猫耳と隷従3
カフェと分かれたミツルギは、街道をしばらく進んで、適当なところで荒野に逸れた。
そろそろフルメン帝国に入るはずだからである。
さすがに、国境を素通りできるとは、ミツルギも思っていなかった。
もちろん、ミツルギだから通れないのだが、魔獣の返り血を浴びまくっている男など、誰でも通さないだろう。こっそり通り抜けるとか、衛兵の怠慢に期待するのは難しかった。
カフェから教えられた情報によると、グランド王国とフルメン帝国の国境は街道を挟んで森と荒野が広がっており、国境線はけっこう曖昧であるとのことだった。地面に線は曳かれていないし、結界のようなものもないらしかった。
森側ではなく、荒野側で国境を突破しようとしているのは、そちらのほうが警備が手薄だとカフェの情報をあてにしてのことだ。
そして、それだけが理由ではない。
食料の問題がある程度解決したミツルギは、次の問題と向き合わねばならなかった。
ミツルギはいくつかの魔法が使えなくなっていた。活用頻度の高かったものでは、『空間把握』と『天翔』が使えない。
グランド王国を離れたせいなのか、それとも、グランド王国での復讐を終えてしまったからなのか、原因はよくわからないものの、使えないのは事実だった。
遮蔽物の多い森は、『空間把握』を使っていれば絶対的に有利となる地形でもあった。多少の扱いにくさはあるものの、足元を確認せずとも知覚できるのは有利だった。『天翔』はそもそも地形条件を無視できる。
今、ミツルギにはそれがない。
他にもいくつかの魔法が発動しなくなっている。
代わりに、いくつかの魔法が発動できるようにもなっている。
復讐という目的のためにある力である。ミツルギの力ではないのだ。思い通りにはいかないのも当然なのかもしれなかった。考えてみれば、『アイテム創造』の魔法は最初に発動して以来使えていない。その時点で気がついてもよかったのかもしれなかった。
ミツルギは、自分の保有している魔法をいくつかに分類することにした。
一度しか使えないもの、なんらかの条件を持つもの、条件がないらしいもの、の三つだ。
一度しか使えなかった『アイテム創造』は、復讐のために、たった一度だけ力を貸してくれたのだと考えれば、納得できた。
『空間把握』や『天翔』などの使えなくなったり、使えるようになったりするものは、復讐のため以外にも特定の場所であるとか、相手であるとかの条件が必要になるのである。元の持ち主にゆかりあるときだけ力を貸してくれるのだと、ミツルギは解釈した。
最後に、特定の条件が今のところないらしい魔法である。『瞬間動作』や『察知』がこれにあたるが、ミツルギとしては不思議な魔法であった。復讐のためという条件さえ、必要ないかもしれない。
ともかく、ミツルギは使える魔法から、森より荒野のほうを選んだのだ。
もっとも、森の魔獣を狩りつくしたから、次は荒野だと思っていないわけでもないが。
決して、カフェに心を許して信じきってしまったわけではなかった。ないはずだ、とミツルギは思っている。
ミツルギが荒野に入ると、『察知』に敵がひっかかった。
何を察知したいかを決めておかなければ発動しないこの魔法は、現在、ミツルギの敵を察知していた。
帝国の国境警備隊である。まだグランド王国内だと思っていたミツルギは、怪訝に思ったが、どうでもよかったので考えるのをやめた。
ひとまず、国境警備隊をどうするか、斬るか、それとも斬るかと考えて、とりあえず姿を見ようとミツルギは判断した。『察知』も万能ではないのだ。確認は大事。
帝国の国境警備隊は、統一された兵装を身にまとって周囲を見回っているようだった。
『察知』によると、四十人ほど居る。
単なる見回りにしては多いような気もするが、ここがグランド王国内であるのなら理由はわからなくもなかった。
先行偵察隊なのだろう。
グランド王国は崩壊しつつあるのだ。隣の帝国が軍を差し向けるのは当然の流れであるのかもしれないと、ミツルギは考えをめぐらせ、放置することにした。
内輪で争うのなら、それはミツルギにとって利益となる。
ミツルギは見つからないように魔法を駆使しつつ兵士たちの監視網を突破することにした。国境を越えるまでに、ミツルギは同じ規模の部隊に三度は遭遇した。カフェの手薄という情報はまったくあてにならなかったわけであるが、ミツルギにとっては問題なかった。
そしてミツルギはフルメン帝国に侵入した。帝国の辺境、その荒野に、ミツルギはやってきた。
帝国の王剣、トオノが守護する辺境領地。奴隷狩りが行われる荒野に、ミツルギはやってきた。
帝国中にミツルギの名が轟くことになる最初の戦いがまもなく始まる。
猫耳と隷従―終―




