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王都の冒険者1


 ガタガタとうるさい音を立てて、立て付けの悪い木戸が揺れている。

 誰かが戸を叩いているのだ。

 それにしても叩きすぎである。


「……チッ。何時だと思ってやがる」


 深夜!


 だが、それにしては窓から見える空は妙に明るい。

 男は身を起こすと戸を開けた。


「一体なんだってんだ?」


 男は剣呑に言った。

 戸を叩いていた男は冷や汗をかきながら言う。


「レスターの旦那、一大事でさぁ!」

「ったりめぇだろうが! しょうもないことで起こしたんだったらただじゃおかねぇ……。何があったか言え」


 レスターは筋骨隆々の男だ。彼が剣呑に怒鳴れば怖い。


「す、すんません。お、王城が、王城が燃えてるんで……」


 レスターに睨まれた男はどもりながら返した。


「王城?」


 レスターは空を見上げた。

 たしかに、夜にしては明るい。

 王城の方から朝日が昇っているような錯覚を受けた。


「かがり火って規模じゃねぇな……」


 レスターは呟いた。


「へ、へい。それが、何でも王剣同士が殺しあったってぇ話で……」

「王剣だと!?」


 レスターはすっかり縮こまっている男に向き直った。


「帝国が攻めてきやがったのか!」

「いえ、それがどうも違うようで……」


 男はもごもごと言った。


「はっきりしねぇか!」


 レスターは咆える。怖い。


「ひ、ひぃ。す、すんません、詳しくはまだ……」

「チッ……」


 レスターはタンを地面に吐いた。

 それを汚いと指摘するものはいない。残念なことである。


「騎士団の方はどうなってる?」

「団長からの召集がかけられてるらしいです……」


 男はぶるぶると震えながら言った。地面のタンに自分の未来を重ねて見ている。


「何が起きてやがる……」


 レスターはひとりごちた。

 顎に手を当てて、目を細めると、しばし思案する。


「クランに召集をかけろ。もしかしたらやべぇ事態になってるかもしれねぇ」


 クランとは冒険者によって組織されるチームを更に束ねたような組織である。


「へ、へい!」


 男は小走りに去った。

 レスターはそれを見送ると、ベッドのそばに置いていた剣を掴む。


 コットンシープ社製の最新作だ。

 コストの問題で騎士団の兵装にはなっていないが、その性能は折り紙つきである。


 レスターはもう一度空を見上げると、夜の闇に躍り出た。

 耳を澄ませば、遠くから悲鳴と怒声が聞こえてくる。


「チッ……なんだってこんな時期に……」


 レスターの呟きは闇に吸い込まれて消えた。




 レスターが行動を開始したころ、王都の中心街道に面する冒険者ギルドでは蜂の巣を突いたような事態になっていた。

 深夜だというのに、ギルドのエントランスホールから中央受付は人でごった返している。


「王城との連絡はどうした!」

「まだ繋がりません!」

「火消しは何人必要になりそうですか!」

「全員だよ! 全員召集しろ!」

「連絡員は!」

「帰ってきません!」

「北の魔獣が動き出したと報告が!」

「冒険者はどうした!」

「少女がスラムで行方不明になったと……」


 大混乱である。

 職務を終えて帰宅していた職員も、着の身着のまま出勤してきているようだ。

 ところどころにかわいいパジャマの受付嬢がいる。


「ギルド長!」


 階段に、一人の女が現れた。グランド王国冒険者ギルドを束ねるミスレイである。

 彼女はパジャマではない。戦闘用の装備を身につけている。


「王城はダメだ。見える範囲だけで数十人は死んでる」


 ミスレイは自分を呼んだギルド受付に向かって言った。


「そんな……」


 ミスレイは魔法保有者(スキルホルダー)だ。

 その魔法(スキル)は『千里眼』。

 遠く離れた場所を見ることが出来るという、効果だけ聞くと微妙なものだが、現状を把握するのには役に立っている。


「騎士団はどうなりました?」


 温和そうな男が、メガネをくいっとあげながらミスレイにたずねた。


「壊滅しているな。そろそろ全滅するかも知れん」

「そ、そんな……。冗談ですよね?」


 ショックを受けた受付嬢が声をあげた。

 ミスレイは頭を横に振った。


 いまやギルドホールは静寂に包まれている。


「どうします?」


 メガネの男がミスレイに聞いた。


「全クランと冒険者に召集をかけろ。王城に関しては我々は関与しない。我々は全力で魔獣に対抗する! 王都の命運は我々に掛かっているぞ!」


 ミスレイは鋭く言い放った。

 わずかに、ギルド内の雰囲気が引き締まる。


「召集だ! 王都に滞在中の冒険者をリスト化しろ!」

「王都のクランはこれで全部です!」

「連絡を入れろ!」


 ギルドは再び騒がしくなっていた。

 しかし、先ほどまでの混乱はない。

 ミスレイの指揮の元、王都最大の巨大な組織が動き始めていた。



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