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猫耳と隷従2

 ミツルギは森の中を進み始めた。

 食べ物が案外見つからないことに愕然としつつも、そもそもサバイバル能力など皆無の現代っ子にしてはよく生き残っていると、ミツルギは自分をなぐさめる。


 森に潜む魔獣と何度か交戦し、いや、虐殺し、その死体は肉だろうと食べようとしたミツルギは、解体も調理も、自分にはできないことに思い立った。そして問題を解決してくれそうな魔法(スキル)も思いつかなかったのだ。


 そもそも、ミツルギが魔獣を狩るのは食べるためではない。復讐の一環である。


 それにしても、食料の問題は考えていなかった。困った問題だった。他にも問題がないではなかったが、今はより切羽詰った問題をなんとかしなければならなかった。


 ちらり、とミツルギは街道の方向を見た。街道は見えないが、そっちには誰かが通過する道がある。その誰かは食べ物を持っているはずだ。


「……盗賊だな」


 ミツルギは自嘲した。そして街道のほうに歩み始めた。


 街道に出るまでに、それほどの時間は掛からなかった。問題は、誰かがいつ通るのかわからないことだったが、それも街道が見えてくると解決した。


 馬車が数台、行列を作っていた。商隊だ。

 数人の護衛が周囲を警戒しているようだった。御者を合わせても三十人居ない。

 ミツルギは自分の中に殺意が沸いてくるのを感じ取った。おなかも空いていないし、この程度の規模ならミツルギの敵ではない。


 ミツルギの視線の先には、牢を模した馬車があった。檻の乗った馬車である。

 粗末な服を着せられた、獣の耳を持つものたちが詰められている。


 ――奴隷か。


 猫耳女の言っていた、現実が目の前にあった。

 そして食料もたんまりとあった。


 ミツルギが刀に手を伸ばしたそのとき、ミツルギとは別の位置から、何かか飛び出した。

 奇妙な装束の女、猫耳の女が、真昼間から護衛付きの商隊に襲撃をかけたのだ。


 仲間の姿はなく、どうやら独りでしかけたようだった。無謀である。


――なにをやっているんだあいつは……。


 仲間はいないのか、単身での襲撃ならせめて夜襲をかけるべきではないかとか、そういったことがミツルギの頭によぎった。ミツルギは、自分のことを棚にあげた。


 木の葉のように舞い、攻撃をかわしつつ護衛を倒してゆく猫耳女。独りでも勝てるという勝算があったらしいことを確認したミツルギは、しばらく様子をみることにした。


 人数差を立ち回りでカバーしてはいるが、長引けば猫耳女の勝算はなくなりそうに見える。


 ミツルギには、これも一種の内輪もめに見えるはずだった。この世界の者がこの世界の者を襲撃しているのだから、そのはずだった。それなのに、ミツルギは猫耳女のほうに加勢しようかと思い始めていた。


 不思議だ。


 しかし、ミツルギは隠れるのがうまいわけではなかった。加勢するまでもなく、襲撃者の仲間を警戒していた護衛に、ミツルギは見つかってしまった。


「やはり仲間がいたか!」


 猫耳女を包囲しつつあった護衛たちの一部が、ミツルギを見た。


 ミツルギはごく当たり前のように殺意をぶつけることにした。

 抜刀。

 そして夜が舞い、血が空中に線を曳く。


 ミツルギが参戦してから数十秒で、戦闘は終了した。皆殺しではなかった。

 猫耳女が商人の男を確保していたのだ。


「こいつには情報を吐かせるのにゃ」


 猫耳女は言った。


「それにしても、ミツルギ。こんなに早く再会するとは思わなかったにゃ」


 奴隷の詰められてた檻を破壊しつつ、猫耳女はそういった。


「俺も思わなかった」

「縁があるのかもしれないにゃー」


 猫耳女はニンマリとした笑みで言った。

 ミツルギは、そこに狂気を見た。二人はよく似ている。


「今回の援軍は借りにしておくにゃ。私はこの子達を帰すにゃ」


 手際よく、慣れた様子で鎖やくつわを外しながら、猫耳女は続けた。


「この先、私たちを狩る王剣が居るにゃ。

 本人は嫌そうだけど、逆らえないのは知っての通りにゃ」


 猫耳女は、食料を掻っ攫うミツルギを見た。


「だから私は最近の活動がこんなことばっかりになってるにゃ」

「そうか」

「『隷従の魔術』はどこかに原典があるはずなのにゃ。見つけたら教えてほしいにゃ」

「注文が増えたな」

「これは取引じゃないにゃ。お願いにゃ」


 ミツルギは隷従させられている者たちを見た。不思議と、殺意は沸いてこなかった。


「わかった」


 ミツルギの返答を聞いた猫耳女はニンマリと笑った。


「カフェにゃ。私の名前にゃ」


 猫耳女、カフェはそういって右手を差し出した。握手しようということだった。


「ミツルギだ」


 ミツルギはカフェの手を取らなかった。

 知ってるにゃ、とカフェは笑った。




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