気ままにもしも話 もしもカエデが競走馬であったなら……
本日2話目です。
ほぼ会話のみの構成であり、一つ前の話を読んでいないとタイトルからしてつながりません。
「さぁ、やってまいりました!記念すべき第100回、超東京優駿……スーパーダービーです!」
「実況は私、実況・大好きです!解説は元ジョッキーで、このレースを制したこともある、小田部・ユッキーさんです!」
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします!さて、今回のレースはどうなるでしょうか、早速解説をお願いします」
「そうですね……なんといっても注目すべきは、前走を快勝した、サンカンカチタイ、でしょうか」
「現在の一番人気ですね!サツキデ賞では豪快に差し切りましたね」
「はい、この馬が勝利に一番近いのでは、と思います」
「そこまでですか!」
「ここまで無敗であり、1頭を除いて残りの馬はサンカンバーに負けていますしね。見た限りでは毛艶もよく、状態も良さそうですし、何より調教が抜群でした」
「調教では同じ厩舎のクラシック三冠馬、キンザイクシに首差先着していますね」
「ええ、調教での事とはいえ、キンザイクシは現在最強馬と言われていますからね。それだけに期待が持てます」
「なるほど~、他に対抗馬を教えてください」
「そうですね……まずはシルバーコレクター、次にガイコクセン、続いてタズナといったところでしょうか」
「シルバーコレクターは昨年のアサヒノ杯と前走のサツキデ賞で2着馬ですね。いずれも1着はサンカンバーですね」
「はい、現在サンカンバー以外には負け無しですね。それだけに連続で3回も負けていられない、と陣営と共に打倒サンカンバーに燃えています……最も、2度あることは3度ある、との言葉もありますが」
「ははは、続いてガイコクセンについてお願いします」
「ガイコクセンはこの世代の牡馬において、2頭しかいないG1馬の内の一頭ですね。サンカンバーの出走していなかった、SMマイルの勝ち馬です。この馬は叩き合いになると強いですね。寧ろムチで叩かれるのが大好きな馬です。叩かれないと走りません」
「実績は十分ですが、とても変態な馬ですね。お次のタズナはどうですか?」
「タズナはサツキデ賞のトライアルでサンカンバーに負けていますね。その影響かはわかりませんが、陣営はサツキデ賞を回避しました。その後、スーパーダービートライアルで、最後方からの全頭ごぼう抜き、と言う素晴らしいパフォーマンスでスーパーダービー権利を勝ち取りました。切れ味ではサンカンバーを上回るでしょう……ただ、末脚が爆発しなければ勝ち目は無いでしょう」
「なるほど、なるほど……これら以外に来るとすればどの馬でしょうか?」
「そうですね……カエデ、でしょうか」
「数年ぶりの牝馬の参戦で話題になりましたね」
「ええ、でも実力派はあります。今回のメンバーで唯一サンカンバーとの対戦がなく、今日まで無敗です」
「サンカンバーとの対戦がなかったからだ、との声が多いですが、この馬も立派なG1ですね。オウカノ賞の勝ち馬です」
「さらに言えば、今回のメンバーの中で一番レースを経験しています。9戦9勝の成績でのスーパーダービー参戦は、幻の馬と言われたトキガミエル以来です」
「60年以上前まで遡るんですね……しかし、この成績に対してもファンの一部からは『所詮は牝馬』と評価する人もいます」
「ですがサンカンバーと違い、そのほとんどが重馬場、もしくは不良馬場での勝利です。それ故に良馬場の今回はカエデの真の実力が発揮されるのでは?と考える人達ももいるようです……まぁ、その逆で、重馬場しか走らない、との可能性もありますが」
「そうですね……その他の馬はどうでしょうか?」
「無理ですね」
「無理ですか……」
「はい、無理です!」
「単勝オッズでも、その5頭以外は軒並み百倍を超えていますね……最低人気に至っては千倍を超えています」
「オッズがおかしい事になっていますね……かなり適当です」
「まあ、それは仕方がないでしょう。あっ、ユッキーさん!ゲート入りが始まりましたね、いよいよです!」
「正直、名前を上げた馬以外は棄権していいと思いますけどね……邪魔ですし」
「それは仕方がありませんよ……邪魔ですけど、5頭ではレースが成立しませんし。ここは一つ、枯れ木も山の賑わい、と割り切って我慢しましょう」
「そうですね」
「あっ、今スターターが旗を振りました。競馬場にファンファーレが鳴り響きます」
「各馬順調にゲートに入っていきますね……あっ、カエデがゲート入りを嫌がっています」
「いつものことですね。ユッキーさん」
「ええ、いつものことです。鞍上のシノブ・カンザキ騎手は、初めてこの馬を見た時、牡馬だと勘違いして股の間を確かめたそうです」
