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王城崩壊4


 スレイブ老人は王剣保管室にたどり着いた。

 いまや、王城の中は血に満ちている。

 幾重にも張り巡らされた防衛機構が内側から食い破られているのだ。


 彼がここまでたどり着けたのは奇跡に近かった。


「貴様ら! 仕事だ!」


 老人はしわがれた声を上げた。

 鎖で繋がれた王剣達が、光を失った目で老人を見た。

 手の中では既に録音の魔具が起動している。


「【ミツルギを殺せ】」


 王命が放たれた。

 同時に、鎖が放たれる。


 王剣は鞘から放たれたのだ。


 七人の王剣達は、何事かを呻きながら武装を整えていく。


「まだ足りないのか……」

「殺せ……殺せ……」

「神よ、何故……」

「うへ、うへへへ……」

「どうせ無駄だ……すべて無駄だ……」

「……」


 スレイブ老人は王剣達を一瞥すると、すぐさま立ち去ろうとした。


「グガァァァ!!」


 スレイブ老人の左手が、抱えていた魔具ごと斬り飛ばされた。

 続いて突き。


 激しい破砕音とともに、録音の魔具は砕け散った。

 刀が怪しく光る。


 ミツルギだ。

 地下室に現れたときとは印象が違う。


「き、貴様ァァ!!」


 スレイブ老人は激昂(げっこう)した。

 しかし、ミツルギ、これを無視!


 その目はすでに老人への興味を失っている!


 一瞬の後、スレイブ老人の胴が分断された!

 目にも止まらぬ早業。

 人間の動きではない!


 息絶えた老人に用はないとばかりに、ミツルギは死骸を蹴飛ばした。

 室内を覗く。


 七人の王剣は、唖然としてミツルギを見返した。

 沈黙。

 しかし、それは一瞬だった。


「『王剣』か?」


 ミツルギが言った。

 死した老体を蹴り飛ばした人物とは思えぬ穏やかな声だった。目に宿っていた憎悪の炎がやわらいでいる。


 何故、と問う必要はなかった。

 ミツルギの外見も、王剣達の外見も、皆似通っている。一目で、異世界人だと分かるのだ。


「そうだ。ずいぶん若いが、あんたがミツルギか?」


 わずかに光を取り戻した目で、王剣の一人が言った。


「……そうだ」


 やや怪訝そうにミツルギが答える。


「そうか、王命を受けてしまった。殺すしかない」

「仕方ない。死ぬがいい」


 八人は構えた。


「ミズノだ」


 王剣の一人が名乗った。

 冥土の土産である。


「……ハラヤマ」

「フジモト」

「アカリザワよ」

「キリュウ!」

「サカイ」

「ヤシロじゃ」


 王剣達は次々と名乗る。

 交流は終わった。


 閃光。

 ミツルギの抜刀術が正面に居たミズノを斬り裂いた。


「ぶふっ……」


 ミズノが血を吐いて倒れ掛かる。

 その体が床にたどり着くその前、フジモトとハラヤマが斬られた。


 ミズノを斬ったミツルギはすぐさま『時間停止』を発動、フジモトに迫り『時間停止』を解除、『瞬間動作』で斬る。ハラヤマも同様に斬られたのだ。


 圧倒的速度!

 圧倒的斬撃!


 ミツルギの魔法(スキル)、『時間停止』と『瞬間動作』の前にはいかなる回避も防御も通じはしない!

 加えて、ミツルギの身体能力は人外だ!


 ほんの一呼吸のうちに王剣が三人殺された。

 残された王剣達の目に確かな光が宿る。しかし、若干の困惑。

 ミツルギの様子に、その姿に違和感を感じたのだ。


「はァ!!」


 気合!

 ヤシロが構えた槍を繰り出した。

 心でどう思っていようとも、王命は絶対である。ミツルギは殺さねばならない。


 ミツルギは紙一重で槍をかわすと、手首の回転だけで槍を斬りつけた。


 ヤシロの槍は廃棄品となった。


 だが、無駄ではない。

 この隙に、キリュウとアカリザワがミツルギに迫っていた。

 その後ろではサカイが魔術を発動している!


 二つの斬撃がミツルギを捉えた。

 片方を刀で、もう一方を鞘で受ける。

 しかし、ミツルギへの攻撃はこれですべてではない!


 ミツルギに火球が激突した。

 サカイの魔術攻撃だ。


 ごうごうと燃える火球!

 しかし、ミツルギは無傷。


 夜色の外套の効果だ。

 魔術は効かぬ!


 サカイの目が歓喜に揺れた。


 ミツルギはキリュウの剣を斬り捨てる。そのままキリュウを一突きにした。

 絶命。


 アカリザワとヤシロは驚愕しつつも攻撃の隙を突く。


 ヤシロは槍を投げ捨てると、懐からナイフを取り出した。


 投擲!

 猛毒のナイフだ。


 ミツルギはこれを鞘で打ち落とした。

 同時、追撃に動いていたアカリザワを斬撃ごと切り伏せる。


「フフッ……」


 アカリザワは笑みを湛えて絶命した。


 跳躍。

 ミツルギはヤシロの頭上を、天井すれすれに跳んだ。

 通り抜けざま、ヤシロの首を狙う。


「見事!」


 ヤシロの首が跳んだ。


 サカイの目の前に着地したミツルギは、しかし、刀を鞘へと戻す。

 抜刀術で終わらせる腹積もりだ。


「《氷結牢獄》」


 サカイは自身の最強の魔術を発動した。

 『魔術の頂点』魔法(スキル)によるオリジナル魔術だ!


 一瞬で相手は氷の牢獄に閉じ込められる。

 寒い。


 だが、どのような強者も、どのような技も、零時間で到達する攻撃にはなすすべがない。


 ミツルギの『時間停止』魔法(スキル)だ。

 氷がミツルギを覆い尽くすその直前、必殺の抜刀術が放たれていた。


 一閃!


 常人には決して追いつけない速度で、刀が振り抜かれる。

 サカイは崩れ落ちた。同時、氷結牢獄も崩れ落ちる。


 ミツルギは独り、血にぬれた部屋に取り残されていた。


 その姿はしかし、どこかおかしい。

 肌はつややかに、身長はわずかに縮んでいる。


 まるで血を吸って若返る悪魔めいている。


 そして実際に若返っている!

 だが、彼が吸血鬼と化してしまったわけではない。


 『時間停止』魔法(スキル)の反動である。

 停止時間一秒につき、ミツルギは一歳若返るのだ。


 身も心も変わり果ててしまったミツルギは、血の海を一瞥するとふらふらと歩き出した。


 目には再び憎悪が宿り、何かをぶつぶつと呟いている。


「すべてを……すべてを壊しつくせ……だが、グググ……」


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