表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/28

帝国の王剣5


 ミツルギは暗く雨に沈んだ王都を走っていた。

 降り注ぐ水滴が夜色の外套を打つ。


 明かりの無い夜に、暗い水滴が満ちる王都。夜色の外套を着たミツルギは完全に姿を消してしまっていた。

 それはもはや、ミツルギ本人でさえ、自分がどこに居るのかわからないほどであった。


 そして実のところ、ミツルギは自分がどこに居るのかわからなくなっていた。


――俺はどこに居るのだ……?


 ミツルギは自分という存在が夜に溶けて消えていくような感覚を味わいながら走る。


 果たして本当に走っているのだろうか?

 その歩みを進める力はなんだろうか?


 ミツルギは不意に空を見上げると、建物が邪魔に感じた。空が狭い。


 跳躍。

 屋根に飛び乗ると、視界は広がった。

 しかし、ミツルギを溶かす夜もより深くなった。


――俺はどこにいるのだ……?


 ミツルギは『察知』を使い、レスターの位置を察する。

 目的地はそこのはずだ。

 しかし、自分がわからない。


 何のために行くのか。

 何故行くのか。


 ミツルギに答えはない。


――俺はどこに要るのだ……?


 ミツルギはレスターの居る方向を見る。

 暗い夜闇の中で、ギルド二階の廊下だけがぽっかりと照らされて見えた。





 サカノウエの宣言は慈悲だ。

 これを聞いた者はその身に何が起こるのかを知ることが出来る。


 わけもわからないまま召喚されたサカノウエと違い、すべてを奪われることを知れるのだ。


 サカノウエはナイフを投擲する。


 音速で到達したナイフはレスターに突き刺さった!


「チッ……」


 筋肉がナイフを食い止めている。恐るべき筋肉であった。


 二本目のナイフを投擲する。

 音速で到達したナイフはレスターに突き刺さった。


 いくらレスターが筋骨隆々の冒険者であっても、ミスレイが受けた時よりさらに近距離から放たれる音速のナイフはどうにもできない。


 ただ今度は舌打ちしなかった。

 脳裏に、ミスレイの背中がよぎったからである。

 また舌打ちして、魔獣のときと同じ光景を見るのは避けたかったのだ。


 三本目のナイフが突き刺さる。


 恐るべき速度。

 恐るべき威力。


 レスターはもう立っているのがやっとになっている。

 しかし、急所は剣で守ったままだ。


 レスターの剣はブレない。信じがたい精神力が、剣を支えきっている。

 その剣が守っているのは自身の命だけではない。それをレスターは理解しているのだ。


 だが、もう限界である。そもそも剣で防げる範囲は限られているし、防ぐだけでは勝てない。


「すまんな……」


 レスターが呟くのと、サカノウエがナイフを投擲するのが同時だった。


 瞬間、窓を叩いていた黒い雫が勢いを増した。

 いや、これは雫ではない。

 夜が窓を叩き破って侵入してきた。


 黒い髪、黒い瞳、夜色の外套……。ミツルギだ。


 左手で持った鞘が、空中にあったナイフを弾き飛ばした。


 サカノウエは再びの乱入者にも動揺せずに構えた。

 彼にはもう、動揺するような心がないのかも知れなかった。


「少年……。ミツルギか?」


 サカノウエは目の前に現れた、明らかに異世界人に見える少年に言った。


「ああ、お前は何だ?」


 ミツルギとサカノウエは一定の距離を保って向かい合った。


「フルメン帝国王剣、サカノウエだ……ミツルギ、お前を殺す」


 サカノウエは宣言した。

 これもやはり、慈悲だ。しかし同時に懇願でもあった。


 殺すと宣言することで、殺されても仕方がないと宣言したのだ。


 ミツルギは抜刀した。

 光さえ斬り裂いて反射しない、漆黒の刃がその身を晒す。


「死ぬがよい」


 ミツルギは宣告した。


 異世界人同士の死闘が始まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