帝国の王剣6
ミツルギの刀がサカノウエに迫る。
しかし、刀は空を斬った。
斬撃が繰り出される一瞬前、サカノウエはミツルギの間合いから逃れていたのだ。
恐ろしく早い行動だった。
「なに……!?」
ミツルギは初めて攻撃をかわされて動揺した。
そこへ音速でナイフが迫る。
とっさの『瞬間装甲』!
ナイフは弾かれた。
サカノウエは一瞬目を細めると、次々にナイフを投擲し始めた。
再び『瞬間装甲』!
ナイフは弾かれていく。
しかし、これではミツルギも動けない。
ではナイフが尽きるのを待てばよい、と通常であれば考えるのだが、サカノウエのナイフは尽きることの無い魔具だ!
十秒ほど、ナイフの雨がミツルギを襲い続けた。
『瞬間装甲』ではダメだ。守れはしても、倒すことができない。
しかし、打開策が思いつかない。
さらに十秒ほど、ナイフの雨がミツルギを襲った。
徐々に『瞬間装甲』の反動が出始めている。
ミツルギの体が硬直してきているのだ。
だが、どうすればいいのか、ミツルギには打開策がない!
さらに十秒ほど、ナイフの雨がミツルギを襲う!
飛来するナイフを刀で斬れないだろうか?
しかし、それには『瞬間動作』が必要だ。
投擲の瞬間に発動して、一つ斬り落とす。そして次はどうする?
『瞬間動作』は連続発動できない!
万策尽きたか。ミツルギはこのまま硬直して死ぬのだろうか?
「魔法を越えろ! ミツルギ!!」
レスターの声が雨音に混じってミツルギに届いた。
魔法に頼るのではなく、道具の一つとして扱う……。レスターの教えを、ミツルギは思い出した。
『瞬間動作』!
ミツルギの刀がナイフを斬り落とす。半歩、ミツルギは前進した。
次のナイフがミツルギに迫る。
『瞬間装甲』!
ミツルギは硬直し、ナイフは弾かれる。
十秒ほど、ナイフの雨がミツルギに振り注いだ。
サカノウエはナイフを雨のように投擲し続けている。一瞬でも投擲をやめれば、ミツルギの刀が自身を捉えるという予感が、彼の中にあった。
再び、ミツルギの刀がナイフを斬る。半歩、ミツルギは前進する。
そして硬直すると、ナイフが弾かれる。
じわじわとミツルギが迫っている。
選択を誤ったか?
攻撃動作を見切って、ヒットアンドアウェイに徹すればよかっただろうか?
サカノウエは考える。
ナイフは閃光のように廊下に幾条もの光を曳いている。
それらは弾かれる時、火花を散らせて消える。
まるで花火のようだ、とサカノウエは思った。
いつか夏祭りで見た、夜空を飾る花火だ。
打ち上がった閃光が弾けて、夜に華を咲かせる。
ミツルギがナイフを斬る。半歩進む。
再び硬直。
いくつもの花火が上がる。
夏祭りの光景が、サカノウエの脳裏を駆ける。
サカノウエは思い至った。これは走馬灯か、と。
このままでは死ぬ。いつの間にかサカノウエとミツルギの立場は逆転していた。
しかし、サカノウエは既に全力でナイフを投擲している。下手に距離を取ろうとすれば、その隙を突かれかねない。
夜に吸い込まれるように、花火が消えていく。
一緒に見ていたのは誰だったか……。
あの日の花火の、なんと美しかったことか……。
サカノウエの瞳に、人生への感動が戻りつつあった。
「ミツルギ」
ナイフを投擲しながら、サカノウエは語りかけた。
「お前は『隷従』していない。でなければ、主である王を殺すことなどできない」
ナイフとともに到達した言葉は、ミツルギに衝撃を与えたが、『瞬間装甲』の硬直が結果的に致命的な隙を生まなかった。
「王剣は主たるものを害せ無い。その所有物……王剣もだ。王命も無しに害せるのはお前だけだ。お前だけが王剣を殺し、その主さえ消し去れる……」
ミツルギはサカノウエの言葉と聞きながら、半歩進んだ。
「殺せ。すべての王剣を。それだけが私達の希望だ」
サカノウエはミツルギを見た。
その距離はすでにミツルギの間合いだ。
「……言われなくとも、この世界はすべて殺す」
ミツルギは言うと、サカノウエの首を斬った。
割れた窓から吹き込んだ雨が、血を洗い流していた。
帝国の王剣―終―




