悪魔の赤い月3
あれから、何年経っただろうか。
トオノはいつも思い出していた。王剣保管室で、独りでいるときは特に。
先週も、狩りが行われた。
トオノはいつも、先頭に立つ。
後衛と距離を開けて、貴族の居る本隊を守れない位置取りをしている。
先頭に立っているのだから、文句も言われない。
だが、本隊を襲撃して抵抗する村はなかった。
正面から正々堂々と戦うのが、獣の耳を持つ者たちの流儀なのかもしれなかった。
トオノはそれでも、自分が本隊にいるよりは、貴族を死なせやすいことがわかっていた。
誰か殺してくれないか。
誰か死なせてくれないか。
トオノはいつも、そう思っている。
自殺もできない、王剣の願いだった。
「殺されるかもしれない」
トオノは、そう言われて、顔を上げた。
ずいぶん、久しぶりに見る顔だった。
「アサツキか……」
トオノの目の前には、茶色の外套を着込んだ女が居た。
グランド王国で、ミツルギを見ていた女だ。
「あら、まだ話せたのね」
アサツキはくすりと笑った。
トオノは訝しんだ。
「笑えたのか」
アサツキは、首をすくめた。
「殺されるかもしれないわ」
トオノはますます訝しんだ。ついに気が狂ったのかと思ったのだ。
「あはは、あなたって、そんな顔もするのね」
アサツキは、そういって笑った。声が大きい。
トオノはあわてて周囲を確認した。
王剣の保管室には他に人影はなかった。
「大丈夫よ。誰も居ないわ」
アサツキは真剣な表情で言った。
「グランド王国で魔剣が生まれたわ」
「なんだと……!」
トオノは目を見開いて言った。これほどの衝撃を受けるのは久しぶりのことだった。
「名前はミツルギ。十数個の魔法に、信じられない魔法具も二つ持っていたわ」
アサツキは、見てきたことを話す。
「……グランド王国の王城は一夜にして火の海に沈んだわ。すごかった……」
「……そうか」
トオノは答えた。
ついに、このときが来たと、トオノは思った。
何度か耳にしたことのある、眉唾な噂話。
王剣を狩る王剣、魔剣が生まれるという予言の噂話。
「サカノウエさんが、死んだわ。ミツルギさんに殺されたみたい」
「噂は本当だったのか……」
トオノは誰に言うでもなくつぶやいた。
その声は震えていた。
全力で抗っても勝てない相手。そんな相手が敵に居る。これほどうれしいことはない。
「ミツルギさんは、ここに近づいているはずよ」
アサツキは、トオノを見て、そう言った。
「そうか……。狩りの時間だな……」
トオノは久しぶりに笑った。
ニンマリとした笑みだった。
トオノは死ぬときに、自ら以外にも獲物を用意しようと思っていた。
醜い狩人たちが狩られる日が来たのだ。




