには段差程度の効果しかない。
ミツルギは街灯の設置されている大通りを避けて路地に入った。
空が明るいせいか、そこまで暗くはない。
わずかに負った矢傷をみると、『犠牲は払わぬ』魔法を発動した。
じくじくとした痛みとともに傷が塞がってゆく。
体が泥のように重かった。
「これでは壊せない……休まねば……」
ミツルギは呟いた。
誰に聞かせようというのだろうか?
体よりも、精神が疲弊していた。
ミツルギの意識は睡眠を欲している。
ふかふかのベッド!
やわらかいマクラ!
だがそういったものはここにない。
暗く汚い路地裏である。
「イヨ……」
ミツルギは知らず呻いた。
彼女は温かく、そしてやわらかかった。
それも失われた。
この世界が奪ったのだ。ミツルギの思考は濁っていく。
「許さん……絶対に許さん……」
ミツルギの瞳に憎悪が燃える。
ズルズルと闇を引きずりながら、ミツルギは路地の暗闇に消えていった。
「おいおいおい!」
レスターはクランホールで報告を聞いていた。
「冗談じゃねぇぞ!」
簡単に報告をまとめた紙束で机を叩く。
王城は炎上、騎士団は壊滅し、王剣は姿が見えない。おそらくは全滅。王族をはじめ、城仕えはことごとく死亡。
それが、レスターのクランが集めた情報だった。
極短時間でこれだけの情報を集められる組織は王都には他にない。
恐ろしく有能な組織なのだ。
しかし、その構成員は今、大男の前で縮こまっている。
「こんな報告を信じろってんのか? あ?」
レスターは不幸にも正面に居た男に凄む。
男はぶるぶると震えだした。
「へ、へい……。事実らしいです……」
恐怖していても、報告は通す。
彼は有能である。
「くそっ! やべぇ……やべぇなんてもんじゃねぇぞ……」
レスターはぶつぶつと呟いて、指で机を叩いている。
「どうしやしょう……」
豪胆か!
正面に居た男は震えながらもレスターに問いかけた。
「……戦闘準備を整えろ」
レスターは唸った。
「急げ! 王都が火の海に沈むぞ!」
レスターの指示を受けた男達はすぐに従った。
冒険者ギルドから連絡が入ったのは、準備の整った頃だった。