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帝国の王剣3


 最後の密偵を斬り伏せたミツルギは、一人で月を見上げていた。


 頭の中にはレスターの後ろ姿がフラッシュバックしている。


 逃がしてよかったのだろうか?

 レスターはある意味で恩師になった。しかし、復讐の対象でもあったはずだ。

 追って殺すべきか?

 ならば逃がした意味はなんだ?

 そもそも、殺すつもりなら、もっと早く殺せた。


 ミツルギは正解がわからない。


 血にぬれた森の中で、ミツルギはしばし逡巡していた。


 ミツルギは既に多くの者を殺している。

 今更どうして他人と関われる?

 人殺しの復讐者が、善人面で友人を持つのか?


 ミツルギは自分の手を見た。

 おびただしい血がついている。森で、王城で、そして地下室で浴びた血と、浴びなかった血だ。


 ふいに、左手首で銀が光った。

 レスターから贈られた偽装の腕輪だ。


 ミツルギには魔具の価値はわからない。しかし、この贈り物の有用性は試さずともわかる。

 これさえあれば、ミツルギは人里に入って食料を頂くこともできるのだ。


 お礼にと贈られた物ではあるが、ミツルギにしてみればお礼をされる謂れはない。


「お礼……」


 ミツルギは呟いた。

 そんなものを貰う謂れはない。だが、施しを受ける謂れもないのだ。


 レスターはミスレイとかいう女を守るために行った。

 しかし、相手が今ミツルギの相手にしていた密偵と同等であるとすれば、危険だ。


 ミツルギはレスターの去った方向を見る。


「悪人でも、義理を果たすくらいはするだろう……」


 呟きは誰に聞かせようというのか。

 ミツルギは歩き出した。


 向かうのは王都、冒険者ギルドである。





 サカノウエは冒険者ギルドの前に降り立った。

 彼は暗殺者ではない。

 任務が暗殺じみたものであったとしても、屋根を飛び移って移動していても、目的の建物には正面から入る。

 それが彼の流儀だった。


「失礼する」


 一言断って、サカノウエはギルドの正面玄関を開けた。

 入ってすぐはエントランスホールである。

 その奥には中央受付。

 未だにパジャマ姿の職員が居るのが見えた。


 深夜に異様な装束で現れた男に、人々の視線が集中する。


「な、なんだあいつ」

「うぅ、ど、どっちだ? 見えん」

「ナイフだらけだ。長剣二本もなにに使うんだか……」

「冒険者か?」


 ひそひそと話す声を一切無視して、サカノウエは中央受付へ向かった。

 任務が暗殺じみているとは言え、力に頼って正面突破するほど彼は愚かではない。


「ギルド長に面会したいのですが」


 サカノウエは用件を端的に述べた。

 恐るべき提案である。


 もし受諾すれば、そのまま暗殺任務が遂行されるのだ。

 しかも、それを助けてしまう人間はそのことに気付いていない!


「面会予約はありますか?」


 パジャマの受付嬢は一枚の紙を取り出しつつ言った。


「いや、予約はないが、これでなんとかならないか?」


 サカノウエは懐から雷と剣の意匠が施された小さなメダルを取り出すと、受付嬢に見せた。

 フルメン帝国の王剣であることを示すメダルである。


「そ、それは……」


 受付嬢は真っ青になった。


「少々お待ちください。ただいまギルド長は面会中でして……」


 受付嬢は必死な顔でサカノウエに説明を始めたが、彼は聞き流した。


「二階の応接間だな?」


 サカノウエはそのまま階段に向かって歩き出した。

 あわててギルドの職員が上階に走り、受付嬢は受付から出てサカノウエを止めようとしたが、自身が未だにパジャマであることに気がついて戻った。


 サカノウエを止めるものはない。


 強引であるが、武力による突破でない以上、ギルドも武力で止めることが出来ず、ついにサカノウエは二階に到達した。


「この時期に帝国の王剣が御出でとは。一応用件を伺っておこうか?」


 二階の奥、廊下の突き当たりにはミスレイが立っていた。ギルド職員からの報告を受けて、とっさに応接室から出たのだ。素早い判断である。


 サカノウエは記憶していた人相と一致することを確認した。


「グランド王国冒険者ギルド、ギルド長のミスレイだな?」

「そうだ」


 空気が張り詰める。

 地上を照らす月光はすでに遮られて外は暗い。ギルドの廊下は照明の魔具が照らしているとはいえ、重苦しい空気が実際よりも廊下を暗く感じさせた。


「お前を殺す」


 サカノウエが宣言した。

 夜空を隠す暗雲が、暗い雫生んで、ついに窓を叩き始めた。



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