「そのことでシノブジョッキーはカエデに蹴られたそうですね!」
「ええ、たまたまその場に居合わせたのですが、人とはそこまで飛べるものなのか!と驚いたのを覚えています」
「シノブジョッキーに怪我がなくてなによりでした。あっ、カエデはゲートに無事入りましたね……しかし、かなり嫌がっていたので、カエデは内枠から大外枠に変更されました」
「観客席からは怒号が響き渡っていますね」
「ええ、ですがカエデがゲート入りしたので全馬揃いました。今、係員が離れます……スタートしました!」
「カエデは出遅れましたね」
「カエデが大きく出遅れています。好スタートはサンカンバー、早くも逃げの体勢に入りました。続いてシルバーコレクター、いつもより前での競馬です!その後に駄馬1、2、3、4、5、6と続きます!」
「邪魔ですね」
「はい邪魔です!その後にガイコクセン、これはいつもの位置で走っています!」
「前を見て競馬していますね。いい位置だと思います」
「それから、駄馬7、8、9、10、11、12、13、14です……邪魔なので消えてください!」
「同感ですね」
「さらに、そのすぐ後ろ、これも注目の1頭、タズナがいます。内にいる駄馬15、16と並んでおります」
「ここはタズナの定位置ですね。しかし、そろそろ動かないと厳しいかもしれません」
「現在千mを通過、タイムは……1分5秒!これは遅い!」
「皆サンカンバーの戦術にハマりましたね」
「これは前残りの展開か!……あっ、タズナの後方にカエデがいます!これは無理そうだ!」
「どうやら、カエデは重馬場でしか走らないようですね……シノブジョッキーも諦めているようです」
「全然動きがありませんね……あっ!タズナの手綱が動きました!早くもスパートかっ!」
「タズナの手綱って……大好きさん、洒落ですかwww」
「仕方がないでしょう!そんな名前なんだから!タズナの動きに合わせてガイコクセンも動き出した!」
「ガイコクセンにしても、今ここで動かないと勝ち目がないですからね」
「前との距離が詰まってきたー!先頭はサンカンバーだーー!ここで各ジョッキーの手が激しく動く!最後の直線五百m……」
ズドン、ドゴン、バコン
「「「ブヒヒーーーン」」」
ズゴン、ドゴン、バコン
「「「ブヒヒーーーン」」」
ズゴン、ドゴン、バコン
「「「ブヒヒーーーン」」」
ズゴン、ドゴン、バコン
「「「ブヒヒーーーン」」」
ズゴン、ドゴン、バコン
「「「ブヒヒーーーン」」」
「な、な、何事だぁーーー!う、馬が……駄馬達が宙を舞っているぅーーー!」
「駄馬は全頭飛んで行きましたね」
「何があったぁーーー!……あれはっ!カ、」
「カエデですね。彼女が駄馬を全頭吹き飛ばしたようです」
「……ま、」
「前の5頭も異変に気づいたようです。必死になって逃げています、カエデから」
「……あ、」
「あっ、タズナ犠牲になりましたね。せっかく末脚を爆発させていたのに」
「……こ、」
「今度はガイコクセンが飛んで行きましたね。怪我がないといいんですが……」
「……し、」
「シルバーコレクター危ない!……南~無~」
「私の仕事を取らないでっ!」
「あっ、すいません。最後はお譲りします」
「ゴホンッ、最後に残ったのはサンカンバーだーー!逃げ切れるのか、サンカンバー!追いつくか、カエデ!今、坂を上り終えて5馬身の差っ!これは無理か、カエデ!」
「あれ?」
「どういうことだ!カエデが急に暴れて……前のめりに落ちそうになったシノブジョッキーを咥えたぁーー!そして、投げたぁーーー!」
「シノブジョッキーがサンカンバーに命中しましたね!」
「バランスを崩して失速するサンカンバーーーー!そこに、容赦の無い、カエデの、体当たりだーーー!」
「サンカンバーも沈みましたね!」
「さらに宙を舞っているシノブジョッキーも撥ね飛ばしたーーー!」
「一番力が入っていたように見えますね」
「そのまま独走でゴォーーーーーーーール!!」
「終わってみれば、カエデの圧勝でしたね!」
「これは歴史に残るレースだーーー!」
「電光掲示板にはカエデの馬番しか載っていませんね!」
「そして今、確定のランプが……つきませんね……と言うかつくわけ無いか!」
「ええ、全頭失格の無効レースですね」
「しかし、カエデは勝手にウイニングランをしております」
「観客からは怒号と共に、色々な物が投げ込まれていますね」
「それでもカエデは動じていませんね……そろそろ放送時間の終わりが近づいてまいりました……実況は実況・大好き。解説は小田部・ユッキーさんでお送りしました。なお、レース結果につきましてはNKK、なろう競馬協会の発表をご覧下さい。それではさようなら!」
「さようなら」
プツンッ
まずは、ごめんなさい!調子に乗りました!
日本ダービーをヒントに、深夜の悪乗りをした結果がこれです。
笑って許して下さい……