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悪魔の赤い月4

 ミツルギは荒野に佇んでいた。

 足元に、魔獣が伏している。


 魔獣は岩でできていた。岩の体を持った熊のように、ミツルギには見えた。ただ、蛇ような長い尻尾が、たんなる熊ではなく、魔獣らしさをミツルギに感じさせた。


 血のにおいが、周囲に立ち込めている。

 魔獣は死んでいた。

 胴を斬られたらしい。


 ミツルギは、魔獣の死と、そしてあたり一面に残された痕跡を確かめた。


 魔獣の死体、血、そして人の足跡。馬車の跡だ。


 誰かが、ここで魔獣と戦闘をした。

 しかも、その戦闘能力は人間を超越している。


 魔法保有者(スキルホルダー)が、ここに居た証拠だ。


 『察知』を発動する。

 ミツルギからそう遠くない位置に、人間の集団が居た。


 おそらく、そこには王剣が居る。

 ミツルギは空を見上げた。


 夜空に赤い月が浮かんでいた。赤々とした月は、どこか悪魔めいていて、ミツルギは思わずニヤリと笑った。


 ミツルギは荒野を駆け出した。


 夜色の外套が、赤い夜に紛れ込む。

 この外套は、夜だ。

 夜そのものの色をしている。


 赤い夜にも、青い夜にも、すっかり溶け込んでミツルギを守ってくれる。


 ミツルギは馬車の集団を発見した。

 見覚えのある、牢屋馬車と、豪奢な馬車、粗末な馬車……。

 護衛らしき人影は、二十人ほどか。


 遠くから、ミツルギは観察する。

 正面から斬りかかっても、何の問題もない。


 ミツルギは抜刀した。

 光さえ切り払う、ミツルギの黒刀。夜に紛れる片刃の長剣だ。


 ゆらり、とミツルギは歩む。


 護衛の、もっとも外側に居た男が、ミツルギに気づいた。

 だが、声を上げない。

 ゆっくりと、ミツルギに近づいてくる。


 ミツルギは立ち止まった。

 どうにもおかしい、と思ったのだ。


「俺はトオノという」


 男は、ミツルギの剣が届かないぎりぎりの距離までくると、そう名乗った。トオノは、黒髪黒目だった。異世界人だ。


「お前が『魔剣(ミツルギ)』か?」


 男の声はわずかに震えているようだった。

 歓喜の震えだと、ミツルギにはわかった。


「そうだ。お前は『王剣』だな?」


 この男も、サカノウエと同じだった。

 死にたがっている。


 ミツルギは、トオノがうなずくのを見た。


「死ぬがよい」


 せめてもの慈悲だ。


 ミツルギは夜に紛れる刀を振るった。

 瞬きする間さえなく、距離をつめての斬撃。


 トオノの頭は宙を舞った。

 もう、なにも感じることはない。苦しみは終わった。


「て、敵襲ー!!」


 トオノの首が飛ぶのを見ていたらしい衛兵がそう叫ぶのが聞こえた。


 狩りの時間だ。


 ミツルギには、誰一人生かすつもりはなかった。

 

 


悪魔の赤い月―終―

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