王都の冒険者4
太陽が傾き始めた頃、王都の北側外壁で鐘楼がけたたましい音を鳴らした。
大通りには昼ごはんを食べ終えた人々に溢れている。
「ウソ……」
誰かの呟きはしかし、ことのほか大きく響いた。
知らず、誰もが後ずさりした。
鐘楼の鐘は魔獣襲撃の合図なのだ。
「ま、魔獣だ……! 魔獣が来たぞ!」
人々は口々に叫びながら走り出した。
逃げようとした人が、他の誰かを突き飛ばす。
突き飛ばされた人は転び、それにつまずいた人がまた転んだ。
しかし誰も気に掛けはしない。
いまや王都は大混乱であった。
「ど、どこに逃げればいい?!」
走り出した男が言った。
自分がどこへ向かっているのかわかっていない。
「王城に避難……あ……」
避難場所を把握していた別の男が答えようとして詰まった。
二人は正面を見る。
そこには未だに燃え盛る王城跡があった。
「ど、どこに逃げればいい?」
二人はもう走ってはなかった。
「だ、旦那!」
冒険者ギルドに駆け込んできた男は、レスターを見つけるとあわてて駆け寄った。
「あ?」
レスターは威圧した。彼は筋骨隆々だ。
「ひっ……」
男はぶるぶると震えだした。
「報告ってのはよぉ……落ち着いて行うもんだ。違うか?」
「す、すんません……」
「魔獣か」
「へ、へい」
レスターは男から視線をはずと、隣で聞いていたミスレイを見た。
「急ぐとしよう」
「間に合ってねぇけどな」
ギルドの外では鐘の音が響いていた。
「北だな……」
日の光を受けて赤黒くぎらりと光る獣が外壁に突撃した。魔獣だ。
激しい破壊音!
外壁担当だった兵士の一人は衝撃で落下した。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
無残。
地面に叩きつけられる。
赤黒い魔獣が空に吠える。
それに呼応して三匹の魔獣が吠えた。
犬のような、猿のような姿だった。人間の三倍ほどの大きさを誇り、赤黒い毛皮が全身を覆っている。
青白い光を灯した瞳がギョロギョロとさわしなく動いている。
目を合わせた兵士の一人が気絶した。
たった四体の魔獣!
しかしその脅威は王都を震え上がらせるほどなのだ。
「き、騎士団は……」
兵士の一人が縋るように隣の男を見た。
北側外壁を担当する兵隊の隊長である。
彼は黙って頭を振った。遥か後ろでは王城が燃えている。
騎士団は全滅している。一体誰がそんなことを!
ミツルギだ。
本来魔獣対策に召集されていた王剣を皆殺しにしたのもミツルギだ。
ミツルギによって殺された者達が防ぐはずだった脅威が今、王都に迫っているのだ。
彼は今、路地をうろうろとさまよい、熱に浮かされるように獲物を求めていた。
不思議と誰にも遭遇しない。
いや、避けている。
『空間把握』と『察知』の魔法があれば、不意の遭遇などない。
獲物を求めながらそれを避けている。
「壊す……何を……何を壊すのだ……」
ミツルギはもう、何が自分を突き動かしているのか分からなかった。
路地道をズルズル進む。その先にあるのは王都北側外壁だった。